「あなたは○○という病気です」

こう診断されたら、まずどんな行動を取るでしょうか。症状や治療について医師に尋ねたり、Web検索をしたりする方が多いかもしれません。聞いたことのない病名であればなおさら、知りたいことは山のようにあるはずです。

さて、ランゲルハンス細胞組織球症(LCHは非常にめずらしい病気です。こうした希少疾患では、診断を受けた患者さんが懸命に調べても、あまり多くの情報は見つからないという現状があります。

このような状況で患者さんの支えとなるのが患者会です。LCH患者会は、さまざまな悩みを抱える患者さんたちの拠り所の一つとなっています。

今回はLCH患者会の活動について、患者会役員4名(小児患者さんの保護者3名・成人患者さん1名)に取材しました。

目次

お話を伺った方の紹介

患者会は、何より頼れる存在

現在のLCH患者会が設立したのは2015年です。ですが、前身となった患者会の発足は15年前に遡ります。現在の役員4名は、当時の会員だったそうです。

今と違い、当時はSNSなどありません。情報を得ることもままならず、周囲に同じ病気の人もいない…そんな状況において、患者会は本当に頼りになる存在だったといいます。

「真っ暗な嵐の海に出ていって、小舟に揺られていたところに、一筋の灯台の明かりが見えたような感覚でした」(笠原さん)

しかし会の運営は骨の折れる仕事であり、LCH患者会は一度解散してしまいました。当時の世話人で、会が閉じられるという話を聞いた恒松由記子先生から、「それでも続けなければ」と声が掛かったのが現役員の4人だったそうです。

迷った末に、自分たちと同じような思いで患者会を頼る人がいることを思い、引き受けることにした4人。そうして、LCH患者会は現体制にて新たなスタートを切りました。それぞれに仕事や家庭もある中で、専門医の協力を得ながら、思いやりに満ちた運営を行っています。

交流会では、それぞれの立場ならではの悩みを共有

LCH患者会が主催する大きなイベントが、「患者会総会」「会員交流会」です。総会は、LCHを専門とする医師の講演と、患者さん同士の交流会との2部構成で行われます。

「先生たちが患者さん向けに最新情報を伝えてくださる機会はそう多くないので、話を聞きたい患者さんは多いと思います。それに、LCHは(患者数が)とても少ないので、身の回りに同じ病気の方はまずいらっしゃいません。“自分だけじゃない”ということを感じられるという意味でも、交流会を楽しみにしてくださっている方は多いと思います」(依田さん)

交流会では、小児(保護者)と成人に分かれて相談をします。小児では、症状や治療に加え、家族やきょうだいのことに関する相談が多いようです。一方、成人患者さんでは仕事や家庭に関する悩みが生じます。さらに、小児期にLCHを経験し、その後別の症状に悩まされている患者さんなど、同じ病気でも立場によって悩みは様々です。

LCHは、一般のがんと違って詳しい医師が全国に少なく、患者さんたちの暮らす地域もそれぞれです。全員に機会を提供することは難しいといいますが、それでも、総会や交流会は患者さんたちにとって大切な場になっています。

治療法、診療科、病院探し…患者さんの不安は尽きない

写真:笠原さんが作成した講演原稿・陳情書、依田さんが作成した総会報告書。総会報告書では、いしゃまちの連載についてもイラスト付きでご紹介いただきました。

LCH患者会は、Webサイト経由でたどり着く患者さんが多いといいます。

「業者さんに頼むような資金力はないので、夫にパソコンスクールに通って作ってもらいました。写真は私が(素材集から)選んでいますし、規約や文章は依田さんがほとんど作っています。みんなで手作りしたサイトです」(笠原さん)

そして、このサイトに送られてくる相談メールに応えるのも、役員の仕事の一つです。

相談内容は、多岐にわたります。LCHってどんな病気ですか?」「先生を紹介してくれませんか?」「抗がん剤を使っていますが、がんなのですか?」といった質問に加え、適切とは言い難い治療(とても大掛かりな手術など)を受けた患者さんからメールが届くこともあるといいます。大学病院に入院している患者さんからこうした相談が来ることもあり、依田さんは「未だに知られていない部分も大きいんだなと、ちょっと落ち込む時もあります」と話します。

成人患者さんの場合、転科についての問い合わせも多く寄せられます。本来は血液内科で治療を受けるべきLCHですが、「腰が痛いなら整形外科」「皮疹が出たら皮膚科」など、それぞれの診療科のみで治療を続けるケースは少なくないといいます。医師には意見しづらいし、セカンドオピニオンをお願いしにくいと悩む患者さんに、「それでも血液内科に行った方がいい」と背中を押すこともあるそうです。

メールの対応には毎回、かなりの時間を割くといいます。役員は医師ではないため医学的な回答はできませんが、「私たちも同じように不安だったから」と、一つひとつ真摯に返信をしています。

「成人LCH研究班」ができることに!

小児LCHは、国から「小児慢性特定疾病」に指定されており、研究も進められつつあります。一方、成人LCHは小児LCH以上に専門家が少なく、かなり厳しい状況に置かれてきました。

前述のように、LCHの発症部位は多種多様であり、患者さんは様々な科を訪れます。本来受診すべき血液内科を受診できていない患者さんは後を絶ちません。成人LCHの患者である笠原さんは、ご自身の病気について「閉ざされた世界で、病気のことを調べても小児以上に分からないことばかり。患者さんがどこにどれだけいるかも掴めない状態でした」と話します。

この現状を打開すべく、LCH患者会は2017年から、厚生労働省に「成人LCH研究班を作ってください」と2度にわたって陳情を行いました。結果、厚労省難治性疾患克服研究事業・特発性造血障害に関する調査研究班の分担研究の一環としてLCHの調査研究班が設けられることになったのです。陳情にも同行した、成人LCHを専門とする東條有伸先生(東京大学医科学研究所附属病院)が分担研究者となることが決まりました。

こうした陳情活動は、誤診や不適切な治療を減らし、多くの患者さんが適切な治療を受けられるようになるための大きな一歩です。

長く付き合う“みなしご病” だからこそ啓発が必要

患者数の少なさなどから、“みなしご病”と呼ばれることのあるLCH。お子さんやご自身がそうした病気とともに生きてきたからこそ、感じてきたことがあるといいます。

「娘が発症した40年ほど前は、LCHという病名もないし、詳しい先生の紹介もなければ、自分で調べても見つかりませんでした。“みなしご病”だからこそ、啓発活動が必要だと強く感じました」(東出さん)

以前と比べると、LCHや患者さんを取り巻く状況はかなり改善されてきてはいます。それでも、まだまだ情報を探している患者さんは多く、課題は尽きません。

さらに、LCHは「一度治療をしたら終わり」ではない場合が多い病気です。再発するケースもあれば、晩期合併症(病気や治療の影響で、病気が治ったあとにも出現しずっと続く症状のこと)と生涯付き合っていく患者さんもいます。

「娘はもう成人していて、LCHの症状はずっと出ていません。でも、それに付随して出てきた尿崩症でずっと薬をもらっています」(浅野さん)

長く付き合う必要のある病気だからこそ、患者さん同士で思いや悩みを共有することができる患者会はなくてはならない存在といえるのではないでしょうか。

さいごに

取材の中で依田さんは、「私たちも、家族や自分がならなければLCHという病気を知ることはなかった」と話していました。読者の方の中にも、本記事でLCHを初めて知った方がいるのではないかと思います。

もしかしたら、希少疾患は遠い世界の問題に思えるかもしれません。でもLCHに限らず、医師にさえよく知られていない病気は世の中にいくつも存在しています。そして、こうした病気の研究が進むのを心待ちにしている方たちがいるのです。

いしゃまちでは引き続き、LCHについて連載を続けていきます。本連載を通して、LCHをはじめとする希少疾患の理解と支援が広がっていくことを願っています。

※取材対象者の肩書・記事内容は2018年3月25日時点の情報です。