ランゲルハンス細胞組織球症(LCH)は、非常にめずらしい病気です(どんな病気なのかは「知っていますか?まれで不思議な病気、LCH(ランゲルハンス細胞組織球症)」をご覧ください)。

正しい診断に基づいて治療を行えば、症状はどんどん改善していきますが、病気自体がとてもまれな上に非常に様々な症状がみられるため、診断には時間がかかることがあります

今回の記事では国立成育医療研究センター 小児がんセンターの塩田曜子先生に、LCHの症状について「骨・軟部腫瘤編」「皮膚や肺など多彩な症状編に分けて解説していただきます。まずは、LCHで最も多くみられる、骨の病変についてです。(いしゃまち編集部)

目次

1.LCHならではの特徴があります

「ランゲルハンス細胞組織球症LCH」は、体じゅう、どこにでも病変を生じます。それゆえに、症状もとても多彩です。

まれな病気ではありますが、これまでの患者さんからのデータの解析により、LCHの症状には、「LCHっぽい」と思えるような特徴が多くあることがわかってきました。これらのちょっとしたポイントを知っておくことは、診断につながる重要な手がかりとなります。そして、正しい治療を始めたとたんに、ひどく進行したいくつもの病変があっという間に良くなっていくことも、LCHの大きな特徴のひとつです。

2.「骨に穴があく」「こぶができる」がLCH

「骨が溶けて穴があき、そこにこぶができる」という所見は、LCHにおいて最も多くみられる骨病変の特徴です。レントゲンやCTで、「打ち抜き像」、「パンチドアウト(punched out)」と表現されるように、きれいに丸く型を抜いたような溶骨所見がみられます。この部分には、LCH細胞の増殖や炎症細胞浸潤を生じており、大きな軟部腫瘤(こぶやおでき)をともなうことがあります。

骨病変は頭蓋骨、肋骨、四肢骨、肩甲骨、骨盤骨などの大きな骨や椎体によくみられ、単発、または多発の骨病変としてランダムに発生します。一方で、手首や足首よりも末端の細かい骨に生じるのはとてもまれであること、再発の多くは全く別の骨に生ずることが特徴です。

「両方の手と足首が左右対称に痛い」は病気ではなく、跳び箱や鉄棒をよく頑張ったからかもしれません。

LCHの症状 骨病変の分布

3.骨病変の代表的な症状とポイント

1)頭のこぶ

「打撲したあとなかなかこぶがひかない」
「打撲していないのにこぶができてきた」
「少し圧痛がある」
「じっとしていても頭痛がすることがある」
「はじめは急に硬く出っ張ってきた。しばらく様子をみていたら、だんだん軟らかくなりさわるとぶよぶよしてきた、そのうち中央から凹んできた」

これらはLCHにとても特徴的な症状で、腫瘤の内部で出血や壊死を生じると軟らかく触れることもあります。

溶骨の範囲が頭蓋骨の広い範囲に及んだ場合、まるで世界地図のようなレントゲン像となるので、「地図状頭蓋」と表現されます。

LCHの症状 頭部のこぶ

2)眼球突出

目のまわりの骨に病変を生じた際にみられる特徴的な症状です。軟部腫瘤によって片眼が少し圧迫され、目の位置に左右差を生じます。治療が効いてくると、目の腫れは少しずつ目立たなくなっていきます。

3)中耳炎・外耳道炎

耳とその周囲の骨のことを側頭骨といいます。この部位にLCHの骨病変を生ずると、中耳炎外耳道炎の症状を呈します。

「なかなか中耳炎が治らない」
「ひどく耳垂れが続く」
「外耳道に湿疹ができて、さわるとすぐに出血する」
「外耳道がふさがっていて鼓膜まで見ることができない」

これらの症状は、LCHに特徴的です。耳の病変は左右対称性に生ずることも多く経験されます。通常の耳鼻科治療ではすっきりしない症状が長期にわたるときは、なにか変ですし、小さいこどもが「耳をよくさわる」も、病気のサインかもしれません。

側頭骨の病変は、聴力や内耳の機能、顔面神経への直接の影響を与えることがあるほか、LCHによる晩期合併症という長期の問題が心配される中枢神経リスク部位のひとつです。そのため、早い対処が望まれます。

4)椎体病変

頸椎から腰椎までの背骨に生じる病変で、単発のことも、2個連なることもあれば、バラバラにたくさんという例もあります。脊柱からはみ出た軟部腫瘤が脊髄を圧迫して、神経の麻痺症状をきたす緊急事態も引き起こします。

症状としては、腰背部痛や頚部の痛みのために、立ったり座ったり、寝返りをすることが難しくなります。小さい赤ちゃんでは、「抱き上げると泣く、歩きたがらない」ということもあります。

また、神経症状として「おしりや足がしびれる、おしっこが溜まっているのに出しにくい」などをときどき経験します。溶けた椎体は潰れやすく、「扁平椎(へんぺいつい)」という形の圧迫骨折をきたすことが特徴的です。

LCHの症状 椎体病変

LCHの治療を開始すると、すぐに痛みから解放され、また、軟部腫瘤が縮小して神経の圧迫が解除されていきます。病変部位によっては、骨の修復がすすむまで、しばらくネックカラーまたはコルセットの装着や運動制限(ジャンプやでんぐり返しを避けるなど)が指示されることがあります。

でも、治療が終る頃には体育もできるようになりますし、ぺしゃんこに潰れた椎体も、数年かけてゆっくりと高さが回復していくことも経験されます。

5)溶骨病変と治癒過程

LCHの症状 骨の修復過程

骨は骨芽細胞(骨を作る造骨細胞)による骨形成と、破骨細胞(骨を破壊する細胞)による骨吸収を繰り返しており、ふたつがバランスよく働いて、常に新しく作り替えられています。しかしLCHの溶骨のスピードはとても速く、骨の再生が追い付きません。骨を硬く作る間もなく壊されてしまうので、LCHの穴の部分には造骨の際にみられる「辺縁の骨硬化像(レントゲンやCTで白く濃く写る)」が全く認められないことが特徴です。

LCHに対しては治療がとてもよく効き、たくさんの場所に溶骨病変を生じた場合でも、すぐに一斉に修復過程に入ります。すると、造骨がさかんになり、今度は溶骨部分の辺縁にはっきりと骨硬化像がみられるようになり、穴の周囲から次第に埋まっていきます。

そして、1年後には複雑な形の骨もまるで形状記憶合金のように、ほぼ元通りに修復されます。そのため、病変部を外科的に大きく切除する必要はありません。

骨病変を生ずる病気はたくさんあるため、ときどき、○○肉腫、と呼ばれるようなとても性質の悪い骨腫瘍と思われてしまうことがあります。

LCHの特徴を知っておくと、病変部分の骨破壊の形状や辺縁の骨硬化像の有無などの所見によって、「LCHっぽい」かどうか、ある程度予測ができます。

4.最後に

骨が再生してぐんぐん出来上がっていく様子は、検査をするたびに嬉しい驚きとなります。水泳も、サッカーも、そしてヘディングも、いずれはできるようになります。ですから、骨のことは、あまり心配されなくても大丈夫です。

次回の「皮膚や肺など多彩な症状編」では、骨病変以外の代表的な症状について解説します。