子供の視力低下の原因として、最も多いのは近視です。近視は眼鏡をかければ見ることはできますが、できれば、裸眼で過ごしたいと考える子供さんと保護者の方がほとんどです。では、近視を回復させることはできるのでしょうか。実際に、近視の回復を謳う著書や施設が存在しますが、本当に有効なのでしょうか。

ここでは、子供の近視に対する、予防、回復、進行抑制方法について紹介します。

子供の視力低下については「子供の視力が落ちた気がする。原因は?」をご覧ください。

目次

近視は回復しない

視力は回復する?

近視の眼では、網膜がピントよりも後ろに伸びていますが、一度後ろに伸びてしまった網膜を元の位置に戻すことはできません。そのため近視を回復することはできません。

回復できない近視で重要なのは、予防と進行の抑制です。大切なこととして遠くを見る時間を増やし、近くを見る時間をできる限り短くする、屋外で活動することが挙げられます。屋外での活動によって、遠方を見る時間を増やす以外に、紫外線を受けることも近視の進行抑制の効果があると考えられています。ただ、これらの行動を取り続けるのは現実的に難しいです。

近視の予防・進行抑制の方法について

近視を予防したり、進行を抑えたりする方法として、遠方を見ること、屋外で活動すること以外にもいくつかあり、以下に紹介するものは一定の効果があるとされています。

遠近両用眼鏡・累進多焦点眼鏡・完全矯正眼鏡

完全矯正眼鏡とはピントを完全に遠くに合わせるものです。

以前は完全矯正眼鏡が近視進行の原因だと考えられ、眼鏡の度は弱めに作られていました。しかし、弱めの眼鏡を装用するよりも、完全矯正眼鏡を装用した方が、むしろ近視は抑制されるとの研究結果が報告されています。

ただ実際には、その抑制効果は低いこと、以前と同じように眼鏡は弱めにした方が近視は進行しないと考えている眼科医が多いことから、弱めの眼鏡が処方されることがほとんどです。

遠近両用眼鏡、累進多焦点眼鏡は後で紹介するオルソケラトロジーや軸外収差抑制コンタクトレンズと同様、通常の眼鏡装用者よりも近視進行抑制があるとされています。しかし、その有効性は低く、完全矯正眼鏡と同程度です。

オルソケラトロジー

オルソケラトロジーは夜中にコンタクトレンズを装用することによって、角膜の形状を変え、昼は裸眼で遠くを見ることができます。

原理は角膜をレーザーで削って角膜のカーブを変えるレーシックと同じですが、メリットとして、手術によって角膜の形状を変えるわけではなく、小学校低学年でも治療が可能であることです。ガイドラインでは原則20歳以上が適用で、20歳未満の慎重処方とされ、医師の判断によって処方されています。

デメリットとして、毎日、あるいは二日に1回程度夜コンタクトを装用しないと元に戻ってしまうこと、23年で新たなレンズの変更が必要であること、通常のコンタクトレンズと同様にレンズケアが必要であることなどがあります。また、治療は健康保険の適用外です。小児の近視進行抑制効果として最も有効と言えます。

低濃度アトロピン

アトロピン(1%)点眼薬は散瞳薬(瞳孔を大きく広げる薬で、眼の診断などで使われます)の一つで、進行防止に最も有効だと分かっています。しかし、副作用として散瞳するためにまぶしさ、見えにくさなどの眼症状は必ず起き、全身症状として顔の発赤、発熱が起こることもあります。

海外の研究で得られた結果では、アトロピンを低濃度(0.01%)にした点眼薬は副作用が少なく、オルソケラトロジーと同程度の近視進行抑制があります。また、アトロピン(1%)点眼薬でみられた、中止すると急に近視が進行するリバウンドも低濃度アトロピン点眼薬ではほとんどないことが分かっています。

しかし、最新の日本の大学での研究グループの結果では有効性は無いとの報告も出ており、今後の研究結果が待たれます。こちらも健康保険は適用されません。

軸外収差抑制コンタクトレンズ

軸外収差抑制コンタクトレンズは眼に入る光の方向によってピントが異なります。日本では販売されておらず、海外では既に販売されていますが、通常のコンタクトレンズに比べると高額です。

中高年用の遠近のコンタクトレンズの一部がこの軸外収差抑制コンタクトレンズと類似しており、アメリカでは近視進行抑制として子供に処方されています。近視進行抑制のメカニズムはオルソケラトロジーと同じですが、オルソケラトロジーは近視が強い方には適応外であるのに対して、これらのコンタクトレンズは近視が強い方でも装用可能です。

まとめ

近視は回復することはできません。近視は予防するか進行を抑制するかしかありません。予防や進行抑制について様々な研究がされていて、一定の効果は出ています。最も有効とされているのはオルソケラトロジーと低濃度アトロピン点眼薬ですが、それぞれメリット・デメリットがありますので、これらを取り扱っている眼科専門医で相談してください。