夏にも熱やのどの痛み、咳などをおこす、風邪のような病気がいろいろとあります。これらは本来、まだ免疫を持っていないお子さんがかかりやすい病気ですが、お子さんと接するお父さん、お母さんにうつってしまうことも稀ならずあるようです。また、咳が長引くときに、この季節特有の病気がありますので、あわせてご紹介します。

目次

夏に流行るウイルス① エンテロウイルス属

エンテロウイルス属の仲間は、コクサッキーA・Bウイルス、エコーウイルス、エンテロウイルスなど、様々な種類に分類されています。

年ごとに流行するウイルスは異なり、複数の種類のウイルスが同じ症状をきたしうることが知られています。代表的なエンテロウイルスによる病気について紹介します。

急性上気道炎(夏かぜ)

症状:だるさや発熱、のどの痛み、筋肉痛など。

通常、数日で自然に治ります。長引く場合は医師の診察を受けましょう。

急性胃腸炎

症状:腹痛、下痢、嘔吐などの症状。

これも自然に治りますが、夏場は細菌性の腸炎も多くなる季節です。腹痛や熱、血便など、症状が強い場合は医師の診察を受けましょう。

ヘルパンギーナ 熱とのどの痛み

症状:発熱(2-4日)とほぼ同時に、のど・口の中の痛み。

口腔粘膜、主に口蓋垂(のどちんこ)やその周囲など、喉の奥のほうに白っぽく口内炎のような水疱(水ぶくれ)ができ、大変痛いです。普通の口内炎やヘルペスと異なり、歯肉部分には少ないのが特徴です。腹痛を伴う場合もあります。お子さんの場合は治るまで水分補給と食べ物の工夫が必要です。

詳しくはこちらもご覧ください。
NIID 国立感染症研究所「ヘルパンギーナとは」
厚生労働省の管轄する機関である国立感染研究所による、感染症に関する情報ページです。専門的な表現が含まれますが、詳細な情報が記載されています。また、同サイト内ではウイルスの流行状況なども発信しています。
記事「夏風邪・ヘルパンギーナの3つの症状!大人がかかると重症化する?いつから登園してよい?
小児科専門医による解説記事です。ヘルパンギーナの基本情報に加え、お子さんの登園・登校のタイミングについても記載しています。

手足口病

症状:1~2日間の軽度の発熱の後、手と足、口に水疱性の発疹ができる。

口内にできる発疹はヘルパンギーナ同様痛みが強く、水分や食事がとりにくくなります。通常、3~7日で自然に治ります。

子どもに多い病気ですが、発症したお子さんから身近な大人がうつってしまう例も少なくありません。水疱や便にウイルスが排出されるので、それが感染源となります。大人の症例について、まとまった報告例はありませんが、子どもの症状よりも強い場合があるようです。1例を挙げると、手足の発疹が痛みを伴なって、長引くことなどが記載されています。

手足口病でもう一つ注意するべきは、時に重篤な髄膜炎や脳炎など神経系の合併症がみられる事です。1990年代から2000年代にマレーシア、台湾、中国など東アジアにおいて多数の死亡例が報告されました。本邦においても2000年代に入って少数の重篤症例の報告があります。EV71というタイプのウイルスでこのような合併症が見られやすいことが知られています。

髄膜炎、脳炎では発熱の持続、頭痛、嘔吐、元気のなさ、意味不明の言動、ひきつけなどの症状がおこります。手足口病は子どもにとってありふれた感染症であり、ほとんどは数日で自然に回復する病気ですが、このような重篤な合併症の兆候がないか、なるべく安静にして、気を付けて見ておく必要があるでしょう。髄膜炎については次項でご説明します。

詳しくはこちらもご覧ください。
NIID 国立感染症研究所「手足口病とは」
国立感染症研究所の情報ページへ移動します。
■記事「夏に多い手足口病ってどんな病気?
「いしゃまち」内の別の記事へ移動します。

無菌性髄膜炎

症状:頭痛、吐き気、だるさが目立つ場合

髄膜とは脳と脊髄の周りを包んでいる膜のことで、脳・脊髄と髄膜の間は脳脊髄液というさらさらした液体で満たされています。無菌性髄膜炎とは、ここに病原体が入り込んで炎症が起こる病気です。

強い炎症が起こると脳に障害が残る場合もあり、重症化すると命にかかわることもあるので注意が必要です。細菌性の髄膜炎については定期接種化されているものもあり、ワクチンでかなりの部分が予防できます(KNOW★VPD「ヒブ感染症」「小児の肺炎球菌感染症」より)。

エンテロウイルスによっておこる髄膜炎は、発疹やのどの痛みなどははっきりせず、頭痛や吐き気、だるさなどが目立つ場合に注意するべき病気です。細菌性の髄膜炎と異なり、通常は自然に治りますが、重症化する場合もあるので、いつもと異なる頭痛やだるさ症状があるときには安静を保ち、医師の診察を受けましょう。

夏にはやるウイルス② アデノウイルス

流行性角結膜炎(はやり目)

症状:両目が赤くなり涙がたくさん出て、目やにも増える

耳の前側のリンパ節が腫れることも特徴と言われています。涙や目やにを通じて人から人へうつる性質が強く、注意する必要があります。迅速診断キットがあり、確定診断に役立ちます。

咽頭結膜熱(プール熱)

症状:熱と眼症状とのどの痛み

熱は38度~39度台に上がることもあります。症状が強い場合は、ほかの病気との区別が必要となりますので、医師の診察を受けましょう。通常1週間程度で治癒します。目の症状が強い場合は眼科で治療を受ける必要もあります。

詳しくはこちらもご覧ください。
東京都感染症情報センター「咽頭結膜熱(PCF)」
東京都感染症情報センターのページへ移動します。

夏のウイルス性疾患の対処法

アイス

以上挙げてきました、夏に増える病気についてですが、すべてウイルスに伴う病気で、しかもワクチン等の予防法や治療薬などの原因療法がありません。基本的には対症療法と安静で自然に治るのを待つ必要があります。つまり、ご自分の免疫力が重要ということです。

免疫力を高める方法は実はよくわかっていないのですが、まずは余計な負荷をかけないことが重要です。温度はちょうどよく、水分、栄養をなるべくしっかりと補給し、安静にすることが望ましいでしょう。熱い日であれば適度のエアコンをつけてよいでしょう。

よく、温めると直りが早いと言って布団をかぶったりすることがあるようですが、熱がこもって、高体温から熱中症や脱水症などにつながりかえって危険ですのでやめましょう。発熱時は氷枕で首の後ろやわきの下を冷やすと良いでしょう。ただし、熱が下ることを期待してずっと冷やし続ける必要はなく、快適さを保つことを目的とすれば良いでしょう。汗をかいたらこまめに着替えてください。

お子さんの場合、ヘルパンギーナや手足口病では口が痛くて呑み込みが困難になるので、スープやアイスクリームなど酸味の少ないものを少しづつ食べさせましょう。夏休みにレジャーや旅行に出かけるときは余裕をもって行動し、具合が悪くなったら休ませるようにしましょう。無理せず休むことが重要です。体温計を携行して熱が出ていないか確認し、食欲や元気を確かめてください。

予防法としては、うつらないように気を付けることが中心となります。くしゃみや水疱(水ぶくれ)、便を通じて移りますので、マスク、手洗いの励行などはある程度有効です。睡眠を十分にとり、体調を整えることで、たとえかかっても軽く済むことが期待できます。

夏の長引く咳 過敏性肺炎、咳喘息

一年を通じて、長引くをきたす病気はあるのですが、この時期特有のものとして、夏型過敏性肺炎と呼ばれる病気があります。梅雨から夏にかけて増殖する、トリコスポロンというカビに対する特殊なアレルギーによっておこることが知られています。

埃っぽい部屋のお掃除をした、かび臭い空気をしばらく吸う環境にあった、などに続いて空咳と熱感が生じ、息切れを伴ってくるようであれば、注意が必要です。同じような経過と症状で喘息/咳喘息の可能性もありますが、このような症状があったら、呼吸器内科の医師の診察を受けることをお勧めします。

詳しくはこちらもご覧ください。
日本呼吸器学会「過敏性肺炎」
日本呼吸器学会のページへ移動します。