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マラリアは、東南アジアやアフリカを中心に広がっている病気です。蚊によってマラリア原虫という寄生虫に感染することでかかります。日本でも、海外に渡航した方の感染例は跡を絶ちません。侮ってはならないマラリアですが、症状や対処法の知識を身につけて、未然に防ぎましょう!

マラリアの感染は蚊で起こる

マラリアの感染リスクがある国・地域-図解
マラリアは、亜熱帯や熱帯地域を中心に感染者が報告されています。日本でも、旅行に出かけた人が感染したことが報告されています。

マラリアを引き起こすマラリア原虫は、蚊に吸血されるときに蚊の体内に取り込まれ、このときに蚊の唾液腺に潜伏します。この蚊が他の人の体で吸血するときに、マラリア原虫が唾液を介して体内に侵入します。これによって、体の中にマラリア原虫が住み着くようになるのです。

従来、世界では三日熱マラリア・四日熱マラリア・卵型マラリア・熱帯熱マラリアという4種類のマラリア原虫が知られていました。加えて近年、Plasmodium knowlesi(P. knowlesi)という原虫によるマラリアが問題となっています。これはもともとサルに感染する原虫ですが、東南アジアにおいて人に感染した例が多く確認されているのです。

マラリアはよく見られる病気なの?

WHOによると、2015年のマラリア患者数は2億1,400万人、死亡者数は43万8,000人でした(厚生労働省検疫所より)。マラリアの発生率・死亡率はともに減少しつつありますが、現在でも、世界中の約9割にも及ぶマラリア患者がサハラ以南のアフリカ地域で発生しています。

現在、日本ではマラリアの流行はみられませんが、流行国から帰国した後に日本国内で発症する例は年間50~100人程度みられます東京医科大学病院渡航者医療センターより)。

マラリアの基本的な初期症状

マラリアの潜伏期間(症状のでない期間)は、原虫の種類によって異なります。

種類 潜伏期間
熱帯熱マラリア 7~14日
三日熱マラリア 12~17日
卵形マラリア 11~18日
四日熱マラリア 18~40日
P. knowlesi 10~12日

マラリア原虫は血液の中の赤血球に生息し、その赤血球をこわして外に飛び出るときに様々な症状を引き起こします。

1.発熱

マラリアの主な症状は、発熱です。寒気や頭痛、関節痛、筋肉痛、嘔吐などを伴う熱が出ますが、初期のうちは症状が軽いことも多く、マラリアとは気づきにくいこともあります。

マラリアでみられる発熱は間欠熱(かんけつねつ)といい、以下のような周期性がみられます。原虫の種類によって、この周期が異なります。

種類 発熱の周期
熱帯熱マラリア 不規則(毎日、もしくは1日に2~3回)
三日熱マラリア 48時間
卵形マラリア 48時間
四日熱マラリア 72時間
P. knowlesi 24時間

2.貧血、黄疸

マラリアでは赤血球が破壊されてしまうので、症状がすすむと強い貧血を起こしてしまいます。特に子供のマラリアが重症化した場合に顕著です。

また、皮膚や白目が黄色く染まる黄疸がみられることもあります。

3.脾腫(ひしゅ)

脾臓は、体の中で古くなった赤血球や壊れた赤血球を集めて分解する臓器です。

脾臓は本来、左側の肋骨の裏に隠れている臓器です。マラリアの症状が進行した場合、脾臓が通常よりも強く働くようになり、大きく腫れ上がります。脾臓は大きくなると肋骨の下から飛び出し、やがてお腹の中に大きく飛び出してしまいます。このように脾臓が大きくなった状態は脾腫と呼ばれていて、マラリアに特徴的な症状です。

もっとも危険な「熱帯熱マラリア」

紹介した5種のうち、最も重症化しやすいのが熱帯熱マラリアです。熱帯熱マラリア原虫はアフリカで一番の感染率であり、死亡に至るケースも少なくありません。

熱帯熱マラリアでは発熱に周期はみられず、常に発熱していることが多いです。腎臓や脳に合併症を引き起こすことが多く、発症から治療開始までが5~6日以上となった場合、特に重症化や死亡のリスクが高まります。

マラリアにかかったかもしれない、と思ったら

マラリアの感染を疑った場合、寄生虫学的検査という検査を行います。これは顕微鏡などを用いて血液を調べる検査で、30分以内に結果が得られます。マラリアでは早期診断・早期治療が何より重要とされます。

マラリアと診断されたら、一般的に薬物による治療が行われます。アルテミシニンという薬と併用薬を用いたアルテミシニン併用療法(ACTという治療法が一般的ですが、近年はこれらの薬が効かない(多剤耐性)マラリア原虫が出現しています。このままでは少しずつ治療が難しくなっていくおそれがあるため、WHOは2015年より、2030年までの大メコン圏からの熱帯熱マラリア撲滅作戦を開始しています。

※大メコン圏:メコン川流域の、タイ・カンボジア・ラオス・ベトナム・ミャンマー及び中国雲南省・広西チワン族自治区

マラリアの予防法

マラリアの一番の予防法は、まず感染地域に出向かないことです。蚊による感染の広がりを防ぐことはなかなか難しいので、感染地を避けることが一番重要です。

どうしても感染地に赴く必要がある場合は、予防投薬を行うと良いでしょう。予防投薬とは、マラリアに感染しないよう、渡航前に抗マラリア薬から服用しておくことです。特に熱帯熱マラリアが流行しているサハラ以南やパプア・ニューギニアなどに赴く場合や、渡航期間が7日を越える場合には、予防内服を検討すると良いでしょう。

ただし、予防効果は100%ではないこと、3人に1人の割合でめまいや吐き気などの副作用がみられること、妊婦の服用は推奨されていないこと、自費診療となることなどに留意した上で、医師と相談してください。

合わせて、虫除けスプレーを携行してください。虫除けスプレーに含まれているディートという成分は、蚊などに特によく効きます。旅行の時は、荷物に入れておくようにしてください。

まとめ

マラリアは、結核やHIVと並んで世界3大感染症の一つとされています。日本で生活しているとあまり馴染みのない病名かもしれませんが、海外渡航時には十分に注意することが必要です。

マラリアを疑った場合には、自分の渡航歴や自分の症状などを詳しく記録し、医師に伝えてください。旅行後に異変が訪れた時には必ず医師と相談し、適切な診断を受けるようにしましょう。