「新生児マス・スクリーニング検査」は、赤ちゃんが生まれつき持っている先天性代謝異常を早期に発見することで、障害の発生を予防し、重症化を避けることを目的とした検査です。ではこの検査では具体的に、どのような疾患が判明するのでしょうか。それぞれの疾患の治療法とあわせて解説していきます。

なお、検査の目的・方法の詳細については、記事『生後4~6日の新生児が対象「マス・スクリーニング検査」のメリットとは?』をご覧ください。

目次

先天性代謝異常とは?

私たちは食物を食べ、その栄養素を消化・吸収しています。その過程で、さまざまな酵素が働き、吸収された栄養は体の働きを助ける物質に形をかえられ、体内で利用されます。この働きを代謝といいます。

酵素はたんぱく質から構成されていますが、何らかの異常により酵素が作られない場合不足してしまうと代謝がとどこおってしまいます。代謝がとどこおると特定の物質が体内の臓器(脳・肝臓など)にたまってしまう、もしくは必要な物質が作られなくなり、体を正常に機能させることができなくなります。こういった代謝のトラブルをうまれながらかかえているのが先天性代謝異常で、治療せずにいると発育不良、知的障害、肝機能、腎機能などの異常などがおこります。

また、体の調節にはホルモンも関わっています。ホルモンは脳下垂体や甲状腺、副腎などから分泌され、特定の臓器に運ばれ、体の発育を促したり、体の働きを調節したりしています。このホルモンが多く出すぎたり不足したりするとバランスがくずれて、さまざまな体調不良を引きおこします。生まれつきある種のホルモン分泌が不足していると、発育不良知的障害を招くケースがあります。

検査でわかる先天性代謝異常は?それってどんな病気?

内分泌疾患

1.先天性甲状腺機能低下症

甲状腺から分泌されるホルモンが生まれつき不足している疾患です。甲状腺ホルモンは新陳代謝(しんちんたいしゃ)や神経の発達成長に関与するホルモンであり、このホルモンが正常に分泌されないと発育不良、知的障害が出現します。

早期にホルモンを補充するなどの適切な治療を開始することで、発育不良や知的障害の出現を予防することができます。この疾患が発見される頻度は3,000人に1人といわれています(札幌市公式ホームページより)。

2.先天性副腎過形成症

副腎皮質ホルモンをつくる過程で必要な酵素の異常から、副腎皮質ホルモンの分泌が不足する疾患です。この疾患が発見される頻度は15,000人に1といわれています(札幌市公式ホームページより)。

副腎皮質ホルモンは、体のストレスを和らげる作用を持つほか、糖や塩分の代謝、性の機能に必要なホルモンであるため、発育不良女児では外性器の男性化が見られます。重症の場合には電解質の異常による不整脈・脱水などで死亡するケースもあります。こういった症状の予防のため、早期にホルモン補充などの治療を開始することが必要です。

糖質代謝異常

ガラクトース血症と呼ばれる病気が該当します。ガラクトース血症はミルクに含まれる糖(ガラクトースやガラクトース-1-リン酸)の代謝に必要な酵素の異常によって発症します。

糖の代謝がうまくいかないと、白内障(はくないしょう)や精神・運動発達の遅れが出現し、肝硬変(かんこうへん)などで死亡するケースもあります。症状の予防のために、早期に特殊ミルクを開始します。

この疾患が発見される頻度は30,000人に1人といわれていますが、ただちに治療が必要な重症例はまれです(札幌市公式ホームページより)。

アミノ酸代謝異常

食事からとったタンパク質は分解されてアミノ酸になります。アミノ酸代謝異常では、ある特定のアミノ酸の利用や分解がうまくできずに体内にたまり、精神発達の遅れ重度の体調不良を引きおこし、重症例では意識障害やけいれんをおこすものもあります。

これらの症状を予防するためには、特定のアミノ酸を除去した特殊ミルクタンパク制限食といった食事療法を行います。新生児マス・スクリーニング検査で発見されるアミノ酸代謝異常には下記のような疾患があります。

  • フェニルケトン尿症
  • メープルシロップ尿症
  • ホモシスチン尿症
  • シトルリン血症1型
  • アルギニノコハク酸尿症

有機酸代謝異常

有機酸はアミノ酸が体内で変化して産生される物質です。特定の有機酸の代謝が上手にできずに体内にたまると、哺乳不良(ほにゅうふりょう)や嘔吐、けいれんなどを引きおこします。

これらの予防には特定のアミノ酸を除去した特殊ミルクタンパク制限食といった食事療法が必要です。新生児マス・スクリーニング検査で発見される有機酸代謝異常には下記のような疾患があります。

  • メチルマロン酸血症
  • プロピオン酸血症
  • イソ吉草酸血症
  • メチルクロトニルグリシン尿症
  • ヒドロキシメチルグルタル酸血症
  • 複合カルボキシラーゼ欠損症
  • グルタル酸血症1型

脂肪酸代謝異常

わたしたちのからだは、空腹時や運動時などに食事からのエネルギーが足りなくなると、体内の脂肪を分解してエネルギー源にしています。この過程が上手に働かずエネルギー不足となると、低血糖急性脳症など重度の体調不良を生じます。普段の生活では無症状でも、風邪などで食事がとれない際に症状をきたすケースもあり、乳幼児突然死の原因になることもあります。

予防として、空腹を避けるため食事の間隔を短くし、低血糖発作をおこさないようにします。新生児マス・スクリーニング検査で発見される脂肪酸代謝異常には下記のような疾患があります。

  • 中鎖アシルCoa脱水素酵素欠損症(Mcad欠損症)
  • 極長鎖アシルCoa脱水素酵素欠損症(Vlcad欠損症)
  • 三頭酵素/長鎖3-ヒドロキシアシルCoa脱水素酵素欠損症(Tfp/Lchad欠損症)
  • カルニチンパルミトイルトランスフェラーゼ―1欠損症(Cpt1欠損症)

先天性代謝異常に対する主な治療法

哺乳瓶-写真
治療は先天性代謝異常の種類によって異なり、また同じ疾患でも重症度で治療内容は変わります。生涯にわたって治療が必要なケースもあれば、治療せず経過観察のみで良いケースもあります。

非常にまれな先天性代謝異常もあり、対象疾患の治療を熟知している大学病院やこども医療センターの専門医師(コンサルト医師)とかかりつけの小児科医が連携して治療にあたります。先天代謝異常症は、小児慢性特定疾患治療研究事業により自治体から医療費の助成が受けられます。

なお疾患によっては、過度な運動や成人してからの飲酒で体調悪化を招くケースがあり、それらが制限される場合もあります。就学やスポーツをはじめる際などには、主治医や看護師、担任、養護教諭などと食事のとり方や運動量など相談していくと良いですね。

主な治療法には下記のようなものがあります。

1.特殊ミルク・食事療法

特殊ミルクは疾患に応じて特定の栄養成分を制限あるいは強化したミルクです。特殊ミルクの多くは主治医より無料で提供されますが、フェニルケトン尿症、メープルシロップ尿症の特殊ミルクは医薬品として保険適用となっており、処方されます。

離乳食および通常の食事をとるようになると、それぞれの疾患にあわせて特定の栄養素を制限する食事療法が必要なケースもあります。

2.治療薬の服用

疾患によってはビタミン剤(B1、B2、B6、B12、ビオチンなど)が有効なものがあります。また有機酸代謝異常ではカルニチンという薬剤を使用することがあります。カルニチンには有害な有機酸と結合し、体外に排泄させる作用があります。

3.生活上の注意

脂肪酸代謝異常では、哺乳や食事の間隔が長くならないよう注意する必要があります。また風邪などで食事がとれないときには、早めに受診し、ブドウ糖点滴を行うなどの対処をとることが重要です。

まとめ

新生児マス・スクリーニング検査によって判明する疾患のなかには、すぐに症状が出現するものもあれば、今は無症状でも放っておくと発育不良や知的障害の原因となるものもあります。必要な治療を早期に開始して、症状の重篤化や発育不良を避けたいものです。特殊ミルクや食事制限などが必要な疾患もあり、医師や看護師、保健師などのサポートをしっかり受けましょう。