近年、「医療的ケア」という単語を聞いたことがある方は多いかと思います。医療の進歩により救命が行われ、退院後は自宅や学校などの社会生活において酸素・人工呼吸器・経管栄養・たんの吸引などの「医療的ケア」を必要とする子供たちが増加しております。ここでは、増加傾向である医療的ケア児に関して、その背景や身近な学校などでの社会生活に関して解説します。

目次

医療的ケアというものは、どういうもの?

病院以外の自宅・学校などの社会で生きていく上で必要な医療的なサポートのことを「医療的ケア」と言います。その例として、以下の物があります。

  • 「たん吸引」:のど、気管に溜まった痰を吸引します。
  • 経管栄養」:栄養をとるためのチューブを胃・腸に直接通します。鼻から食道を経由して胃に栄養を送る「経鼻経管」、おなかの皮膚を通して胃・腸管に直接的に栄養を送る「胃ろう」「腸ろう」があります。
  • 「酸素吸入」:鼻からのカニューレ(パイプ状の器具)や、口からのマスクにより酸素投与を行います。

この他に、呼吸をするための器具を喉に取り付ける「気管切開」や、「人工呼吸器」「尿道カテーテル」などがあります。これらの医療的ケアは病院では看護師が、自宅生活では医療機関で指導を受けた家族が主に行いますが、たん吸引などは研修を受けた保育者なども対応可能となっております。

医療的ケアを要する子供が増加している背景

医療的ケアを要する子供の原因疾患としては、先天異常・染色体異常などの出生前の異常と、周産期の異常(低出生体重児、出産時での低酸素性脳症など)、出生後の重症疾患(外傷、脳炎など)に大別されます。医療的ケアを必要とする子供である「医療的ケア児」は、近年では増加傾向であり、平成27年では約17,000人という報告がありました。今後も増加が予測されています。

この理由としては、医学の進歩によるところが大きいです。新生児集中治療室(NICU)における医療内容の進歩により、出生体重が500g程度であったり、先天的な異常(染色体異常)などによる多発する内臓の病気であったりと、以前では新生児期に亡くなっていたケースでも、救命可能である割合が増加しました。

医療的ケア児が生活する場所

手をつなぐ親子

医療的ケアを必要とする子供が、退院して自宅で過ごすには、様々なサポートが必要となります。生まれた時から関わっている医療機関の他、軽い症状の時に気軽に相談・診療が可能である医師(訪問診療を行う場合が多いです)、訪問看護福祉行政教育の様々なサポートなど多くの方が関わっていきます。

医療的ケアを必要とする子供は、ほとんどの認可保育所や幼稚園では通園を断られるという現状があります。その理由としては、形態が異なる食事を用意して直接胃に注入する、呼吸器や酸素などの管理を行う「医療的ケア」を行うことができる担当者がいないからです。
こうした事情から、両親のどちらかが仕事を辞めて24時間365日子供に付き添いをしておりました。

近年ではこうした医療的ケア児に対応することができる施設も増加しております。こうした施設では、自宅に近い環境で生活をする場所を提供することが可能となります。そのほとんどは日中を預かるサービスですが、短期宿泊(短期入所・メディカルショートステイ)など、対応は増えてきております。

こうしたサービスを利用することにより社会において子供の発育が促され、施設を通してスタッフ・他の家族との交流が可能となります。また、自宅でのケアによる睡眠不足の解消など、養育者の負担軽減にもつながります。

医療的ケア児は、小学校からは養護学校・特別支援学級へ通学することがほとんどです。小学校6年間、中学・高校6年間の合計12年間通学し、ここでは個人ニーズに合わせた教育が実施されます。このため、1クラスあたり平均で3-4人と少人数であることが特長です。地域社会とのつながりを重要とするため運動会・文化祭などの学校行事を行い、家族・地域の方を招くなど、地域ごとで様々な工夫が行われます。

通学して教育を受けることが難しい場合には訪問教育が実施されます。

まとめ

医療の進歩により、生活に医療デバイスを必要としている子供(医療的ケア児)は増加傾向です。医療的ケア児の生活は、様々な医療・福祉・行政などの多角的サポートが必要ですが、医療的ケアに対応できる通所・短期入所施設が少しずつ増加しております。また就学後も個人に合わせた教育を受け、地域社会との交流を深める場所が増加しています。