皆さんは人工股関節置換術って聞いたことがありますか?その名前の通り股関節を人工物に取り換える手術です。主に股関節が変形する変形性股関節症の患者さんがこの手術を受けます。日本の人工関節登録調査の結果では、この手術は2015年には年間5万件以上登録されています[1]。今回のお話では股関節の痛みが出た患者さんが、病院にかかってから、どのような治療をするのか、また、人工股関節置換術を受けた患者さんはどのようになるのかなど、大きな流れを書きたいと思います。

目次

脚の付け根やお尻の痛み、原因は股関節かも?

股関節のしくみ-図解

股関節のしくみ

図1

『股関節』は脚の付け根の動く関節です(図1)。ここが悪くなると痛みが出るのですが、患者さんは「脚の付け根が痛い」とか、「お尻が痛い」「腰が痛い」と感じることが多いです。歩く時に痛みが出るので「膝が痛い」という人もいます。このような症状が出た時に、股関節が悪いかどうか自分でできる簡単なチェックはあぐらがかけるかどうかです。あぐらをかいたときに脚の付け根やお尻が痛くなるとか、右と左で開く角度が違うとかいう場合は、股関節が悪い可能性があります。そのような場合は、まずはお近くの整形外科を受診してください。

整形外科での受診と診断の流れ

図2-レントゲン写真
図2

整形外科を受診すると、いつから痛みがあるか、どういう時に痛いか、子供(赤ん坊)の頃に股関節が悪いと言われたことがないかなどの問診をし、どう動かすと痛いか、関節の動く範囲、押すと痛い場所などの診察をして、レントゲンをとります。図2は向かって右(本人の左、黄色い矢印)の股関節が悪い患者さんのレントゲンです。向かって左側(赤矢印)は丸い動きやすそうな形をしていて、軟骨の隙間が黒く見えますが、向かって右側は変形していて隙間もなくなっています。脚の長さも向かって右側が1.5cm短いです。

股関節の痛みの治療法

股関節が悪い場合の治療としては大きく分けて保存療法(手術しない治療法)手術療法があります。当たり前のことですが、まずは保存療法を行います。消炎鎮痛剤(痛み止め)、湿布、体操、理学療法などを組み合わせて、痛みなく日常生活を送れるようにしていきます。

保存療法の効果がない場合や、特殊な病気(急速破壊型股関節症、大腿骨頭壊死など)で痛みが強い場合は手術療法を考えます。

手術療法は大きく分けて、関節を温存する手術と、関節を取り替える手術があります。図2、向かって右側の股関節のような変形がない股関節でも痛みが出ることがあり、痛みの原因や年齢、社会的な背景などを考慮して手術を選びます。関節を温存する手術は骨を切って関節の形を変えて関節が長持ちするようにする骨切術(こつきりじゅつ)や、小さな傷からカメラ(股関節鏡、こかんせつきょう)を入れて行う股関節鏡手術などがあります。

人工股関節置換術

股関節2-レントゲン写真
図3

関節を取り換える手術が人工股関節置換術です。正確には人工股関節「全」置換術と言います。これは大腿骨側も骨盤側も両方取り換えるから「全」です。英語では「半」置換術という言葉もありますが、日本では人工骨頭置換術といいます。骨盤側はそのままで大腿骨の先の丸いところ(大腿骨頭)だけを取り換えるので「半」置換術、人工骨頭置換術といいます。

人工股関節の手術はおおよその目安で1時間半から2時間程度で終わります。手術の傷の大きさは10cmくらいで、出血は400〜600mlくらいです。2〜3週前に予め自分の血を400mL〜800mlくらい貯めておいて、出血量が多くなった時に他人の血(献血の血)ではなく、自分の血を輸血できるようにすることが多いです。

術後は翌日に車椅子に乗り移ります。術後2日目から歩行練習を開始します。入院期間は施設や担当医の考えで変わりますが、私の働いている施設ではおおよそ術後2〜3週でT字杖を1本ついて退院します。リハビリの進みの遅い患者さんはもう少しかかることがあります。

術後の経過

退院後は外来で経過を観察します。必ず診察したいのは術後3ヶ月、6ヶ月、1年と、その後の1年ごとの検診です。1年に1回は入れ換えが必要な状態になっていないかチェックします。必要があればもっと短い間隔で診察します。

人工股関節の寿命は20年程度と説明しています。これは20年経ったら全員が人工関節の入れ換えが必要になるというのではありません。術後20年では10〜15%の患者さんが人工股関節の入れ換えが必要だったと論文で報告されていて[2]、無視できない割合になったため寿命と言っています。入れ換える理由の大部分は、軟骨の代わりのプラスチックがすり減ってしまったことが原因です。しかし30年前のプラスチックより現在使用しているものの方がすり減りにくく、おそらく30年くらいは持つのではないかと期待しています。

さいごに

人工股関節全置換術によって受けられるメリットは、痛みや関節の動きが悪くなること(可動域制限)によって生活の質が低下していたのが、それらから開放されることです。一方で手術を受けることによる合併症もあるので、怖いという気持ちを我慢して無理にする手術ではありません。どのような治療が良いのかよく主治医と相談して納得の行く治療を選んでください。この文章が少しでもお役に立てば幸いです。