慢性腎不全などの症状が進行し、腎臓の機能が低下してしまうと、人工透析という治療法が用いられることがあります。腎不全の食事療法ではカロリー・タンパク質・塩分・水分に気を配る必要があります。人工透析が開始されると食事療法の制限が緩やかになるため、その基準を新しく覚えなければなりません。それでは、人工透析を行っている患者さん向けの食事管理の方法について説明をしていきます。

目次

人工透析の概要

人工透析は血液透析とも呼ばれ、腎臓の働きが不十分となってしまった患者さんに対して行われる治療法です。腎臓の働きが概ね15%以下になると濾過機能が低下し、水分や老廃物のコントロールができなくなります。この機能を人工的にサポートし、血液をきれいにすることが人工透析の目的です。人工透析をすることで、食事の制限はそれまでより緩やかになります。

しかし人工透析をしているからといって、食生活に気を使わなくても大丈夫というわけではありません。人工透析を開始するまでとはまた違った方法で食事管理をしていく必要があるのです。今までは厳しいたんぱく質の制限がありましたが、透析を始めると今度は適切な質と量のたんぱく質の摂取が必要となりますので注意しましょう。

人工透析患者の食事管理

透析 食事

1.エネルギータンパク質の摂取

エネルギー量は運動量によって変わりますが、標準体重1kgあたり30-35kcalが目安です。標準体重は身長(m)×身長(m)×22で計算します。タンパク質は、透析導入前は制限が必要でしたが、導入後は理想体重(kg)×0.9〜1.2(g/kg/day)と通常レベルの摂取が必要です(慢性透析患者の食事療法基準より)。

1日3回の規則正しい食事をとれるように心掛け、副食にはタンパク質(肉・魚・卵・豆腐など)を使用したおかずと、野菜をとり入れましょう。様々な食品をバランス良く使用することが大切です。

2.水分塩分の制限

透析を始めると尿が出なくなるため、「身体に入ってくる水分」「身体から出て行く水分」の量を計算する必要があります。体内に水分が溜まってしまうと、むくみや血圧上昇の原因となってしまうのです。

  • 身体に入ってくる水分:食事に含まれる水分、飲料水、代謝水
  • 身体から出て行く水分:汗や呼吸で失われる水分、便、尿

水分制限は、透析患者さんの体重管理を行う上でとても大切なことです。

腎臓の機能が正常であれば余計な水分が尿として排出されるため、体重の増減は自然に発生します。しかし、透析患者さんの場合は尿量が減り、透析と透析の間に体重が増加するようになります。そしてその分の増えた体重を透析で除去(除水)する、というサイクルになるので、透析患者さんが自分の本当の体重を知ることは困難です。

そこで、「ドライウェイト(DW」という仮の体重を定め、その体重を目標値として透析による除水を行います。このDWを適切に決定することが非常に重要です。

一度の透析で大量の除水を行うと、心臓への負担が大きくなります。DWを考え、透析でどれだけ除水できるかを考慮した上で水分を摂取しましょう。除水量が中2日でDWの5%(DW 60㎏の場合3kg)以内に収まるよう、水分・塩分摂取量を調節しましょう。尿のでない場合の1日の水分量の目安は食事から1000cc飲み物からは500~600cc程度です。尿の出る場合や汗が多くでた場合はその分余分に飲水可能です。

また、塩分を摂りすぎると水分摂取が増えたり、体内で水分の排出を抑えようとする働きがみられたりします。調味料や加工品はなるべく控え、香辛料や薬味を使用するなどして味付けを工夫する必要があります。

3.カリウムの制限

血中のカリウムが高くなると、不整脈や心不全に繋がります。特に多く含まれる食品には生野菜・生果物などがあります。野菜は、水にさらしたり茹でこぼしたりすることでカリウムを減らすことができるので、調理の工夫をしながら1日200g以下を目安に摂取しましょう。

果物は缶詰を利用することでカリウムの摂取を減らせますが、シロップにはカリウムが溶け出していますので飲まないようにしましょう。

4.リンの制限

タンパク制限が緩やかになるかわりに気をつけなければいけないのが、リンの制限です。高リン血症は血管の石灰化、動脈硬化を引き起こし、心筋梗塞や脳梗塞の原因となります。加工品やインスタント食品には多くの塩分や、腸管からの吸収率が高いタイプのリンが食品添加物として含まれていることがあり、注意が必要です。また、医師の指示にしたがってリン吸着薬などを服用することも大切です。

その他のポイント

消化吸収を十分に発揮するために食後30分は安静にするのが望ましいですが、その後の運動習慣は体力維持に繋がります。 日光に当たり適度な運動をすることで、骨粗鬆症を予防することもできます。

まとめ

腎不全患者は低栄養状態にあることがほとんどです。透析の導入とともに、食欲の改善や摂食量の増加で栄養状態が改善され、QOL(生活の質)の向上を期待することができます。

食事はできるだけ手作りのものを食べられるのが理想ですが、自分で調理をすることが難しい場合や家族のサポートを十分に受けられない場合は、配食サービスを利用するなどして食事の管理を行うこともできます。