子供から「学校での視力検査でひっかかった」、「学校の黒板が見えにくい」と訴えられると、原因として一番に浮かぶのは近視だと思います。確かに、近視による視力低下は世界的に増えていて、特に日本を含むアジアで増加しています。しかし、子供の視力低下は必ずしも近視だけではありません。ここでは、子供でよくみられる視力が落ちる原因と、それぞれに対する正しい治療についてお話します。

目次

物が見える仕組み

私達はどのような仕組みで物を見ているのでしょうか?

物からの光は角膜と水晶体で屈折され、網膜で像を結びます。分かりやすく言うと、目はしばしばカメラに例えられ、角膜と水晶体はレンズに、網膜はフィルムに当てはまります。レンズに当てはまる角膜と水晶体のうち、水晶体は厚さを自動的に調節することによって、近くも遠くも網膜(フィルム)にピントを合わせて物を見ています。

視力が落ちる原因

それでは子供でよくみられる視力が落ちるときには、どのような原因を考えるのでしょうか?

屈折異常(近視、遠視、乱視)

近視遠視がなければ、調節なしのリラックスした状態では、遠くの物が網膜にピントが合います。そのため近くを見るときは、水晶体の厚さを調節してピントを網膜に合わせています。これを正視と言います。

近視では遠くの物が網膜よりも前にピントが合ってしまい、網膜にはピントが合わないため、遠くが見えにくくなります。ただし、近くの物は網膜にピントが合うので、近くは見ることができます。遠視は遠くの物が網膜よりも後ろにピントが合っている状態です。近くの物はさらに網膜よりも後方にピントが合い、遠くも近くもきちんと見ることができません。

乱視はレンズである角膜、水晶体のカーブが方向によって異なることによって、一点にピントが合いません。そのため遠視と同様にきちんと物を見ることができません。

遠視と乱視の場合は「視力が落ちる」というよりもむしろ、生まれたときからきちんと物を見ることができていません。子供が生まれてから小学校に入学するまでの段階は、視力は発達段階にあります。この段階で遠視や乱視によってきちんと物を見ることができないと、眼鏡で矯正しても視力が得られない弱視になることがあります。

弱視については「弱視の見え方や、外から見た症状は?原因は遺伝ではないって本当?」をご覧ください。弱視にならないためには、早期発見、早期治療が大切であり、眼鏡の装用が不可欠です。

これに対して、近視は遠視と乱視と異なり、近くの物は見えるため、通常は弱視にはなりません。

心理的原因(心因性視覚障害)

日常生活における、心理的ストレスが原因で目に症状が出現することがあります。これを心因性視覚障害と呼び、子供でよく見られます。症状の多くは視力低下ですが、それ以外に検査をすると視野障害、色覚多様性(色覚異常)がみられることもあります。

小学校高学年から中学生に多く、男女比は1:2~4と女性にみられます。ストレスを引き起こす原因(誘因)として、学校でのいじめ、教師との関係、転校、塾通い、親子関係、兄弟関係などがありますが、はっきりしないこともあります。

治療はまず、ストレスの誘引を取り除くことです。そのためには、子供と親との信頼関係が大切です。また、学校の担任の先生とも連絡を取りながら、長期に経過を見ることも必要です。多くはストレスを取り除くことによって治癒しますが、副作用のない点眼薬をお母さんが子供に点眼してスキンシップを持ったり、度の入っていない眼鏡を装用させたりすることもあります。

近視の原因と進行抑制

自然の中で笑顔で手を繋ぎながら駈ける少女2人

近視の原因として、近くを見る時間が増えることがあります。

正視の段階では、近くは水晶体の厚さを調節し網膜にピントを合わせることで物を見ることができると説明しました。ただ、近くを見る時間が長いと、ピント調節が必ずしもきちんとできずに、近くの物のピントが眼底の網膜よりも後方に合ってしまうことがあります。

すると、これにピントを合わせるために、網膜の位置が後方に伸びてしまいます(伸展)。遠くの物を見る時には網膜よりも前にピントが合ってしまい、見えなくなると考えられています。

実際に近視の方は網膜が後ろに伸展しており、眼球が大きくなっています。大きくなってしまった眼球は元には戻らないことが分かっており、従って、トレーニングによる視力回復はあり得ません。「近視回復」「目が良くなる」といった近視が改善することを謳う本、器具、施設が存在し、インターネット上でも情報がよく出てきますが、全く科学的な根拠がありません。

近視の予防、進行抑制として最も大切なのは、近くを見る時間を短くし、なるべく遠くを見ることです。勉強などの近くを見る時間が長く、スポーツなどの屋外活動が少ない方に近視の方が多いことが分かっています。従って、近視の進行防止には勉強などの近くを見る時間を短めにし、屋外で遊ぶ時間を長く取ることによって近視の予防は可能ですが、現実には難しいかと考えます。

なるべく遠くを見て屋外での時間を長く取る環境以外に、科学的研究によって子供の近視の進行を抑えるのに有効とされている方法には、遠近両用眼鏡、完全矯正眼鏡、就寝時コンタクト(オルソケラトロジー、保険適用外)、低濃度アトロピン点眼薬(保険適用外)、軸外収差抑制コンタクトレンズ(日本未発売)があります。

まとめ

よくみられる子供で視力が低下する原因として、弱視、近視、心因性視覚障害があり、治療方法は違います。近視は治すことはできません。近視の予防、進行抑制として、なるべく遠くを見て、屋外での時間を増やすことが最も大切です。インターネットにもよく出てくる「近視回復」、「目が良くなる」といった近視が改善することを謳う本、器具、施設には科学的な根拠がありません。正しい情報を得ることが重要です。