急性弛緩性麻痺という疾患をご存じでしょうか。発熱や風邪症状の後、数日が経過してから、手足などの麻痺や筋力低下などを引き起こす疾患です。近年、日本でも外国でもこの疾患の報告が増加しています。ここでは、急性弛緩性麻痺とはどんな病気なのかを解説します。

目次

急性弛緩性麻痺とは

急性弛緩性麻痺(Acute Flaccid Paralysis: AFP)とは、ポリオ(日本では自然発生がありません)に似た症状や疾患を見逃さないために提唱されました。

ポリオウイルスは、感染初期には下痢や軽度の風邪症状、発熱がみられますが、その1~2週間後より四肢(手足)の麻痺が進行して、後遺症として四肢麻痺が残る疾患です。このように「急性に四肢の弛緩性運動麻痺を呈する疾患」を急性弛緩性麻痺と呼んでいます。

2014年のアメリカでは、夏風邪の一つであるエンテロウイルスD68の感染と同じ時期に、前述したポリオに似た運動麻痺が起こり後遺症を残した症例が多く報告されました。翌2015年の日本においても、同じエンテロウイルスD68による感染症が流行し、同様の症状を引き起こす症例が報告されました。

急性弛緩性麻痺には、ポリオやエンテロウイルスの他にも、ギランバレー症候群、ボツリヌス症、急性脊髄炎なども含まれますが、ここでは近年に流行したエンテロウイルスD68などのウイルス感染に関連する症状を記載します。

急性弛緩性麻痺の特徴や症状

アメリカ・日本の報告によると、この疾患のほとんどは幼児期から学童期の小児に発症します。症状は風邪と同様で、ほとんどが発熱を認めて、咳や鼻水などの呼吸器の症状下痢・嘔吐・腹痛の消化器症状が多くみられます。

こうした風邪の症状に引き続き、初めの症状のおおよそ3~5日後に、四肢の脱力・筋力低下による麻痺がみられます。風邪の症状がみられてから、急に歩けない、ドアのノブをまわせない、文字が書けないなどの麻痺を疑う症状がみられた時点で受診をおすすめします。

このほかに言葉の発音が不明瞭である、食事を飲み込みにくいなど生活機能の低下も判断材料として重要です。重症例では、呼吸筋が麻痺して呼吸不全となる場合もあります。

この麻痺のレベルとしては、片手や片足でみられることもあれば、両側の上下肢でみられることもあります。運動機能の麻痺は急速に進行することが特徴です。

急性弛緩性麻痺の診断・治療・予後

患者さんの診断としては、神経の系統での病変を検索する目的で、頭部や脊髄の画像検査(MRI)が実施されます。また、神経の伝導検査を行い末梢の神経障害・麻痺のレベルを判断します。

この他には、原因となる微生物に関しての検索が実施されます。便・のど・尿・血液などからウイルスの遺伝子の有無を確認し、原因微生物を検索します(PCR法やウイルス分離)。

この疾患の治療としては、まだ実証されている方法はありません。ウイルス感染に伴う免疫異常が推定されるため、免疫グロブリン(免疫において重要な役割をになうタンパク質)の点滴投与、抗ウイルス薬、ステロイドの大量投与(ステロイドパルス療法)、血漿交換などが実施されますが、明らかに効果がみられたという報告は少ないのが現状です。

この疾患の予後(病状についての見通し)は悪い傾向があります。運動機能はある程度改善する傾向がありますが、75~90%の症例で筋力低下が残ります。麻痺した上下肢では、筋肉の萎縮による筋力の低下が残ります。

急性弛緩性麻痺の予防方法

赤ちゃん

原因ウイルスはある程度推定されていますが、効果的な予防方法やワクチン、治療方法がないのが現状ではあります。原因ウイルスと推定されているエンテロウイルスD68も風邪のウイルスの一つですので、インフルエンザと同様に手洗いをしっかりしてうがいをすること、また、他人にウイルスをうつさないなどの対応のためにマスクによる予防もよいかと思われます。

まとめ

急性弛緩性麻痺は小児、特に幼児期から学童期に好発します。症状は通常のウイルスの風邪と同じ症状で始まりますが、発症してから3~5日後に手足の麻痺や運動機能の低下などの症状がみられて進行していきます。

現時点では、有効な治療方法は明らかにはなっていないため、最終的にはポリオウイルス感染症と同様に麻痺・運動機能低下が残存します。

予防には、手洗いうがい、マスクによる一般的な方法が有効です。