不育症の約半数は、偶然流産が続いただけで、特別な治療を受けなくても、次回の妊娠で良好な経過を辿ることができるとされています。ですが残りの半数は、不育症のリスク因子が隠れている場合もあるため、詳しく調べるためには病院での検査が必要になります。ここでは、不育症が疑われる場合の検査の内容や治療法についてお話ししたいと思います。

目次

不育症の検査は必要?

2回以上の流産・死産・早期新生児死亡(生後1週間以内に死亡する場合)を繰り返した場合には、不育症のリスク因子を調べるための検査を受けることが勧められます。

ただ、不育症の約65%はリスク因子不明であり(厚生労働省より)、検査を行ってもリスク因子がわからないケースも多いのが現状です。検査方法は多くありますので、どこまで検査を行うかはパートナーや医師と相談して判断することになります。

不育症の検査

不育症の検査には大きく分けて、科学的根拠が十分ある不育症一次検査(一次スクリーニング検査)と、根拠は十分ではありませんが不育症との関連が示唆される選択的検査の2種類があります

不育症一次検査

子宮形態検査

子宮の形態異常(双角子宮や中核子宮、子宮筋腫など)がないかを検査する方法で、造影剤を子宮内に入れて子宮の形を見る子宮卵管造影検査(HSG)や、生理的食塩水を子宮内に入れる経腟超音波検査(子宮腔内液体注入法)、MRI、3次元著音波検査などがあります。

内分泌検査

血液検査を行い、ホルモンの値をチェックする方法です。甲状腺機能亢進症・低下症、糖尿病などでは流産のリスクが高くなることがわかっています

夫婦染色体検査

妊娠初期の流産の約80%は、胎児の偶発的に発生した染色体異常によるものです(厚生労働省より)が、夫婦の染色体異常が胎児に影響を及ぼす場合があります。そのため、夫婦2人共の染色体検査が必要になります。

検査の結果、夫婦どちらかに染色体異常が見つかった場合、今後の夫婦関係にも影響を及ぼす可能性があるため、遺伝カウンセリングが受けられる専門の病院で、更に詳しい検査を受けることが勧められます。検査結果の伝え方も、夫婦どちらに原因があるか特定せずに伝達するという選択肢もあります。

抗リン脂質抗体検査

抗リン脂質抗体は凝固異常を引き起こす原因の1で、不育症の原因となるだけでなく、妊娠高血圧症候群や胎盤機能不全などの疾患を引き起こし、妊娠経過に重篤な影響を及ぼす可能性があります。抗リン脂質抗体があると、絨毛や胎盤に血栓ができ、赤ちゃんへ酸素や栄養が行きわたらず、流産や死産を引き起こすと考えられています。

選択的検査

抗フォスファチジルエタノールアミン抗体(抗PE抗体)検査

抗リン脂質抗体の一種で、不育症のリスク因子の可能性がある抗体です。測定法や病原性の評価が定まっておらず、研究段階の検査ではありますが、不育症の22.6%でこの抗体が陽性という結果が出ています(厚生労働省より)

血栓性素因スクリーニング(凝固因子検査)

第XII因子活性、プロテインS、プロテインCの低下、APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)など、血液凝固に関連するこれらの因子は、不育症との関連が示唆されており、状況に応じて検査が実施されます。

不育症の治療法

不育症の治療方法については下記が挙げられます。

子宮形態異常に対する手術療法

子宮形態異常の状態によって、手術の有効性や術式が全く異なってきます。中隔子宮の場合は、手術を行った方が経過観察よりも妊娠成功率が高くなりますが、双角子宮の場合は、手術を行っても経過観察でも妊娠成功率を同じであるという報告があります。

内分泌異常に対する治療

甲状腺機能亢進症・低下症の場合、機能が正常になってから妊娠することが重要で、妊娠中も引き続き治療が必要になります。無治療での妊娠成功率は25と低いことがわかっています(厚生労働省より)。糖尿病の場合も血糖のコントロールができてから妊娠することが重要で、妊娠中や産後も継続した血糖の管理が必要になります。

染色体異常に対する治療

夫婦のどちらかに染色体異常が発見された場合、十分な遺伝カウンセリングを受け、今後の方針を決めることが重要です。染色体異常には多くの種類があり、無事に妊娠・出産に至る例もあれば、赤ちゃんになんらかの先天異常が起こる可能性がある例もあり、そのご夫婦によって方針も違ってきます。

抗リン脂質抗体症候群に対する治療

抗リン脂質抗体検査で一定の基準を満たした際に、抗リン脂質抗体症候群と診断されます。この病気は、特に妊娠中の血栓症のリスクを高めるため、血栓予防のために抗凝固作用のある低用量アスピリンやヘパリンの投与を行います。ヘパリンの投与は皮下注射で行うことができ、在宅自己注射が可能な場合があります

凝固因子欠乏症に対する治療

凝固因子である、プロテインSやプロテインC、第XII因子の欠乏症に、低用量アスピリン療法が良好な治療成績を得ているという報告があります。

また、低用量アスピリンにヘパリンを併用する療法が有効であるという報告もあり、欠乏している凝固因子や状況に合わせて、治療の適応が検討されます。

まとめ

不育症は、検査を受けることでリスク因子がわかる場合もありますが、偶然流産が続いた場合やリスク因子が不明な場合が65.3%存在します
また、検査によってリスク因子がわかったとしても、治療によって必ず流産を防げるわけではありません。

保険適応外の治療もあるため、リスク因子に対する治療は、ご家族や医師と十分相談し、納得したうえで受けるようにしましょう。カウンセリングを受けることも重要です。精神的な支援によって赤ちゃんを授かる率が改善することが報告されていますので、精神的な苦痛を少しでも感じている方はぜひカウンセリングを受けてみましょう。話を聞いてもらうことで、心が軽くなるかもしれません。