「統合失調症」という病名からみなさんはどのような病気をイメージするでしょうか?

「妙に疑い深くなる」「ぶつぶつ独り言を言う」「急によくわからないことを叫びだす」「何をしでかすかわからなくて危険」…などを想像するかもしれません。更には差別用語で蔑む人もいるかもしれません。

これらのイメージが完全に的外れとは言いませんが、病気の一部を切り取って焦点を当てているにすぎません。またイメージどころか、そんな病気知らない、という人も少なくないと思います。統合失調症という病気に対しての社会の理解度は極めて低いというのが現実でしょう。

しかし統合失調症の有病率は100人に1と決して低くありません。身近な人がこの病気にかかる可能性はありますし、自分自身がこの病気にかかる可能性もないわけではありません。そこで、統合失調症という病気を理解し、どう対処していけばよいか、説明したいと思います。

目次

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統合失調症とは

原因含めて分かっていないことだらけではありますが、統合失調症とは脳の病気です。

原因

本人が本来持っている病気のなりやすさ(脆弱性)や周囲から晒される脅威(ストレス)が引き金になることが示唆されていますが、まだはっきりとしたことは分かっていません。

病因に関しても、脳内の神経伝達物質であるドーパミンが過剰に放出されることによって引き起こされるというドーパミン仮説などいろいろありますが、まだ解明はされていません。

症状

症状は大きく分けると陽性症状、陰性症状、認知症状の3つに分けられます。

元来ないはずのものがでてくる陽性症状

「誰もいないはずの部屋で悪口が聞こえてくる」といった幻聴や、「見ず知らずの人に見張られている」といった妄想、「誰かに操られている感じがする」といった自我障害、「自分の考えが周りに伝わってしまう」といった思考障害などがあります。

陽性症状が強くなると言動が奇異なものになってきます。過度に不安がって周囲をきょろきょろと見まわしたり、カーテンを閉め切ってしまったり、誰かと言い争っているような独り言が出てきたりします。

「叫び」という絵画をご存知だと思います。周囲から「叫び」のごとく鳴り響く幻聴に対して一生懸命耳を抑えている、という絵です。作者のムンクは精神疾患を持っていて、橋の中央にいる人物はムンク本人であると言われています。陽性症状に支配されると、あのようなおどろおどろしい暗赤色の色彩の世界で生きていくくらい不気味なのかもしれません。

元来あるはずのものが失われる陰性症状

何もやる気が起きずただボーっとしてしまう意欲低下や、あらゆる刺激に対して感情が鈍ってしまう感情鈍麻などの症状が見られます。これらの症状がみられると、自分の部屋にこもりがちとなり、どんどん社会生活から離れていってしまいます。

できていたものができなくなる認知機能障害

情報処理能力の低下学習能力の低下集中力の低下などが見られます。これらの症状の結果、陰性症状と同様に社会生活から離れていってしまいます。

経過

思春期から30歳代頃に発症しやすいと言われています。その経過は前駆期、急性期、回復期、維持期の4つに分けられます。

前駆期

不安、不眠、聴覚過敏、抑うつ状態など様々な症状がみられますが、学校に通わなくなる、仕事中ミスが目立つようになる、などできていたことができなくなるようになることが多いです。振り返ってみるとあの頃から少し変わったかな、と言えることがありますが、気付きにくい時期です。

急性期

幻覚、妄想などの陽性症状が目立つようになり、その結果興奮が強まる、行動が滅裂になるなどの症状が強く出現し、社会生活に著しく支障を生じます。この急性期の状態が一番イメージされやすいかもしれません。

回復期

治療によって急性期の陽性症状が回復していきます。はたから見ると明らかな改善がみられます。しかし症状が改善するにつれ、患者本人のなかで将来の不安や、薬の副作用での悩み、改善しにくい陰性症状、認知症状に対して焦るなどが生じ、自殺の危険性が高まる時期でもあります。

維持期

陽性症状が目立たなくなり、全体的に安定しているように見えますが、陰性症状、認知機能障害などは残存し、発病前のレベルにまではなかなか戻りにくいです。この時期の目標は社会復帰と再発予防です。

治療

カラフルな錠剤-写真

薬物療法、休養安静、社会復帰の3本柱で治療をしていきます。大まかに言えば、急性期までは薬物療法と休養安静、維持期、安定期は薬物療法と社会復帰という形になります。

陽性症状に関しては薬の効果が期待できます。陽性症状が強い急性期には薬物療法を主として、休養安静といった環境調整など行い回復を待ちます。

その一方で陰性症状、認知症状といった症状には薬が効きにくいとされています。これらの症状が社会復帰に向けての障害となってきますので、陽性症状がある程度安定した段階で、徐々に活動の場を広げていきます。しかしどこを目標にするかは病状や環境によって個人差があるので一概には言えません。少しずつ元いた環境(学校や職場など)に戻ったり、一日のリズムを作るという目的でデイケアに参加したり、職業訓練を行ったりと各々のレベルに合わせて焦らず徐々に社会復帰を目指していきます。

安定期にも薬の治療を行う最大の理由は再び悪くなる(再燃)可能性を抑えるためです。症状が落ち着いてくると薬をやめたくなります。しかし薬を中断してしまうと再燃の可能性が高くなります。そして再燃を繰り返すことによってどんどん症状が悪くなってしまいます。

薬の治療で一番大事な点は、自分の判断で薬を中止しないことと考えてください。統合失調症に対して使う薬は眠気、だるさ、手足の震えなどの不快な副作用が出ることがあります。副作用が出てしまった際には主治医と相談してください。薬の量を減らしたり、副作用を抑える薬を追加したり、より副作用の出にくい薬に変更するなど適切な判断をしてもらえるでしょう。

受診すべきタイミング

発病から治療開始までの期間が早いほど軽症で済み、早期の改善が期待できます。逆に言うと治療開始が遅くなってしまうほど重症化、並びに慢性化してしまう可能性が高くなってしまいます。

思い当たる症状がある場合は迷うことなく早めにお近くの精神科を受診してください。しかし、この病気の患者さんは自分が病気であるという認識(病識)を持ちにくい、という特徴があります。そのため自ら精神科へ受診しようと行動される方は多くありません。また「精神科に行こう」と身近な人に促されても、行きたがらない方が大半です。それでも根気よく説得してください。

患者さんは強い不安の中にいます。親身に理解しようとしてくれる人が身近にいるというだけでも病気の改善につながりますし、説得に耳を傾けるようになってくれます。どうしても興奮が強くでてしまう患者さんもいます。そのような時は第一に安全を考えてください。協力してくれる人を一人でも多く集める、刃物など危険なものを近くに置かない、といった工夫が必要になることもあります。そして身に危険を感じるようなことがあった場合には警察に協力を要請することをためらわないでください。

最後に

統合失調症という病気は怖い病気ではないといったら嘘になります。しかしできるだけ早く治療することで、病状を重症化させずに済む可能性が高まります。医療者としては患者さんを治療することはもちろんとして、できるだけ早い段階から治療していけるよう、社会へ理解を広めていきたいと思います。なぜなら、患者さん本人に寄り添い、患者さんの社会復帰に協力してくれる身近な人の存在が、なによりも患者さんの回復に寄与するということを感じていますので。