現在、日本では晩婚化が進むとともに、カップルが妊娠を希望する年齢も上がっており、不妊症が深刻な問題になっています。妊娠をするのは女性なので、不妊症の原因は主に女性だけに求められがちですが、女性だけではなく男性にも、不妊の原因がある可能性があります。ここでは、男性・女性それぞれの不妊症の原因についてまとめました。
不妊症の定義とは?
不妊症とは自然に妊娠する可能性がほとんどない状態のことで、妊娠を希望する場合には、治療が必要になります。
夫婦が避妊することなく日常的に性生活を続けた場合、1年以内に90%のカップルが妊娠するといわれています。時間をつくって性生活をしても妊娠しない期間が1年以上(2~3年とする説もある)続く場合は、不妊症の疑いがあります。
ただし、年齢が高くなるとともに不妊症のケースも増えますので、女性の年齢が35歳以上であったり、婦人科領域の手術の経験があったりする場合は、妊娠しない期間が1年以内でも不妊を疑い治療を行う場合があります。
あてはまる場合には、早めに検査だけでもしてみると良いでしょう。
不妊症は大きく分けると、男性側に原因がある場合(全体の約35%)と、女性側に原因がある場合(約55%)、また検査で異常がなくても妊娠に至らない原因不明の場合(約10%)があります(メルクマニュアルより)。
女性側の要因
妊娠するためには、以下の4つの条件が整うことが必要です。
- 排卵する:卵巣から成熟した卵子が排出されること
- 卵管の疎通性がある:卵管采からpick upされた卵子が卵管内で精子と出会う
- 受精する:卵子の中に精子が入り受精卵(胚)となること
- 着床する:受精卵が子宮内膜に侵入すること
女性側の要因による不妊は、上記のどの段階で妊娠が妨げられているかによって、「排卵因子」「卵管因子」「頸管因子」「子宮因子」の4つに大別されます。
排卵因子
排卵の問題はさまざまな原因(過度なダイエット・肥満・ストレス・薬の副作用など)によって起こります。月経が不規則であったり、無月経である場合は、排卵に問題があるケースが多いので注意が必要です。
ホルモン分泌の問題
排卵が起こるためには、視床下部、脳下垂体、卵巣の3つが連携して働き、様々なホルモンを適切に分泌する必要があります。こうした連携がうまくいかず、ホルモンが適切に分泌されなくなると、排卵に問題が起こります。血液検査によってホルモン値を測定し、どの部分に問題があるのかを特定することができます。
多嚢胞性卵巣症候群
卵胞が発育するのに時間がかかってなかなか排卵しない疾患です。自覚症状としては、(1)月経周期が35日以上(2)月経が以前は順調だったのに現在は不規則(3)にきびが多い(4)やや毛深い(5)肥満などです。卵巣内の男性ホルモンが多いことが原因といわれています。
その他
糖尿病や肥満なども、排卵の問題につながることがあります。また運動のしすぎ、特定の薬(胃薬、抗うつ薬など)の使用、極端な体重の減少、精神的ストレスなども、排卵障害の原因となります。
卵管因子
卵巣から出てきた卵子は、排卵したあと卵管采からpick upされ、受精の場所である卵管膨大部で精子と受精し、卵管内で分割しながら着床の場所である子宮へと運ばれます。卵管に閉塞や癒着があると、卵管内に卵子が入らなかったり卵管内の移動がスムーズにいかず不妊の原因となります。
以下のような病気や手術歴、症状がある場合は、卵管因子の不妊の可能性が高くなります。
- 子宮内膜症やクラミジアなど、骨盤内の炎症
- 子宮筋腫や卵巣嚢腫の手術、虫垂炎など腸管の手術
- 子宮外妊娠
頸管因子
子宮の頚部で膣内に突出している部分を子宮頸管といい、性交渉によって膣内に射精された精子は、子宮頸管の粘液のなかを泳いで子宮に入ることになります。この子宮頸管の粘液に異常がある場合、不妊の原因となります。
通常、子宮頸管の粘度が高いと、精子は通ることができません。排卵直前になると、エストロゲンというホルモンの値が上昇し、この粘液が透明でよく伸びるようになり、精子が子宮から受精場所となる卵管へ入れるようになります。
しかし、排卵時にも粘液の状態が変化しなかったり、抗精子抗体など精子の運動を妨げる因子がある場合、精子は子宮内に入ることができなくなります。
子宮因子
子宮筋腫、子宮内膜ポリープ、子宮腺筋症などにより、受精卵(胚)の着床が障害される可能性がある場合は、子宮因子による不妊を疑います。貧血気味で月経量の多い方はこのような疾患の疑いがあります。
男性側の要因
男性不妊の原因は、性交での射精がうまくいかない性機能障害と、精子の数が少なかったり動きが緩慢である精液性状低下の2つに大別されます。
性機能障害
性交のときに十分に勃起しなかったり、勃起が続かない勃起障害(ED)、性交はできても膣内での射精がうまくいかない膣内射精障害があります。ストレスや動脈硬化、糖尿病などが性機能障害の原因となります。
精液性状低下
通常、1回の射精で1~3億もの精子が放出されますが、精子は子宮頸管の粘液など様々な障害によって淘汰されるため、受精の場所である卵管膨大部まで到達するものはたった数十~数百と言われています。
もともと放出される精子の数が少なかったり、運動率が悪かったり、奇形の割合が高い場合、精液性状低下となり、受精が困難になります。また、放出された精液のなかに精子がまったく見られないものを無精子症といいます。
精液性状低下の原因としては、精子をつくる機能に問題がある造精機能障害や、精巣やその上の精索部に静脈瘤(静脈の拡張)ができる精索静脈瘤があります。
妊症かな?と思ったら

不妊症は、早めに治療をスタートすることが大切です。
女性が一番妊娠しやすいのは20歳代で、30歳半ばにかけて妊娠の可能性は緩やかに低下します。35歳以降になると妊娠しやすさは急激に低下し、40歳代半ば頃になると妊娠することが難しくなってしまうことが多いことは周知の事実です。
以下の場合は、不妊専門の病院や婦人科で早めに検査を受けるようにしましょう。
- タイミングをとって性生活をしても1年以上妊娠しない(女性が35歳未満)
- タイミングをとって性生活をしても6ヶ月年以上妊娠しない(女性が35歳以上)
- 女性が40歳以上である
- 婦人科の手術の既往がある
- 月経痛がひどい
- 月経不順がある
- 性交渉がスムーズにできない(男性因子)
特に不妊症でない場合でも、日ごろから基礎体温を測定・記録しておくと、自身の生理や排卵を知ることができ、妊娠しやすい時期もわかります。不妊症の検査をする際には、基礎体温の記録を求められますので、これを機会に基礎体温の測定をスタートすることをお勧めします。
まとめ
不妊症はとてもデリケートな問題ですが、妊娠を希望するカップルにとって不妊症を正しく理解することは、妊娠への大切なステップとなります。気になることがあったらそのままにすることなく、お互いに知識を深め、語り合いながら、早めの受診を心がけたいものです。