みなさんはポリオという病気について聞いたことがあるでしょうか。子供が居る方は、予防接種でポリオワクチンという名前を聞いたことがあるかもしれません。しかし身近で「ポリオに罹った」という話は聞くことがないため、実際ポリオがどんな病気なのか知らない人も多いのではないかと思います。

そこで今回は、ポリオがどんな病気なのか、詳しく見ていきたいと思います。

目次

ポリオとは

ポリオとは、別名急性灰白髄炎(きゅうせいかいはくずいえん)とも呼ばれ、ポリオウイルスの感染によって手足の麻痺などの症状が現れる病気です。かつては子供によく発生し、小児麻痺という呼ばれ方もしていました。

現在、日本国内ではワクチンの普及により発症数が大きく減少しており、日本を含む西太平洋地域ではWHO(世界保健機構)によって根絶宣言(全く発症が確認されなくなったという宣言)が出されています。しかし、依然としてパキスタン、アフガニスタンなどではポリオの流行がみられ、ほかの国や地域への感染の広がりが問題となっています。

ポリオの原因、ポリオウイルスとは

ポリオウイルスはエンテロウイルス属と呼ばれるグループに分類され、主に口からの侵入によって感染します。

口から入ったポリオウイルスは、そのまま喉に定着したり、あるいは飲み込まれて胃や腸に定着したりして、その場で増殖を始めます。増えたポリオウイルスは腸管とその周りのリンパ組織、血管内に侵入し、最悪の場合は、血液の流れにのって脳や脊髄などの中枢神経にたどり着き、炎症を起こして破壊してしまうのです。

ポリオの症状

発熱

ポリオに感染しても、90%以上の確率でなにも症状が出ることなく、そのまま治ってしまうことが知られています。症状が出るのはわずか数%で、そのほとんどは、風邪のような発汗、嘔吐、下痢といった胃腸炎に似た軽い症状しか現れず、それも2、3日で治ってしまいます(国立感染症研究所 感染症情報センターより)。

しかし怖いのは重症化を引き起こしてしまった場合です。この時の症状の出方には2種類あり、それぞれ非麻痺型麻痺型と呼ばれています。

非麻痺型

ポリオウイルスが中枢神経を囲う髄膜という膜に定着し、髄膜炎というものを引き起こします。最初は風邪に似た症状が現れますが、数日経つと首、背中、脚などが固くなり、知覚過敏感覚異常が起こってきます。これらの症状は2〜10日ほど続きますが、その後次第に軽快していきます。

麻痺型

麻痺型では、非麻痺型と同様に髄膜炎が引き起こされますが、風邪のような症状が現れたあと、一週間ほど何の症状もない状態が続きます。しかしそれが過ぎると発熱、頭痛、筋肉痛などが現れはじめ、同時に四肢の麻痺が進んでいくのです。

麻痺は2、3日ほど進行したあと、熱が下がりはじめると同時に安定した状態となり、そこから症状がひどくなることはめったにありません。また通常は右半身と左半身で麻痺の出方に違いがあり、感覚の消失などは起こりません。

安定し始めてから数週間程度経つと、筋力が回復してくる場合もありますが、約半数で、筋肉が固まって動かなくなってしまう筋拘縮や、運動障害などの後遺症が残ってしまうことが知られています。

最悪の場合では麻痺がかなり進行し、呼吸不全を起こして死亡してしまうこともあり、麻痺型となった子供のおよそ4%、大人では約10%程が死亡してしまうといわれています。

ポリオの治療、予防

治療

ポリオの治療方法ですが、実はポリオに対しては特別に有効な治療法というものは存在しません。つまり、一度発症してしまうと、対症療法的な治療しか行えず、重症例では完全な回復が難しいのです。そこで、ポリオはいかに予防するかが重要になってきます。

予防

ポリオは、ワクチンによる予防を行うことができます。

かつて日本で行われていた経口の生ワクチンによる2回投与方式では、平均して90%程前後の確率でポリオに対する免疫力を獲得することができました(横浜市衛生研究所より)。しかし、ポリオの生ワクチンの接種では、接種者がポリオのような麻痺となる稀なケースがありました。

このため、日本では2012年以降はジフテリア・百日咳・破傷風・ポリオの4種混合ワクチンとして、4回接種が行われるようになりました。ポリオワクチンの普及によって、日本では現在ポリオへの感染者は確認されていません。

一方で、ポリオの予防接種は有効なものですが、もちろん副作用も存在します。現在日本で使われているのは不活化ポリオワクチンと呼ばれるものですが、このワクチンでは副作用として、接種した場所が赤く腫れる、発熱、傾眠(ウトウトしやすくなる)、易刺激性(いしげきせい、些細なことで不機嫌になりやすい)などがみられるとされています。

しかし、一番多い「腫れ」の症状でも現れるのは60%程度(横浜市衛生研究所より)といわれており、どの症状もほとんどの場合一時的なものなので、過剰に心配する必要はありません。接種にあたって不安に思うことがあれば医師とよく相談しましょう。

まとめ

ポリオは、多くの場合軽い風邪のような症状しかあらわれず、問題をおこすことなく治りますが、ごくまれに重症化し、四肢の麻痺や呼吸困難を引き起こしてしまう病気です。

一度かかってしまうと治療が難しく、最悪の場合死亡する場合もあります。そのため、ワクチンによる予防が重要視され、現在では四種混合ワクチンの一部として定期接種が行われています。予防接種は個人への感染予防の観点だけでなく、集団の感染予防・拡大阻止のためにも有効な手段です。