膝の痛みは、多くの人に現れる症状です。中でも、関節の老化が原因となる変形性膝関節症という病気は決して珍しいものではなく、特に60代女性の約4070代女性の約70がかかっているといいます(「古賀 良生 編集「変形性膝関節症-病態と保存療法」より)。今回は、変形性膝関節症と診断された場合にどのような治療が行われるのかを解説します。自分でできる運動療法もありますので、参考にしてください。

目次

変形性膝関節症ってどんな病気?

変形性膝関節症とは、加齢や長年にわたる力学的な負荷によって、膝関節のクッションの役割である軟骨がすり減り、痛みが生じる病気です。階段を降りるときや動き始めに膝が痛む、膝に水が溜まる、正座ができない、膝がまっすぐに伸びないといった症状を伴います。60歳以上で階段を下りるときに膝が痛くなったり、正座や和式のトイレが辛くなってきた場合は変形性膝関節症の可能性がありますので、すみやかに整形外科を受診すると良いでしょう。

変形性膝関節症の症状やメカニズムについて、詳しくは「膝が痛い、水がたまっている…もしかして、変形性膝関節症かもしれません」をご参照ください。

変形性膝関節症の治療

変形性膝関節症は、病気の進行の程度によって運動療法装具・補助具による治療、薬物治療外科手術が行われます。ここでは、この4つの治療法について解説します。

運動療法

膝関節を動かす筋力をつけ、関節の動く範囲を広げるために欠かせないのが運動療法です。すぐに効果が出るわけではありませんが、簡単な運動を毎日少しずつ進めていくと良いでしょう。

運動療法には、膝関節周囲の筋肉(ハムストリングや腓腹筋、ヒラメ筋)のストレッチと、筋力をつけるためのトレーニングがあり、どちらも大事な運動療法です。

筋力トレーニングとして変形性膝関節症の患者さんにおすすめなのが、以下の足上げ運動です。それぞれの運動を片足ずつ、1度に10~20回、1日に1~2回繰り返すと良いでしょう。ご家族が変形性膝関節症と診断された場合、この運動を行なうのを手伝ってあげてください。

  1. 足上げ運動:仰向けになって片足を立てます。伸ばした足を10cmほど上げ、そのままの状態で5秒数えてから足を下ろします。
  2. 足の横上げ運動:横向きに寝て、下の足の膝を少し曲げます。上の足を10cmほど上げ、そのままの状態で5秒数えてから足を下ろします。
  3. 足の後ろ上げ運動:うつ伏せに寝て、顎の下に腕を置きます。片足を10cmほど上げ、そのままの状態で5秒数えてから足を下ろします。

無理に動かすと、かえって症状を悪化させてしまう場合もあります。医師に相談し、指導を受けながら行うようにしましょう。

下の図は、クリックまたはタップで拡大できます。

変形性膝間接症対策-足上げ運動-図解

装具補助具による治療

膝関節を支えたり、関節の負担を減らすために、装具や補助具を使用することがあります。

足底板(そくていばん:足の底につける中敷きで、足外側を少し高くすることで膝関節内側にかかる負担を軽くする)や杖・サポーター(軟らかい素材のサポーターから、膝の側面に金属がついている硬性装具まで様々な種類があります)を使い、関節を矯正したり、関節への負担を軽くしたりすることができます。

これらの装具や補助具を使うことで、膝関節にかかる負担を軽減することができます。日常生活では困っていない人も、例えば遠くまで外出するときや運動をするときなど、膝関節の負担が大きくなるときに使用すると効果的です。変形性膝関節症の進行を防ぐためには、あわせて運動療法を行うことが必要です。

薬物治療

膝関節の痛みを和らげたり、動きを改善するために行われます。

非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)

炎症を起こすもとになるプロスタグランジンという物質の生成を抑えることで、炎症による痛みや腫れを和らげる効果があります。飲み薬・外用薬・座薬などの剤形があります。

副作用として、胃炎胃潰瘍などが起こることがあります。

ヒアルロン酸注射

ヒアルロン酸は正常な関節液に含まれる成分で、関節軟骨を保護し、関節の動きをなめらかにする作用があります。しかし変形性膝関節症ではこのヒアルロン酸が減少してしまっているため、注射で膝関節に直接注入する治療があります。関節の動きを再び滑らかにし、膝の痛み・炎症を抑えることができます。

注射の投与方法は医師により異なりますが、始めは1回・5週間にわたって行うことが多いです。効果がみられた場合、その後の症状に合わせて投与終了としたり、2~4週間に1度の注射を継続したりします。症状が再発した場合、繰り返し注射を受けることもできます

ステロイド注射

炎症が強く痛みが強い場合、ステロイド剤を関節の中に注射することがあります。強い効果を持ちますが、軟骨や骨が弱くなる・細菌に感染しやすくなるなどの副作用があるため、医師によって慎重に判断されます。

手術治療

上記の治療を行っても症状が改善しなかった場合、外科手術を行うことがあります。

関節鏡視下手術

膝の中に小さなカメラ(関節鏡)を入れ、関節の中を洗ってきれいにします。長年関節が摩耗することで生じた組織(半月板、軟骨、骨棘など)の切除を行います。根治的な治療ではありませんが、膝の痛みを軽減する効果があります。膝に小さな穴を数カ所空けるだけで、患者さんの負担が少なくて済みます。

高位脛骨骨切り術

O脚で関節に負担がかかっている場合に行われます。骨をくさび形に切除することでO脚変形を修正し、正常な形に関節を戻す手術です。膝関節の内側に偏っていた負担を減らすことができます。膝関節の外側が比較的正常に保たれている場合に行われます。膝関節全体に変形を認める場合や、関節の動きが悪い場合には人工関節置換術が行われます。

人工関節置換術

軟骨がすり減り症状が進行した変形性膝関節症に対して行われます。痛んだ軟骨や、変形した骨を取り除き、金属でできた人工関節に取り替える手術です。関節の痛みの程度によって、さまざまな種類の人工関節が使用されます。例えば、関節を全体的に置換する人工膝関節全置換術と、膝の内側だけを人工関節に置換する人工膝関節単顆置換術などがあります。

最後に

老化とともに進行する変形性膝関節症。薬物治療や手術治療などを行うこともありますが、自宅でできる簡単な運動で症状を改善することができます。膝の痛みを感じたら、整形外科医を受診し、医師と相談しながら治療を進めていきましょう。