脳の病気は早期発見、早期治療がなされないと後遺症を残しやすい分野です。
命をとりとめても80%に後遺症が起こり、脳血管障害のリスクがなくても起こり得る脳の障害、ウェルニッケ脳症をご存知でしょうか?アルコール依存症や食事を摂取できない状態などで起こるとされており、あてはまる方は注意が必要です。

この記事ではウェルニッケ脳症の症状や治療法、予後についてご説明します。

目次

ウェルニッケ脳症の症状

ウェルニッケ脳症とはポーランド生まれでドイツの精神神経病学者、カール・ウェルニッケ(Carl・Wernicke)によって報告された病気です。元々はアルコール多飲者の合併症として報告されていましたが、その後の研究によってアルコールの飲みすぎ以外の理由でも起こることが分かりました。

ウェルニッケ脳症の特徴的な症状は、意識障害眼球運動障害小脳失調(運動失調、失調性歩行とも言います)の3つです。

意識障害

意識がはっきりしないことです。発症初期ですと、目を開けているあるいは刺激すれば目を開けるにもかかわらず自発性を欠いた状態になります。症状の程度は軽度のものから昏睡状態のものまでありますが、昏睡にまで陥ることは少ないとされています。

眼球運動障害

眼振(本人が意識せず、目が揺れている状態)、外眼筋麻痺(外側に眼球の向きを変える筋肉の麻痺)が出現します。

眼球運動障害はウェルニッケ脳症の患者さんの68%に見られたという報告があり、決して少なくありません(内科疾患に伴 う神経障害:診 断と治療の進歩より)。

運動失調

特に体幹(身体のバランスをとる機能など)に多く見られ、立ったり、歩いたりすることに対して障害が起こります。

意識障害が改善した後でも歩行困難や歩行時の姿勢維持困難、座位保持困難などの後遺症が見られる場合があります。また、眼球運動障害では、症状が進行して、完全に外眼筋麻痺となると麻痺がこのまま残ってしまう可能性があります。

ウェルニッケ脳症の原因は?

ウェルニッケ脳症は、ビタミンB1(チアミン)が欠乏することによって起こります。
ですので長期間の低栄養状態や、長期間ビタミンの含まれない点滴管理ではウェルニッケ脳症を起こさないように注意する必要があります。
たとえば重症の妊娠悪阻によって食べたものを吐いてしまう、食べられないという状態もウェルニッケ脳症を引き起こすことがあります。

アルコールの多飲がウェルニッケ脳症の原因になるのは、アルコ―ルがもともとビタミンB1の活性化を抑制する作用を持っているためです。特にアルコール依存症のレベルにまで達すると、食事を摂らずにアルコールを飲むということが多くなり、低栄養状態を起こすことでさらにウェルニッケ脳症のリスクを上げることになります。

ウェルニッケ脳症の治療法

ウェルニッケ脳症の治療法は、点滴によるビタミンB1の補給となります。

口からビタミンB1を補給するよりも確実に、かつすみやかに欠乏が改善するため点滴での投薬が第一選択となります。

1~2週間ほどで症状の改善がみられるものの、全身状態の回復には1~2カ月必要とするとされています。また、アルコール、低栄養などその理由によってビタミンB1以外の栄養も投与して治療を行います。

命をとりとめても80%に後遺症…健忘症候群とは?

ウェルニッケ脳症によって起こる後遺症として最も有名なのは健忘症候群コルサコフ症候群)で、命が助かった後も80%ほどの方に残るとされています(eヘルスネット情報提供より)。

主な症状は

  • 病気になる前の記憶が失われる
  • 新しいことを覚えることができなくなる
  • 日時や今いる場所がわからなくなる
  • 作り話をするようになる

など、主に記憶に関わるものです。
重症例では記憶力以外の認知機能も低下し、認知症同様の症状が出現するとされています。

まとめ

ビタミンB1欠乏によって起こり得る脳疾患のウェルニッケ脳症。ビタミンB1が不足していることによって脳の機能に異常をきたすなんて考えもしなかったものと思います。現在では治療をすることによって死亡する例はほとんど見られなくなりました。

しかし命が助かったとしても80%に後遺症が残るとされる疾患のため、何よりも重要となるのが予防です。アルコール依存症が見られる方やあまりにも栄養を充分に摂れていない状態の方は、医療機関を受診して栄養状態の改善をするなどの対応が求められます。