夏休みに入り、アウトドア活動を計画されているご家族も多いことが想像されます。海や山などの大自然の中で時間を過ごすことは、家族にとって忘れられない経験になると思います。しかしその一方、思いがけずに怪我に見舞われることもあります。今回は、不意の怪我に遭遇した場合の対処方法を述べたいと思います。

目次

野外活動に付きまとう怪我の危険性

毎年厚生労働省から発表されている「国民衛生の動向」を紐解くと、乳幼児期における「不慮の事故」は各世代における死因のうち、先天性疾患や周産期に伴うものを除くと第1~2位を占めるほどの影響力を持っています。

ここで報告されている不慮の事故には、必ずしも野外活動に関連したものだけが含まれているわけではありませんが、毎年のようにお子さんが野外活動を通してお亡くなりになっている、もしくは救急搬送をされているというニュースが報道されています。そのため、「不測の怪我」というのは、誰にでも起こりうることとして、自分自身の問題として捉えることが重要です。

特に休日中の外での活動ということで、お子さんはもちろんのこと、お父さん・お母さんも普段とは違い気持ちが高まっていることと思います。羽目をはずしてまいがちな状況でありますが、自然の中には日常では考えられない危険があることを忘れないようにしましょう。

不測の事態を予測する

水辺で遊ぶ子供-写真

怪我が起きる状態というのは、あらかじめ予測ができることも多いです。そのため、行き先に応じて起こりうる事故を想定し、怪我を引き起こしうる状況を予め避けるようにすることも大切です。

例えば、海に行くのであれば「離岸流(りがんりゅう)」というものがあることを知るのも大切です。離岸流とは、水の流れが岸から沖に向かって流れることを指します。離岸流の流れはとても速く、大人であっても簡単に沖に流されることが知られています。目的地の海が離岸流の発生地域ではないかを確認することや、遭遇した場合の対処方法を知ることも大切です。離岸流に遭遇した場合は、岸に向かって泳ぐのではなく、岸と平行に泳ぐことで離岸流から逃れることが推奨されています。

その他、山であれば「スズメバチ」や「やけど虫(アオバアリガタハネカクシ)」、「熊」など、人に被害をもたらす虫や動物と遭遇することも考えられます。スズメバチは夏場にも活発に活動をしますし、アナフィラキシーを引き起こし緊急に治療を行うことが必要になることもあります。やけど虫も同様に夏場に活発になり、触れるとやけどを起こしたような「線状皮膚炎」という皮膚症状を呈します。多くの昆虫と同様光に集まる習性があるため、野外キャンプなどでライトを使うときには注意が必要です。

行き先に応じてどういったリスクがあるか、想像を働かせることが重要です。また、どこに医療機関があるか、予め検索しておくことも必要でしょう。

こんなときにどうする?

次に、野外活動で生じうるありふれた状況に応じて、それぞれどういった対応をするか記載します。

1.ハチに刺された!

山に行くと、人が踏み入れない場所などにハチが巣を作っていることもあります。スズメバチを含むハチに刺されると、針が皮膚に残っている場合があります。針には毒が付いており、上手に針を抜かないと毒が体内に入ってしまいます。それを避けるために、クレジットカードなどの硬いものを使用して、根っこの部分から針を抜くようにしましょう。針を抜いたあとは刺された部位をしっかりと洗い流し、濡れタオルなどで冷やすようにしましょう。

ハチの針を除去する方法-図解

ハチに刺されたことで、アナフィラキシーショックを起こすことがあります。呼吸困難や唇の腫れなどを見る場合には、緊急に医療機関を受診するようにしましょう。

2.手や目を傷つけた!

切り傷が生じた場合に気を付ける点は、出血と感染の二点です。出血が続くような傷の場合、傷の部位をタオルなどを用いて圧迫して止血することが必要です。

野外活動においては、木の棒や石などで怪我をすることも多いでしょうから、ばい菌が入り感染を起こすリスクが高まります。出血が止まったことが確認した後は、流水を用いて患部を洗い流すようにしましょう。また、見えない部位に木の破片などが傷口に残っていると、時間がたった後に化膿してくることもありますので、状況によっては後日医療機関を受診するようにしましょう。

また、目に木の棒が入ることもありえます。目に対しても感染が生じるリスクがありますので、まず第一に流水で目をしっかり洗い流すことが肝要です。痛みが持続する場合、涙が止まらない場合、まぶしさを訴える場合など、目に関しての症状が続くようであれば、合併症が生じる危険もあります。濡れタオルで患部を圧迫しながら、医療機関を受診しましょう。

3.やけどをした!

野外キャンプなどの状況においては、バーベキュー中にやけどをすることもあるでしょう。やけどに対しては患部を冷やすことが先決です。

この場合、氷で直接冷やすと氷がやけどを起こした皮膚に張り付いてしまい、皮膚の状態が悪くなってしまいます(氷を食べた時に舌に張り付く感じを想像ください)。そのため氷を使用する場合でも袋などに入れて皮膚に直接当たらないようにするか、もしくは流水を用いて10分以上冷やすようにしましょう。この際、服を着ていたとしても脱がせるのではなく、冷やすことを第一優先にしましょう。

皮膚が赤い程度であり面積も広くないのであれば、必ずしも医療機関を受診する必要はありません。しかし、水ぶくれができてめくれてしまっている場合、面積が広範囲にわたる際には医療機関での治療介入が必要です。冷水で冷やしながら、受診可能な医療機関を検索しましょう。

4.足をひねった!

トレッキングの途中などでは、不慣れな靴やでこぼこ道などで足をひねることもあるでしょう。整形外科的な怪我に対しての応急処置の基本は「RICE」です。これは、①Rest(安静)、②Icing(冷却)、③Compression(圧迫)、④Elevation(患部の挙上)、のそれぞれの頭文字をとったものです。

RICE処置の方法-図解

足をひねったときはもちろん、打撲などの場合においても、まずは怪我をした部位を動かさないようにすることが必要です。その後、安静状態を取りながら患部を冷やし、タオルなどで圧迫しましょう。患部を心臓の高さよりも上げることで、怪我をした部位へ血流が不必要に流れ込むのを防ぐことができます。

捻挫や打撲の場合、こうした処置で症状が改善することが期待できます。しかし、骨折が生じていることや、時間経過とともに患部が変形することもありえますので、早い段階で医療機関を受診しましょう。

5.熱中症になった!

遊びに夢中になると、水を飲むのも忘れてしまうことがあります。しかし、夏の暑い日に適切に水分を取らないと、熱中症になってしまうこともあります。熱中症では意識がボーっとしますし、手足の震えなどを訴えることがあります。

熱中症の症状が疑われる場合には、可及的速やかに木影などで身体を休めつつ水分摂取をするように促しましょう。首や脇などを、冷たいタオルで冷やすことも効果的です。

意識状態が改善しない場合には、医療機関での治療が必要になります。身体を冷やしつつ医療機関を受診するようにしましょう。

6.よくわからないものを食べた!

野外活動に限らず手に届くものを口に入れて飲んでしまう事故は、幼児期を中心に日常生活でもよく経験されることです。食べてすぐに気をつけるべきは、誤嚥をしていないかどうかです。特に木の実などを食べたりすると、大きさによっては気道に詰まってしまい呼吸が苦しくなってしまうこともあります。呼吸が苦しそうな様子があれば、身体を下向きにして背中を叩いて吐き出すように促す必要があります。

また、呼吸状態に問題がない場合においても、毒などをもっているものを誤って摂取してしまうこともあるかもしれません。子どもが誤飲するのは、どれだけ気をつけていても起きてしまう事故です。予期せず何かを摂取して何を取ったか判らない場合は、早め早めに日中のうちから病院を受診することを検討しましょう。

まとめ

以上、野外活動における不測の事態について概説しました。冒頭で述べたとおり、外で遊ぶ際には誰にでも起こりえるものばかりです。不測の事態に遭遇すると、人間誰しも慌ててしまうのは当然でありますが、事前の調査で対処方法をシミュレーションすることで、とっさの自体での混乱をある程度軽減できます。本記事を通して、少しでも予防策・対応策について考えていただけるきっかけとなれば幸いです。