先日書いた低炭水化物ダイエットの記事の中で「エビデンス」の話をしたところ、そもそもエビデンスとはなんなのかという声をいただきました。

そこで今回は、医学情報の質を担保するこの「エビデンス」について、医学になじみのない方でもわかるよう簡単に解説したいと思います。

目次

研究の質を高めるには?

医師の手

しかし、これらのエビデンスもまだ完全ではありません。

「症例報告」であれば、「その患者さんにだけ、たまたまその治療法が効いたのではないか」という問題があります。症例を集めて「前後比較」を行えばある程度は払拭されますが、「その治療法じゃなくても治っていたのでは?」という疑問は残ります。対照群と比較すればその治療の優位性を示すことはできますが、そもそも「よく効いた患者さんだけ選んで報告しているのでは?」という批判を完全にはねのけることはできません。

また「長い目で見たときにどうなのか」という点も気になります。治療でよくなってもすぐに再発してしまう、というのでは困ります。

これらの問題を払拭すべくデザインされているのが「コホート研究」と呼ばれる研究です。

「コホート」とは、「A町の住民」や「A病院のBという病気の患者」など、あらかじめ限定された特定の集団のことです。

特定の集団について長期間にわたって調査を続ければ、どんな条件を持った人が病気になりやすいのか、特定の病気がどんな治療でどんなふうに推移していくのかなど、長期的な視点で結果を出すことができます。

あらかじめ結果がわからないため、対象となる集団を選ぶ際のバイアスも小さくなります。

また、研究の対象となる集団を母集団からランダムに選定したり、治療をする患者(治療群)/しない・または別の治療をする患者(対照群)の選定をランダムに行った場合、バイアスはさらに小さくなります。

このような研究を「ランダム化比較試験」と呼び、単独の研究としてはもっともエビデンスレベルが高いとされています。

そして最後に、エビデンスレベルがもっとも高いとされているのが、たくさんの「ランダム化比較試験」を総合、比較して分析した結果得られた知見です。このような分析を「システマティック・レビュー」とか「メタアナリシス(メタ解析)」と呼びます。質の高いエビデンスを集めて得られるエビデンスですから、基本的にはこれに勝るものはないわけです。

巷の健康知識にエビデンスはあるか?

悩む女性4

さて、こうしたエビデンスのレベルを意識してみてみると、巷で話題になる健康知識にもピンからキリまであることがわかります。

たとえば、冒頭の「血圧を下げるためには塩分を控える」という話は、1997年に発表されたIntersalt研究という10,000人もの患者を対象とした大規模研究や、減塩による降圧効果を先の「ランダム化比較試験」で証明したDash(Dietary Approaches to Stop Hypertension)研究など、これまでのエビデンスの積み重ねを背景としています。これはれっきとした、エビデンスのある治療です。

炭水化物制限ついては、減量に効果があるという報告がある一方で、糖尿病のある患者さんの場合は死亡率が上がるという報告もあり、誰がどのように活用するのが最適かはまだはっきりとはしていません。定説とまでは言えないものの、一定のエビデンスはあるというのが現状です。

一方で、世にあふれている「○○ダイエット」の類には、あまり根拠が示されていないことが多いようです。

話だけ聞くとそれらしいし、「本当にやせた!」という体験談もあったりするのですが、「たくさんの人に、実際にやってみてどうだったか」の検証が伴っていなければ信頼度は低いですし、先に説明したような「バイアス」がかかっている可能性も十分に考えられるわけです。

まとめ

今回は、医学的な知識の背景にある「エビデンス」についてざっと紹介しました。

世の中には健康にまつわる知識があふれかえっていますが、それらが本当に正しいのかどうかは常に吟味しなければなりません。

ネットで出会った健康知識を見て「これ本当かな?」と思ったときは、もう一歩踏み込んで、そこに質の高いエビデンスがありそうかどうか調べてみることをおすすめします。