妊娠による吐き気などの症状は皆さんご存じかと思います。しかし妊娠悪阻という言葉についてはあまりなじみがないかもしれません。妊娠悪阻は重症化すると、命の危険を伴い病院での治療が必要になる場合があります。ここではつわりと妊娠悪阻の違いや、妊娠悪阻の治療などについて解説します。

目次

妊娠悪阻ってなに?

妊娠5~6週頃から気分が悪くなったり、嘔吐や食欲不振などが表れる状態をつわりと言います。そしてつわりが重症化し、栄養障害や体重減少など、治療を必要とする状態を妊娠悪阻といいます

妊娠悪阻は全妊娠の1~5%に発生し初産婦さんに多いと言われます。

つわりとの違いは?

つわりと妊娠悪阻は明確に区別する基準がありませんが、以下のような症状の違いがあります。

つわりの症状

  • 吐き気、嘔吐
  • 唾液量の増加
  • だるさ
  • 頭痛
  • 眠気
  • 食欲不振
  • 嗜好の変化

妊娠悪阻の症状

  • 一日中続く頻回の嘔吐
  • 食事摂取困難
  • 5%以上の体重減少
  • 脱水・飢餓状態
  • 尿中ケトン体陽性

妊娠悪阻はこのような症状によって、脱水と飢餓状態が続くことで重症化し、命の危険を伴う状態に陥ることがあります。

重症化するとどうなるの?

妊娠悪阻によって下記の2つのような致死的な合併症を引き起こす危険があります。

1.ウェルニッケ脳症

重症の妊娠悪阻によって食事摂取が困難な状態が続き、ビタミンB1が不足することで発症します。眼球運動障害・失調性歩行(ふらふらした足取り)・意識障害等の症状があり、重症化した場合、命の危険を伴います。

2.深部静脈血栓症

主に下肢の深いところにある静脈の血管内に、血栓という血の塊ができる状態を言います。この血栓が剥がれて血管内を流れ、肺の血管に詰まった状態を肺塞栓症といい、重症の肺塞栓症の死亡率は20~30%と致死率の高い病気です。高齢妊娠や肥満など様々な要因で発症しますが、重症の妊娠悪阻によって脱水と安静を余儀なくされた場合、そのリスクは高くなります。

どんな治療をするの?

点滴-写真

治療方法には、下記の3つがあります。

1.食事療法

好きなものを少量ずつでいいので、回数を分けて頻回に食べるようにします。まったく食事が摂れない状態の時は輸液療法が行われます。

2.輸液療法

点滴によって水分や糖分、ビタミンなどの栄養を補います。妊娠悪阻ではウェルニッケ脳症の発症の危険があるため、ビタミンB1の補てんは必須になります。

3.薬剤投与

制吐薬や漢方薬の投与を行う場合もあります。

まとめ

妊娠悪阻の重症例で「スポーツドリンクが摂れているから大丈夫」という自己判断で、1か月食事が摂れないまま体重が10キロ以上落ちた状態で受診し、その直後にウェルニッケ脳症を発症した事例があります。自己判断は危険ですので、産婦人科医の診察は必ず受けるようにしましょう。

尿検査にて飢餓状態の時に尿中に出るケトン体の有無を調べることができます。重症化する前に治療をすることが非常に重要ですので、妊婦健診を定期的に受けることはもちろん、つわりの症状がひどいと感じたら受診するようにしましょう。