一般的に「高齢者」とは65歳以上の方を指します。高齢者を75歳からとしようという議論も持ち上がる昨今、2015年10月時点で日本国内の65歳以上の高齢者の割合は26.7%となりました。すでに日本は「超高齢社会」であることはご存知の方も多いでしょう。このままのペースで高齢者が増加すると、65歳以上の方の割合は2060年には2.5人に1人となるそうです(内閣府より)。
そんな中、高齢者の救急搬送者も増加の一途をたどっています。東京消防庁の統計では2012年の時点で、救急車での搬送の33%を75歳以上の高齢者が占めるという結果も出ています(救急の日シンポジウムより)。今回は高齢者に多い救急疾患と、その予防・対策について説明していきます。
高齢者の病気の特徴、受診が遅れる理由
高齢者の病気の特徴には以下のようなものがあります。
- 複数の病気が重なり、症状も多様である。
- 感覚が鈍くなっているため、自分の状況を正確に感じ取ることができない。
- 疾患が治りにくく、急変もしやすい。
このうち加齢による「感覚の鈍り」は、
- 熱があるのに気が付かず、感染症を悪化させてしまう。
- 喉が渇いている自覚がなく、脱水症状になる。
- 痛みを感じにくくなっているため、ひどい傷や骨折でも発見が遅れる。
ということを起こします。日中は一人で過ごし、夜間になり家族がなんだかおかしいということに気づいて救急受診となるケースも多く、救急受診の増加にも繋がっています。
どのような疾患に注意が必要か
救急疾患として、以下のものは特に注意が必要となります。
- 脳血管疾患
- 心疾患(循環器疾患)
- 呼吸器疾患
- 消化器疾患
これらの疾患を持病としている高齢者の方も多いと思います。慢性的なものとして内服や治療が生活の一部になってしまっていることも、救急の事態に鈍くなってしまう一因かもしれません。
疾患別、予防策と受診の目安

体調の異変に気付くためには、日頃から本人とご家族がどういう状態・体調がいつも通りなのかをしっかりと観察する必要があります。また、治療中の疾患がある場合には、どんな症状が、どの程度出た場合には病院を受診すべきかを主治医に確認するようにしましょう。
疾患別に、もしも、というときのリストを各家庭で作ってみたり、一人暮らしの高齢者には、こうなったらすぐ受診!という注意書きを、自宅の目につきやすいところに貼っておいたりすることが、万が一のときに役立つかもしれません。
脳血管疾患
脳梗塞、脳出血などの脳血管障害です。まずは、疾患予防・治療のために処方されている薬があれば、間違いなく内服するようにすることが第一の対策です。一般的には、しびれや呂律が回らないといった症状が初期症状とされます。高齢者の場合、以下のような症状がみられる場合にも注意が必要です。
- 急に耳が聞こえなくなった
- 急に言葉が出なくなった
- 急におかしな行動をしだした
これらの「急に」が現れた場合は様子をみるのではなく、まず受診することをお勧めします。
心疾患(循環器疾患)
狭心症、心筋梗塞などの心臓の病気や高血圧のグループです。予防としては、特に冬場の温度管理や、夏場であれば水分摂取により脱水を防ぐことが挙げられます。内服薬がある場合、その管理はもちろん必須です。
- 顔色が悪くなった
- 起き上がれなくなった
- 食事をしなくなった
- 急に大量の汗をかいている
血圧であれば数字で分かりやすいのですが、狭心症や心筋梗塞でもひどい痛みを感じられない場合があります。上記のような様子が見られた場合は、念のため早めに受診していただきたいと思います。
呼吸器疾患
肺気腫、肺炎などです。呼吸器の病気では、苦しくなることがつきものと思われますが、高齢者では「苦しい」「熱でつらい」という感覚さえ鈍くなってしまうことがあります。また、熱に関して言えば、「熱を上げる」機能も衰えていて、本来なら高熱が出てもいいような状態でも平熱のままということがあります。症状としては循環器の疾患とよく似た受診目安があります。
- 顔色が悪くなった
- 活動量が急に落ちて寝てばかりいる
- 食事をしなくなった
- 大量の汗をかいている
また、肺炎の場合は、誤嚥が原因となることが多いので、早食いはやめて周囲は食事を急かさないようにしましょう。
消化器疾患
消化管出血、消化管穿孔などの病気です。これも、本来であればひどい痛みが出てもおかしくないものですが、腹痛はなく下血のみ見られるということがあります。下血のみの場合、持病として痔核があるとそのせいにしがちですが、大量の下血でなかったとしても下血があればすぐに受診しましょう。特に、初めて下血した場合には必ず受診してください。高齢者の場合、全身の状態によっては処置自体が難しいこともあります。
まとめ
「高齢者」と一口に言ってしまうのも少々乱暴かと思うくらい、個人差が大きいことも高齢者の症状の特徴です。一人暮らしの方であれば、万が一のときの連絡先や連絡方法を定期的に確認すること、家族がいる方も、症状や内服薬、連絡先の確認を定期的に確認することで、少しの異変にも気づきやすくなり、救急の手前での対応が可能になるかと思います。