未来を知りたくありませんか?

のび太君は未来を知り、変えるための努力をします。映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」では、マーティはよりよい未来を迎えるために奮闘します。未来が分かればそれをより良くするために努力できそうです。

健康診断はあなたの今を教えてくれます。自覚症状が無く気づけない癌や生活習慣病などの存在を教えてくれるので大変有用です。でも未来のことは分かりません。あなたの未来を知ってみませんか?今回はメタボリックシンドロームになるかどうかを知る方法です。

目次

メタボリックシンドローム

メタボリックシンドロームは複数の疾患が重なった病態のことをいいます。メタボリックシンドロームであったとしても通常は症状がありません。何故重要視するのかというと、「死」に至る疾患への危険性が非常に高くなるためです。その疾患とは「心筋梗塞」です。

1988年にスタンフォード大学のGerald Reavenによって提唱された概念で、当初は「死の四重奏」といわれていました。実に心筋梗塞や狭心症の危険性が35.4に上昇します(労働省作業関連疾患総合対策研究班調査 Nakamura et al. jpn Cric J 65; 11 2001)。また、脳卒中についても3.4に上がります(小久保喜弘ら Modern Physician 26: 675-684, 2006)。

メタボ回避で防ぐ病気は心筋梗塞と脳梗塞

メジャー

高血圧、脂質代謝異常症、糖尿病、喫煙、肥満、こうした危険因子が増えると心筋梗塞や脳梗塞の危険性が上がります。メタボリックシンドロームというのは複数の危険因子を抱えた状態で、代謝が関係している病態です。

「心筋梗塞や脳卒中を防ぎたい」これは普段こうした疾患で苦しむ方々を診ている内科医にとって共通の思いです。でも残念ながらなる前にそれを知ることはまだ難しい。一方でこれらの危険因子が無ければ病気は防げる可能性がある。なので危険因子を減らしたいということです。

モチベーション向上を目指す

予測なんてしなくても健康診断をして自分で改善すれば十分だと思われる方もいるでしょう。本当にその通りです。でも症状が無いのでなかなかモチベーションが上がらないことに苦心しています。

健康診断の結果を見て「肥満」と書かれていたとします。「やっぱりな」「知ってるよ」とは思っても「え?まさか、私が?そんなはずない!」とは思わないでしょう。

その次の年の健康診断ではどうでしょう。

メタボリックシンドロームの罹患率を調べたデータがあります。

表1メタボリックシンドローム該当者及び予備群の人数割合の変化

割合
平成22年度 26.4%
平成21年度 26.7%
平成20年度 26.8%

(厚生労働省 平成22年度確報値)

ほとんど変わっていません。特定健診が広くおこなわれるようになってメタボリックシンドロームを健診で見つけて指導しています。でも改善がほとんど得られないのです。これはみつけられても治そうという気にならない人がほとんどだからでしょう。

産業医の学会で、健診を受けた従業員に対し生活習慣改善のモチベーションを持たせることが非常に難しいことは共通の認識になっています。

その理由の一つとして「自分のこと」として認識しにくい点があるのではないかと思います。症状が無いのに食事を制限する必要がある、運動で大変な思いをしなくてはいけない。日常生活をしながらどこにそんな余裕があるのかと思われる方も多いでしょう。私も過去にそう言われた経験があります。

仕方ないことだとも思います。

さらに、近くにもっと太っているのにメタボと診断されていない人がいたら「大丈夫だろう」と思いたくなります。

でも、人はそれぞれ違います。太っていても大丈夫な人、標準体重でもダメな人がいます。

「あなたの体質によるとこのままいけばメタボに確実になる」

「同僚の方は同じような体型でも大丈夫でしょうが、あなたの場合は代謝の状況からするとなってしまいます。」

と言われたらどうでしょう。

「え?本当に?」と思うのではないでしょうか。そして「じゃあ、どうしたらならないですむの?」と思いませんか。

全ては目標をもって病気にならないための行動をとってほしいから

時計

今、東京都青果卸売国民健康保険組合を含めいくつかの企業でメタボリックシンドロームの予測が福利厚生の一環として利用され効果が出ています(第88回産業衛生学会)。東京都青果卸売国民健康保険組合ではメタボリックシンドローム予測を導入してから1か月の時点で、栄養相談を受ける方が導入前年度よりも多くなりました。

未来を知る方法

これまで企業や組合を対象としていたメタボリックシンドロームの発症予測について誰でもご利用いただけるようになりました。ご希望の方は予測医学研究所のホームページから依頼してみてください。

健康診断のデータなどを入力するとあらかじめ学習させた人工知能によってなるかどうかが判定されます。体重をシミュレーションすることにより「ならないための体重」「なってしまう体重」を求めます。この予測は過去のデータに基づいています。

91%ほどの精度で、論文報告と学会報告がなされています(Hirose Nら PLOS ONE 2013, 第88回産業衛生学会)。

どう行動したらいいのか

ダイエット

予測するだけではだめです。まずはその体重を目標に減量を試してみませんか?

最終的には理想体重になった方がもちろん良いわけです。ただ、既に体重が多い方がそこまでいきなり痩せるのは難しいと感じられる方も多いでしょう。

体質によっては標準体重に近いのにメタボリックシンドロームと診断されている方もいるでしょう。

痩せるための最も有効な方法

世の中には「痩せる」ための様々な方法があふれています。「楽して痩せる」「○○を食べるだけで」「食事制限なしに」という文言も多いです。ただ医学的に見て確実な効果として知られているのは「摂取カロリーを減らす」ことです。議論があるようですが、糖質制限も一つの選択肢として考えられつつあるようです。

体重1kgはおおよそ7,000kcalです。

現在の食生活で体重が維持されている方は、計画的にこのカロリーを減らすようにしてみてはどうでしょうか。1か月で1kgであれば1日230kcal程度、1食あたり80kcalほど減らすことができれば確実に痩せられる計算になります。

そのためにもまずは「メタボリックシンドロームにならないための体重」を知り、そこまでの減量を目標にしてみてはいかがでしょう。

80kcalの食品の例としては、以下のようなものがあります。

食品 80kcalのめやす グラム
ご飯 女茶碗1/2杯 54
もち 切り餅2/3個 34
食パン 6枚切り1/2枚 31
うどん(生) 1玉の1/3 79
そば(生) 1玉の1/3 61
スパゲッティ 1/4人前 21
牛肩ロース 薄切り1枚 35
焼肉用もも(脂身なし) 薄切り4枚 62
焼肉用リブロース 1枚 22
焼肉用バラ 1~2枚 25
全鶏卵 Mサイズ1個 49
牛乳 1/2カップ強 129
大福 1/2個
さんま 1/3尾
焼肉用タン 2枚

メタボリックシンドロームとなると複数の薬剤を飲む必要が出てきます。現在国の医療費は増える一方であり、徐々に自己負担額も上がってきています。世界に誇る素晴らしい医療保険制度ですが、維持可能かは不安視されています。

更に心筋梗塞になれば、1/3は病院に辿り着けずに死亡してしまいます。運よく生き残ったとしても、半分の方は社会復帰が困難になると言われています。

体重を減らすことでメタボリックシンドロームが改善すればこのリスクが1/35まで低下するわけです。薬も飲まなくて済むようになるかもしれません。

未来は変えられる

予測される未来を知ってそれを改善するためなら努力できそうな気がしませんか。今人工知能を利用した様々な研究がなされています。多くの方の過去のデータに基づくこうしたツールがより良い未来を迎えるためのきっかけになってくれことを願っています。