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膵臓がんは、消化器のがんのなかでも最も予後が悪く、「治らないがん」といわれています。日本における最新の統計データでは、膵臓がんの10年生存率(治療開始から10年後に生存している人の割合)はわずか4.9%でした。

膵臓がんに対しては、切除手術、抗がん剤治療(化学療法)、および放射線治療のいわゆる三大療法が基本になります。

このうち、抗がん剤治療だけを行う患者さんに加え、手術や放射線治療には抗がん剤を併用することが一般的ですので、膵臓がんに対する治療の中心は抗がん剤治療になります

しかし、悪性度が高く、「治らないがん」である膵臓がんに対して、抗がん剤は効くのでしょうか?また、もし効果があるとしたら、どの程度効くのでしょうか?

今回は、膵臓がんに対する抗がん剤治療の現状を解説します。

膵臓がんに対する治療の流れ

医師の手元

膵臓がんの治療法を選択するにあたって、最初にいろいろな検査を組み合わせ、切除可能(切除ができる)膵臓がんと、切除不能(切除ができない)膵臓がんに分類します

切除可能な膵臓がんに対しては切除手術を行い、多くの場合、術後に抗がん剤による補助療法(ほじょりょうほう)が行われます。

一方、切除不能な膵臓がんであれば、最初から抗がん剤治療(または抗がん剤+放射線治療)が選択されます。

膵臓がんに対する抗がん剤治療

お見舞い

一昔前までは、膵臓がんに効果のある抗がん剤はほとんどありませんでした。しかし、最近はいくつかの新しい抗がん剤(あるいは抗がん剤の組み合わせ)が膵臓がんに対して有効であることがわかり、治療に使えるようになりました。

以下、切除可能膵臓がんと切除不能膵臓がんに対する抗がん剤治療について、それぞれ説明します。

切除可能膵臓がんに対する抗がん剤治療

切除可能膵臓がんに対しては、切除手術を行い、術後に再発・転移を予防するための抗がん剤治療を行います

1990年代後半、ゲムシタビン(ジェムザール)という抗がん剤が、膵臓がん術後の補助療法として有効であることがヨーロッパから報告されました。日本での臨床試験では、手術だけの患者さんの無病生存期間(がんの再発がなく生存できた期間)の中央値は約5ヶ月だったのに対し、ゲムシタビンを投与した患者さんでは倍以上の約11ヶ月でした。

この結果より、2000年頃より最近まで、膵臓がん術後の補助療法としは、ほぼ全例でゲムシタビンが使われていました。

ところが2013年、日本の膵臓がん研究グループから、もっと有効な術後の抗がん剤治療法が報告されました。それは、S-1(ティーエスワン)という飲み薬で、無病生存期間の中央値が23ヶ月と、ゲムシタビンの無病生存期間(約11ヶ月)を倍近く上回りました。

ですので、現在は術後の補助療法としては、まずはS-1が使われるようになりました。

また、最近ではいきなり手術するのではなく、術前に抗がん剤治療を行ってから切除を行う方法が検討されています。現在、この術前抗がん剤治療の安全性と有効性を調べる臨床試験が日本で進行中ですが、さらに生存率が改善することが期待されています。

切除不能膵臓がんに対する抗がん剤治療

切除不能膵臓がんに対しては、様々な抗がん剤による治療が試されてきました。しかしながら、最も効果が高いとされるゲムシタビンを使っても生存期間(中央値)はわずか5~6ヶ月(日本の臨床試験では約9ヶ月)でした

日本では、S-1も同様の効果があることがゲムシタビンとの比較試験において認められ、現在使われています(生存期間は約10ヶ月)。

最近、遠隔転移(遠くの臓器への転移)を認める膵臓がんに対しては、全く新しい治療法として、FOLFIRINOX(フォルフィリノックス)療法(大腸がんで使われる抗がん剤の組み合わせ)とゲムシタビン+ナブパクリタキセル(アブラキサン)併用療法が有効であることが報告されました。

現在、治療効果の点ではFOLFIRINOX療法がもっとも有効(生存期間は約11ヶ月)であると考えられますが、副作用も強いため、合併症などがなく全身状態が比較的よい患者さんにしか使えないといった問題もあります。

いずれにせよ、切除不能膵臓がんに対する抗がん剤治療は、生存期間が半年~1年以内とまだまだ効果が限られているのが現状です。

まとめ

切除可能膵臓がんに対しては、術後にS-1による補助療法を行うことにより、平均して約2年間近く再発なく生存できるようになりました。切除不能膵臓がんに対しては、従来のゲムシタビンに加え、FOLFIRINOX療法やゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用療法など、色々な治療法が選択できるようになりました。しかし、膵臓がん(特に切除不能膵臓がん)に対しては、抗がん剤治療の効果はまだまだ満足がいくものではありません。今後、さらに有効な抗がん剤や組み合わせが開発され、生存期間が延びることが期待されます。