目の前で人が倒れたとき、その方の命を救える可能性が最も高いのは周囲の方々です。居合わせた人が心肺蘇生を行うことで、救命率は確実に上昇します。今回は、心肺蘇生の方法についてご紹介していきます。

目次

心肺蘇生の重要性

心停止が起こると、救命の可能性は時間とともに低下します。救急車が到着するまでに4分経過すると、救命率は約20%、10分後では10%以下まで低下します(東京消防庁より)。一方、現場に居合わせた人が救命処置を行った場合、救命率は4分後で約40%、10分後でも20%まで維持されます。救命処置を開始するまでの時間が早いほど、救命確率は上昇します。救急車が到着するまでにいかに心肺蘇生を行えるか、これが救命率を上昇させるための鍵となります。

心肺蘇生を始める前に

周囲の安全を確認する

まず、一番に行うことは周囲の安全の確認です。倒れている人をみつけて道路に飛び出してしまえば、救助者自身が被害に遭うこともあり得ます。まずは冷静に、周囲の安全をしっかり確認してください。

肩を軽くたたきながら大声で呼びかける

傷病者のもとへ着いたら、「大丈夫ですか?」「分かりますか?」など、肩を軽くたたきながら声掛けをします。返事ができれば、意識があり、気道が開通していることの確認にもなります。逆に、応答がなければ、心肺蘇生のステップに進む必要があります。

人を集める

心肺蘇生の基本は、複数人で協力して行うことです。救急隊を呼ぶ人、AEDを持ってくる人、胸骨圧迫(心臓マッサージ)を行う人、人工呼吸を行う人などなど、人数が多い方がより良い救命につながります。人が集まったら、「あなたは119番に電話してください」「あなたはAEDを持ってきてください」と、1人1人具体的に指示を出しましょう。

呼吸の確認

呼吸が確認できれば、様子をみながら救急隊の到着を待ちましょう。

呼吸がない、あるいは異常な呼吸(死戦期呼吸)がある場合には心停止と判断します。

死戦期呼吸とは、心停止の際に生じる呼吸です。あえぎ呼吸とも呼ばれ、しゃくりあげるような不規則な呼吸がみられます。これを「呼吸できている」と判断し、救助が遅れてしまった例も少なくありません。

正常な呼吸であれば3~5秒に1胸部や腹部が動きます。判断に自信が持てない場合は、心停止と判断して心肺蘇生を開始してください。

仮に心停止でなかった場合でも、胸骨圧迫による痛みに対してなんらかの反応を示すため、やるに越したことはありません

また、呼吸の確認は10秒以上かけないよう速やかに行いましょう。

胸骨圧迫(心臓マッサージ)

心停止と判断した場合は、ただちに胸骨圧迫を開始します。

胸骨圧迫のポイントは「強く」「速く」「絶え間なく」です。

救助者は傷病者の胸の横にひざまずき、体重が垂直にかかるように位置を調整します。圧迫部位は、胸の真ん中のやや下の位置で、左右の乳首を結んだ中点が目印になります。

利き手と反対側の手の甲の上に、利き手の手のひらを重ね、重ねた手の付け根の位置で圧迫します。傷病者が乳児の場合は、2で同部位を圧迫します。

深さは、成人に対しては胸が5cm沈むまで、小児に対しては胸の厚さの1/3が沈むまでの力を加えます。テンポは1分間に100~120です。

このとき、1回1回の圧迫後、確実に圧迫の解除を行う必要があります。胸骨圧迫は心臓のポンプ機能を代理するものです。ポンプが潰れた状態でさらに力を加えても、血液を送り届けることはできません。1回ごとに確実に胸の高さを元の位置まで戻してください。このとき、浅くなったり、テンポが遅れないよう注意が必要です。

胸骨圧迫は、質が大切です。疲労による質の低を防ぐため、救助者が複数いる場合は1~2分を目安に交代しましょう。交代は速やかに行い、胸骨圧迫の中断時間は最小限に留めてください。

人工呼吸

人工呼吸は、訓練を受けたことのある方、かつ行う意思のある方にのみ推奨されています。気道の確保の仕方が分からない方や、意思のない方は、胸骨圧迫のみを継続してください。

気道確保は頭部後屈顎先挙上法で行います。頭部後屈顎先挙上法は、片手を傷病者の額に当て、もう片方の手の人差し指と中指を顎先に当てて、首を反らせることにより気道を確保する方法です。

人工呼吸は、胸骨圧迫30回の後に2行います。1回の吹込みには1秒間かけ、傷病者の胸のあがることを確認できる量を目安にします。

2回の人工呼吸を行ったら、速やかに胸骨圧迫を再開し、AEDあるいは救急隊員が到着するまで30:2の周期を繰り返します。

まとめ

心停止では居合わせた方が心肺蘇生を行うことで、救命率は確実に上昇します。心肺蘇生のポイントは、強く、速く、絶え間なく、そして諦めずに継続することです。緊急事態が生じたとき、人の命を救えるのは周囲にいた方々です。いざというときのために、心肺蘇生のトレーニングを受けてみてはいかがでしょうか。