アルコール依存症には専門的な治療が必要となりますので、基本的にはアルコール依存症の治療を専門で行っている医療機関でないと治療は困難であると思ってください。

アルコール依存症の患者さんが自らの意思で精神科を受診されることはほぼありません。困り果てた家族が必死の思いで連れてくることがほとんどで、本人は自分がアルコール依存症であることを当然のように認めません。そしてアルコール依存症から脱却できる唯一の方法は断酒となります。「ほどほどにたしなむ」で終わることができない状態がアルコール依存ですので、回復するには酒を断つしかないのです。

アルコール依存症の治療は本人に病気であるという意識を植え付けることと、断酒が継続できるようにサポートしていくこと。この2つが柱となります。

アルコール依存症の治療は基本的には入院治療で開始され、次のような流れで行われることが多いです。

目次

<「精神科医に聞くアルコール依存症~アルコール依存症の症状と予防法」はこちら>

解毒、身体治療

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アルコールを連日飲用されていた患者さんが急にアルコールを摂取しなくなると離脱症状が起きる可能性が高いです。そこで薬を用いて離脱症状を予防し、安全にアルコールを体から抜く、という作業をします。これを解毒といいます。また、並行して身体面の検査を行い、必要に応じて身体治療を行います。

意識改革

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アルコール依存症を治療するにあたって一番の肝は病気である自覚を持つことです。

  • アルコール依存症、アルコールの害などについての学習
  • 自分の飲酒習慣、失敗などを赤裸々に告白しあうミーティング
  • ストレスへの対処、飲みたくなったときの対処、勧められたときの断り方などの訓練

などの一連のプログラムを受講します。同じ悩みを共有するという意味合いもこめて、集団で行うことが多いです。そこで「自分は病気であり、アルコール依存症を治療するんだ」という動機づけを行います。

また、当然ですが入院中はアルコールが飲めません。アルコールがなくても1日1日過ごすことができる、ということを経験していきます。

意識改革に関するプログラムを修了した段階で退院となります。「断酒する」という明確な目標を持って自宅に帰ることになります。

しかし、不幸にもアルコール依存症であるという自覚が持てない人が少なからずいます。このような場合でも同様に退院となります。無理やり入院期間を延長しても医療に対する不信が強まるだけで、余計に治療を拒絶するようになってしまうからです。そうなってしまうと病院に行くことを拒絶したり、「お前が医者に吹き込んで病院の中に閉じ込めさせたんだろう」と家族に強く当たったりということが往々にしてあるからです。

自覚が持てない人であっても受診さえしてもらえれば改めて介入する機会はあるのですが、受診すらしなくなってしまうと手の打ちようがありません。そのためたとえ動機づけが不完全であってもプログラムを修了した段階で退院となります。

断酒のサポート

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外来診療では基本的には精神療法が主体となります。感情を安定させるためや、不安を和らげるために補助的に薬物療法を行うことはありますが、薬の治療はメインではありません

抗酒剤といって、わざとアルコールの代謝を遅らせることによって、少量飲酒しただけで二日酔いの不快な症状を引き起こさせる薬があります。飲みたくなったとしても「飲んでも気持ち悪くなるから飲むのをやめよう」と思わせ、飲酒欲求を抑える薬です。しかし抗酒剤を飲んでいても飲酒欲求は出現します。また、副作用も多く、肝障害や呼吸器障害があると使用できません。この薬を飲んで飲酒をすることでの死亡例の報告もあります。また、飲みたくなったら抗酒剤を飲まなければ良いだけです。このような理由から抗酒剤は治療に必須というわけではありません。

2013年から日本でもアカンプロサートという薬が使われるようになりました。先に挙げた抗酒剤は飲酒欲求に駆り立てられても、気持ち悪くなるからやめよう、という薬でしたが、この薬は飲酒欲求自体を湧きにくくする薬で、長期的な効果が期待されています。

断酒を継続するにあたって一番重要となるのが自助グループへの参加です。同じ目標を持つ仲間と互いに支えあい、励ましあいながら断酒を継続していく会合です。断酒会、AA(アルコホリークス・アノニマス)などの自助グループが全国にあります。

家族教育

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ここまで患者本人の治療を説明しましたが、上記に加えてもう一つ重要な治療があります。それは家族教育です。「お酒を出さないと暴れて困るから与えてしまう」と飲酒できる環境を提供してしまう、「お酒でトラブルを起こすけど、そんな人を支えるのは私しかいない」と依存症患者さんのトラブルをサポートすることで自分を保とうとする、などのイネイブラーと言われる存在が依存症をより深いものにしてしまうことが知られています。断酒を支えていくにあたって正しい知識を身に付け、同じ目標を持つ仲間と互いに支えあい、励ましあっていくために家族会に参加することが重要です。

そして断酒をサポートするのは身近な人だけではありません。関係するすべての人の協力が必要です。我慢している人に甘い言葉をかけるなんて言語道断です。

最後になりますが、どんなに頑張っても、どんなにサポートしてくれる人がいても、大半の人は再び飲酒してしまいます。それでもあきらめることなくもう一度断酒をチャレンジすることが大事です。周囲の人はもう一度断酒がチャレンジできるよう温かく見守っていきましょう。