関節がすり減ったり、関節に骨のトゲ(骨棘、こつきょく)ができたりして痛みが出る病気を、変形性関節症と言います。パッとすぐわかるのは膝が変形する変形性膝関節症です。O脚になって痛そうに歩いているおばあさんをよく見かけますね。今回は膝ではなく股関節の変形、「変形性股関節症」のお話です。日本整形外科学会により作成された診療ガイドライン[1]を参考にして書いてみたいと思います。

目次

脚の付け根やお尻の痛み、原因は股関節かも?

股関節のしくみ-図解

『股関節』は脚の付け根の関節です。ここが悪くなると痛みが出るのですが、患者さんは「脚の付け根が痛い」とか、「お尻が痛い」、「腰が痛い」と感じることが多いです。歩く時に痛みが出るので「膝が痛い」という人もいます。このような症状が出た時に、股関節が悪いかどうか自分でできる簡単なチェックはあぐらがかけるかどうかです。あぐらをかいたときに脚の付け根やお尻が痛くなるとか、右と左で開く角度が違うとかいう場合は、股関節が悪い可能性があります。そのような場合は、まずはお近くの整形外科を受診してください。

どんな人が変形性股関節症になりやすいの?

変形性股関節症には「一次性」と「二次性」があります。特にはっきりした原因がなくて関節が変形するのが「一次性変形性股関節症」です。それに対してはっきりとした原因があるのが「二次性変形性股関節症」です。原因としてあげられるのは「寛骨臼形成不全(かんこつきゅうけいせいふぜん)」、「大腿骨頭壊死(だいたいこっとうえし)」、「関節リウマチ」、「外傷」などです。
変形性股関節症のレントゲン写真-図解

寛骨臼形成不全

寛骨臼とは、股関節の骨盤側のおわんの部分全体をさしていて、これが小さいことを「寛骨臼形成不全」といいます。寛骨臼の屋根の部分を「臼蓋(きゅうがい)」というので、一般的には寛骨臼形成不全ではなく、「臼蓋形成不全」と呼ばれることが多いです。寛骨臼が小さいと大腿骨頭(だいたいこっとう、股関節の大腿骨側のボールみたいな部分)を覆う面積が小さくなってしまい、そこに全体重がかかるため、軟骨(関節のボールとおわんの隙間の黒い部分)がすり減っていってしまいます。寛骨臼形成不全は日本人にはものすごく多くて、私が手術している患者さんも8割以上が寛骨臼形成不全が原因の変形性股関節症です。

大腿骨頭壊死

大腿骨頭壊死は、その名の通り大腿骨頭が腐ってしまう病気です。大腿骨頭壊死の原因としてはステロイド飲酒があります。ステロイドやアルコールの影響で大腿骨頭への血流が悪くなって、壊死がおこります。膠原病(こうげんびょう、免疫が自分自身のからだを攻撃してしまう病気)の治療のために大量のステロイドを使った患者さんが、不幸にも変形性股関節症になってしまうことがあります。

アルコールは大量飲酒が原因になります。どれくらい飲むといけないかというと、100%のアルコールに換算して1週間に400mL以上飲むと、大腿骨頭壊死のリスクが11倍になると言われています。「そんなに飲まないよ!!」という方も多いと思いますが、ビール(アルコール分5%程度)を350mLの缶を毎日4本飲むと、1週間で350×4×7×5% = 490mLの100%アルコールを飲むことになります。お酒はほどほどに…。

関節リウマチ

関節リウマチは自分自身の免疫機能が自分の関節を攻撃してしまう病気で、膠原病の一種です。関節がどんどん破壊されていってしまいます。昔はステロイドや金製剤が使用されていましたが、今では抗リウマチ薬や生物学的製剤と呼ばれる薬が開発され、リウマチ治療は飛躍的に発展しました。

外傷

交通事故や転落といった高エネルギー外傷では、寛骨臼を含む骨盤骨折大腿骨頭骨折が起こります。骨折部がずれたまま癒合してしまうと、徐々に軟骨が削れていって関節が変形してしまいます。一方、骨粗鬆症があると、椅子に座るときに10cmくらいの高さをドスンと座るだけで、大腿骨頭にヒビが入って潰れてくる人がいます。こういう骨折を軟骨下骨脆弱性骨折(軟骨の下の硬い骨がもろくなっていて折れる骨折)といいます。軟骨下骨脆弱性骨折はお年寄りに多く、急速に変形が進行していく急速破壊型股関節症の原因となることが指摘されています。

変形性股関節症は、家族内の発症が多いことから、遺伝の影響があることがわかっています。最近の遺伝子研究の発達で、原因遺伝子もいくつか同定されています。先ほど書いた寛骨臼形成不全のような骨格も遺伝の影響があると考えられます。

太ってると変形性股関節症になりやすいの?

体重計にのる人-写真

肥満を考えるときにBMIという値を使います。BMIは体重(kg)を身長(m)で2回割った値で、25以上が肥満です。例えば私の場合、体重95kgで身長1.84mなので、95÷1.84÷1.84=28.1となり、立派な肥満です。BMI=22が一番健康的に生活できるとされています。日本人では変形性股関節症の発症と肥満の関連は明らかになっていませんが、欧米人ではBMIが25以上だと、変形性股関節症を発症するリスクが高くなることが明らかになっています。そこから類推すると、日本人も肥満とならないように気をつけたほうがいいと考えられます。

日本人の場合、重いものを持つ仕事では変形性股関節症のリスクが上がることがわかっています。どれくらいのものを持ち上げるといけないかというと毎日25kgの重量物を持ち上げる仕事をしている人は股関節の悪くなるリスクが高いとされています。荷物を運ぶ時は10kgの米袋ぐらいまでにするとよいです。肥満も「脂肪」という重い荷物を毎日運んでいると考えると、体重を落とした方が良さそうだと考えられます。

その他に、欧米人ではアスリートレベル(本格的な試合に出るためのトレーニングをするレベル)のスポーツは、変形性股関節症の発症のリスクになることがわかっています。レクリエーションレベルのスポーツは問題ないそうで、何事もほどほどが良いということですね。アスリートレベルのスポーツは衝撃が強いから変形性股関節症を発症するリスクが高くなると考えると、体重が重くても衝撃が強くことなることは簡単に想像でき、やっぱり痩せた方が良さそうと考えられます。

変形性股関節症の治療は?

変形性股関節症の治療は大きく分けて手術しない保存療法と、手術療法に分けられます。保存療法というと患者さんの変形性股関節症の理解を高めること(患者教育)、運動療法(筋力増強訓練、ストレッチ、機能訓練、水中歩行など)、薬物療法(内服、関節内注射)、理学療法などがあります。これらを行うことによって疼痛をとったり、日常生活動作を楽に行えるようになったりするのを目的にしています。これらの治療法は短期的には疼痛をとることができますが、変形性股関節症によって関節がすり減っていくのを遅らせることはできないとされています。

関節が変形してしまい、痛みが改善しなかったり、日常生活に差し障りがある状態になったりした場合は、手術療法を選択します。手術療法には骨盤や大腿骨の骨を切って股関節の形を変える「骨切術(こつきりじゅつ)」や股関節を人工物に取り替える人工股関節全置換術が行われます。骨切術は関節の形を直して、痛みを取り除き、自前の関節を長持ちさせることを目標にした手術です。人工股関節置換術は、痛い関節を全て取り替えてしまいますが、人工股関節の寿命は20年程度と説明しています。術後20年で10〜15%の患者さんが人工股関節の入れ換えが必要だったと報告されていて[2]、無視できない割合になったため寿命と言っています。

変形性股関節症は予防できるの?

変形性股関節症の予防は「無理をしないこと」です。先ほど述べたように、肥満があると悪化しやすいとか、激しいスポーツがいけないとか、重いものを持つといけないとか、何をしたら悪くなるかがわかっており、それをやらないのが予防法になります。しかし、あまりにも制限しすぎると、人生が楽しくなくなってしまいますので、バランスが重要になります。

変形性股関節症に対する運動療法は、疼痛の改善、機能障害の改善に有効であると考えられています。しかし長期的に変形性股関節症の進行を予防するかは明らかになっていません。

各種サプリメント(コンドロイチンやグルコサミンなど)は症状を軽くする可能性はありますが、まだ、皆がサプリメントの効果を認めるような結果はありません。効果があるとする報告もあるのですが、効果がないとしている論文もある、というのが現状です。治療に有効と認められているのであれば、サプリメントは医師が処方する薬になっているはずです。しかし、効果がないということも証明されていないので、「飲まない方がいいよ。」とも言えません。ですので、私は患者さんから「グルコサミンを飲んでもいいですか?」と聞かれたときは、「効果があるといいですね。」と言うことにしています。

最後に

変形性股関節症は、痛みや可動域制限などで日常生活が障害されてしまいます。このような問題に対し整形外科医は患者さんの痛み、活動度や社会的背景(仕事とか子育て、介護)などを考慮して、どのようにすると一番満足度が高くなるかを考えて治療します。痛みがある場合は遠慮なく外来を受診してください。この文章が股関節の痛みで困っている人の助けに少しでもなれば幸いです。