今や、日本人の2人に1人ががんにかかり、3人に1人ががんで死亡する時代です。がんは決して「ひとごと」ではなく、自分や家族をおびやかす身近な病気となりました。それだけに、がんについて知っておくべきことがいくつかあります。皆さんのなかには、「がんは、大体みな同じような経過をたどって進行するもの」と思われている方がいるかもしれません。しかし、実際にはがんにはいろいろな性格(タイプ)があり、その進行する具合や速度は千差万別です。おとなしいがんもあれば、たちの悪い暴れん坊のがんもあります。このがんの進行を決める性質のことを「悪性度(あくせいど)」といいます。今回は、がんの悪性度について解説します。

目次

がんの悪性度とは?

がんの悪性度とは、「がんの発育の早さ、周りの組織への広がりやすさ、リンパ節や他の臓器に転移する能力」などを総合的に示す言葉です。

例えば、「悪性度の低い」がんは成長が遅く、放っておいても長い間進行せず、命をおびやかすことは少ないのが特徴です。また治療がよく効くことも多く、根治(完全に治ること)の可能性が高いがんです。

一方、「悪性度の高い」がんは成長が早く、あっという間にまわりの臓器に広がったり、リンパ節や遠くの臓器に転移したりすることがあります。またいろいろな治療が効かないことも多く、がんの進行を食い止めることができない場合もあります。

すなわち、一口にがんといっても、その悪性度によっては同じ病気とは思えないほど違うのです。では、このがんの悪性度は何によって決まるのでしょうか?

がんの悪性度を決定する因子

がんの悪性度を決める因子には、主に3つあると考えられます。

それは、①がんの発生部位(臓器)、②がんの組織型(そしきけい)、そして、③がんの分化度(ぶんかど)です。

それぞれについて解説します。

1.がんの発生部位(臓器)

がんは、全身のありとあらゆる部位に発生します。例えば、甲状腺、乳腺、肺、食道、胃、肝臓、胆のう、膵臓、大腸、腎臓、膀胱、前立腺などなど、いろんな部位(臓器)から発生します。

がんの悪性度は、この発生した部位によって大きく違ってきます。

国立がん研究センターの調査によると、がん患者さんの5年生存率(診断から5年後に生存している患者さんの割合)は、10%以下から90%以上まで、がんが発生した部位によって大きく異なっています。

5年相対生存率 臓器
(1)90%以上 前立腺(100%)、乳(92.9%)、甲状腺(91.6%)
(2) 70%以上90%未満 子宮体(84.9%)、大腸(75.9%)、子宮頸(75.1%)、胃(73.1%)
(3)50%以上70%未満 卵巣(61.0%)
(4) 30%以上50%未満 肺(43.9%)、食道(42.3%)、肝(34.8%)
(5) 30%未満 胆のう胆道(28.9%)、膵(9.1%)

 

例えば、前立腺がん甲状腺がんは進行がゆっくりで、致命的となる転移を起こすことが少なく、予後(治療の成績)がいいことで知られています(5年生存率90%以上)。すなわち、一般的に「悪性度の低い」がんといえます。

逆に膵臓がんの場合、がんが膵臓をこえて周りの大事な臓器や血管に浸潤(しみ込むように広がること)したり、リンパ節や肝臓などに転移したりすることが多く、予後は非常に悪い(5年生存率は10%以下)のです。つまり、「悪性度の高い」がんの代表格といえます。

2.がんの組織型(もともとの細胞(組織)の種類)

次にがんの組織型(そしきけい)です。これは、がんになったもともとの細胞(組織)の種類のことで、同じ臓器から発生したがんでも組織型が違うことがあります。

例えば肺がんは、大きく扁平上皮(へんぺいじょうひ)がん、腺(せん)がん、大細胞(だいさいぼう)がん、小細胞(しょうさいぼう)がんの4種類に分けることができ、それぞれ手術や化学療法化学療法の治療成績が違います。

また、膵臓に発生する腫瘍のなかには、腺がん(通常の膵臓がん)の他に、内分泌腫瘍(NET)という、インスリンなどのホルモンを産生する細胞から発生する腫瘍があり、通常の膵臓がんに比べると悪性度は低い傾向にあります。

3.がんの分化度

最後に、悪性度を決める因子としてがんの分化度があります。

分化度とは、顕微鏡で観察したがんの形態(かたち)が、もともとの正常組織とどれだけ似ているかということです。

つまり、分化度が高いとは、がんがもともとの正常組織に似ているということで、分化度が低いとは、がんが正常組織とは似ていないということです。

一般的に、分化度が低ければ低いほど悪性度は高くなります。

例えば、先ほどの腺がんの中にも低分化がん、中分化がん、高分化がんという分類がありますが、「低分化型腺がん」は、「高分化型腺がん」よりも悪性度が高くなります

患者さん個々のがんの悪性度は、おもにこの3つの因子によって決まります。

この他にも、がんによっては「ホルモンレセプターの有無」や「ある特定の遺伝子異常の有無」などが悪性度を決める因子として知られています。最近では、非常に多くの遺伝子異常や発現パターンを一度に調べることができるマイクロアレイという小さなチップが開発され、がんの悪性度や治療効果(予後)を予測する研究が行われています。

がんの悪性度と治療の関係

がんの悪性度と治療の関係-図解
がんの悪性度は、治療を進める上で重要な情報となります。いくつかの臓器のがんでは、がんの進行度(ステージ)だけではなく、悪性度に応じて治療法が選択されます。

例えば、前立腺がんでは、進行度に加えて悪性度(グリーソン分類)によって治療法が決定されます。生命に影響を及ぼさないと考えられる悪性度の低いがんに対しては、特別な治療をしないで定期的に腫瘍マーカーであるPSAを測定する場合もあり、これをPSA監視療法といいます。

また、早期胃がんの場合、悪性度のひとつである分化度(分化型か未分化型)によって、内視鏡的切除(胃カメラで粘膜を切除すること)か外科的切除(手術)を選択するかが変わってきます。

このようにがんの悪性度は、治療法を選択する際に重要な情報となります。

まとめ

がんの悪性度とは、がんが進行する具合や速度を決定する性質、性格のことで、おもに①がんの発生部位(臓器)、②がんの組織型、③がんの分化度の3つの因子によって決まります。がんの悪性度を評価することは、治療法の選択や治療効果(予後)の予測に役立ちます。