角膜の疾患「円錐角膜」とはどのようなものなのでしょうか。その特徴や症状、診断、治療法について、円錐角膜を専門とする眼科医に解説していただきました。ぜひ参考にしてください。

目次

アジアに多い近視

日本を含め、アジア諸国は近視が多いといわれています。

文部科学省の報告によると、平成29年度、裸眼視力1.0未満の生徒は小学生の32.46%、中学生では56.33%、高校生になると62.30%と過半数を越えています。この原因の多くは近視によるものと考えられます。

平成29年度の裸眼視力グラフ

近視とは 近視が進む理由 成長、環境因子

光は角膜や水晶体を通り越して眼の奥(網膜)に到達します。網膜でぴったり光が合うと、近視がなく、裸眼で1.0の状態です。

小学校、中学校などの成長期に身長がぐんぐんと縦に伸びるように、眼も伸びます。そうすると眼の中に入ってきた光が到達すべき網膜はもっと奥に行ってしまうため、ピントが網膜の手前であってしまいます。この状態が近視です。子供の頃に近視が進み、何度も眼鏡を新しく買いなおした方は多いのではないでしょうか?

でも、光が通ってくる角膜の形が変わるとこれも又ピントがずれる原因になります。本来、角膜は綺麗なお椀型ですが、ラグビーボールのように形が歪んでいるとピントが歪んで網膜の手前に来てしまい、その結果眼鏡などではうまく見えなくなることがあります。

普通は近視で裸眼視力が下がっても、身長が伸びるように正常な変化に基づくものならば眼鏡などをかければしっかり見えるのですが、もしそれが、角膜がひずむ「円錐角膜」によるものであれば眼鏡では良い視力が出なくなってしまう事があります。

「円錐角膜」は思春期に始まりやすいので、若年者の近視の中に、「円錐角膜」が隠れていることがあります。正しく診断を受けないと視力の出ない原因がわからないままになりかねません。

円錐角膜とは

眼の表面は厚さ0.5㎜ほどの透明な角膜で作られていて、角膜は外から入ってきた光を屈折させて眼の中に取り込むレンズの役割を果たしています。円錐角膜ではこの角膜が何らかの原因で少しずつ薄くなり、前に突出してきます。円錐角膜は思春期に多く発生します。性ホルモンや、アレルギーなどで痒くなり眼をこするなどの刺激との関連が指摘されていますが、原因ははっきりしていません。

以前は2000人に1人位の発症と言われていましたが、近年は1000人に1人、400人に1人、など様々な発表があり、臨床では意外によく見つかる疾患です。

円錐角膜の症状

※この下に眼の拡大画像が表示されます。ご注意ください。

 

 

円錐角膜の症例

円錐角膜を発症した患者さんの眼(八重洲さくら眼科 非常勤医 松原正男先生のご厚意により提供・本画像の無断転載及び複製等の行為禁止

多くは、角膜の中央付近が薄くなり、じわじわと突出して歪んでくるため、眼に入った光が眼の奥でうまく焦点が合わなくなり、近視や乱視がどんどん強くなります。軽いうちは眼鏡や普通のコンタクトで視力は出ますが、進行すると歪みが強くなり、きちんとした視力が出なくなります。光がまぶしいと感じることもあります。

また急性角膜水腫といって、角膜が薄くなったため組織の一部が破け、急激に角膜がむくみ白くなることもあります。患者さんは「急に白っぽくなって見えなくなった」と言います。むくみ自体は少しずつ減って回復しますが、破れた場所は角膜が濁り視力低下の原因になることがあります。

円錐角膜は思春期ごろ発症し10年~20年はゆっくりと進み、40代で多くの人は進行が停止するといわれています。しかし、そのスピードや程度は個人差があります。

円錐角膜の診断

円錐角膜による角膜の変形は、よほど進行しないと通常の眼科の診察ではなかなかわかりません。最近普及してきている角膜形状解析装置を使うと初期からの診断ができます。わずかな角膜の歪みなども測定でき、角膜の形状や厚みを測って円錐角膜の程度などを判断します。残念ながら円錐角膜が進行し、視力が出にくくなってから診断される方も少なくありません。

円錐角膜の治療・対処方法

円錐角膜は発症するともとには戻らないため、程度によって対処法は変わります。

円錐角膜の治療―コンタクトレンズ

円錐角膜が発症して視力が落ちても、初期であれば眼鏡やソフトコンタクトレンズで矯正が十分可能です。しかし、進行するとソフトコンタクトレンズはその名の通り柔らかいので歪んだ角膜に装用してもしっかりとした視力は得られません。

硬いハードコンタクトレンズならば、これを歪んだ角膜の上に装用すると、表面は歪みがなくなって綺麗な半球状になります。すると光を正しく屈折でき、近視・乱視を矯正することができます。そのためある程度進行したらハードコンタクトレンズが使われます。

角膜の変形が強くなってくると、もちろんハードコンタクトレンズの安定も悪くなります。すぐにずれたり、外れたりします。瞬きしただけや、ふと横目をしただけでレンズが飛んで失くしてしまうのも、円錐角膜ではよくあることです。

変形が強くなった時の対処は専門的になりますが、例えば通常のハードコンタクトレンズで眼を押さえこむような処方をします。上まぶたと一番突出した角膜の場所でレンズを支えるイメージです。歪みによっては、レンズの下の方は浮いていたり、下まぶたに乗っていたりします。

角膜の突出した部位とコンタクトレンズが擦れると傷がつき、異物感や痛みを感じたり長い期間、角膜の同じ部位が擦られることによって、透明であった角膜に濁りが生じて、結果的に視力が出なくなったりすることもあります。

円錐角膜用に開発されたハードコンタクトレンズを用いることもあります。歪み方が千差万別であり、いびつな形にできるだけ合うように、いろいろ変更が必要なので、習熟した眼科医でないと難しいです。ただ、痛くなくても、異物感が全く無くなるわけではないですし、歪みがつよいと、やはり外れやすく紛失しやすいです。

円錐角膜用ハードコンタクトレンズでも対処できないような眼には、まだあまり知られていませんが、直径の大きな強膜レンズを用いると有効なことがあります。角膜に直接触れず外側の白目で支える強膜レンズは歪んだ角膜に影響されずに綺麗な半球状を形作ることができます。レンズが大きいので外れたりずれたりすることはありません。白目は角膜と違って感覚が鈍いため、殆ど痛みがありません。

ただ、レンズを角膜に触れさせないだけでなく、白目の形も併せて処方を考えなければならないため、処方決定までに非常に時間がかかること、もちろん習熟した技能をもつ眼科医でなければ到底扱えないこと、直径が大きいために、患者さんもコンタクトレンズの出し入れに慣れるまでが大変ということもあります。日本で強膜レンズを扱っている眼科はまだあまり多くありません。

角膜クロスリンキング

ビタミンB2の成分であるリボフラビンを角膜に点眼して浸透させた後、ある波長の紫外線を照射して角膜のコラーゲン線維を硬くすることによって円錐角膜の進行を抑える手段です。発症初期では、進行がゆっくりになることが多いといわれています。ただ、円錐角膜発症前のもとの形に戻せるわけではないので、視力改善を期待するものではありません。現在、保険適応ではありません。

角膜内リングの挿入

半円弧状のリングを角膜内に挿入し、突出した角膜の平坦化を目的とする手術です。しかし角膜の歪みが全て平坦になるわけではないので劇的に裸眼視力が向上するわけではなく、今まで使えなかったコンタクトレンズを使えるようにすることを期待するものです。保険適応ではありません。

角膜移植

角膜の濁りが強かったりすると、最後の手段として角膜移植が行われることがあります。角膜全層を移植する方法や角膜の一部を残して部分的な移植をする方法などがあります。角膜が透明になりますが術後乱視は必発なので、裸眼視力が劇的に上がるものではありません。

まとめ

円錐角膜は長い期間をかけてゆっくりと進行する病気です。状況に応じた対処方法をとれば視力を矯正して安定した生活ができます。思春期ごろに発症することが多いので、その年代の方で近視や乱視が段々ひどくなってきたと感じたときは、自己判断はせず一度眼科医の診察を受けましょう。そこで円錐角膜と診断されたら、定期的に医師に状態をチェックしてもらいながら、円錐角膜と上手に付き合っていきましょう。