現在、中南米を中心に大流行しているジカ熱。2016年2月1日に世界保健機関(WHO)が緊急事態宣言を発しました。日本では2月2日に、厚生労働省がジカ熱をデング熱などと同じ「4類感染症」に指定し、患者を診断した医療機関に対して保健所への届け出を義務付ける方針を固めました。

感染が拡大しているジカ熱ですが、ニュースになるまでその名前を聞いたことがなかったという方も多いことでしょう。そこで今回は、ジカ熱とは一体どのような病気なのか解説します。

目次

ジカ熱は蚊が媒介する伝染病

ジカ熱は、2014年に大流行したデング熱などと同じように、蚊を媒介して感染する病気です。また、ウイルスに感染したとしても全員が発症するわけではなく、症状が出ない・軽いために気付かない場合もあります。

アフリカや中南米、アジア・太平洋地域などで発生する病気で、最近では特に中南米での流行が多く見られます。日本国内での感染例は今のところありませんが、海外で感染し、発症した例がいくつかみられます。直近では2016年2月25日、ブラジルから帰国した川崎市の男子高校生が、ジカ熱に感染したことが確認されました。

ジカ熱は基本的に蚊を通してのみ感染し、感染した人から他の人へと直接うつることはないとされていました。しかし2月2日、アメリカのテキサス州で、ジカ熱がヒトからヒトへ感染したとの報告がありました。新たな感染者は感染地域への渡航歴がなく、感染地域に渡航した人との性交渉を通じてウイルスが感染したとのことです。WHOの米地域事務局である汎米保健機構(PAHO)は「ジカ熱が性感染することを確認するためには一段の事例が必要」としていますが、今後もこのような例が確認された場合、さらなる感染拡大が懸念されます。

ジカ熱自体は重い病気ではない

蚊取り線香

上記のとおりジカ熱は、ウイルスに感染した全ての人が発症する病気ではありません。発症したとしても多くの場合その症状は軽く、2~7日続いた後で治ることが多いです。

主な症状としては、以下のようなものがみられます。

  • 微熱
  • 頭痛
  • 関節痛
  • 発疹
  • 目の充血

これらに加えて、下痢や筋肉痛、手足のむくみなどがみられることもあるようです。

潜伏期間はまだはっきり分かっていませんが、感染してから発症するまでは数日から1週間以上のこともあるようです。

ジカ熱には、ワクチンや特効薬がありません。そのため、発症した場合は対症療法がとられることとなります。ジカ熱自体が重症化することはほとんどありませんが、稀にギラン・バレー症候群を発症することや、ジカ熱の流行地域で小頭症の赤ちゃんが増えていることが問題視されています。

 

ジカ熱流行地域で増えている「小頭症」って?

妊婦さんのおなか

ジカ熱が流行している中南米で現在、小頭症の新生児が増えているとの報告があります。

小頭症とは、赤ちゃんの頭が同じ年齢・性別の通常の子供と比べてはるかに小さい状態です。

頭蓋骨(ずがいこつ)は、たくさんの骨がかみ合って(縫合)脳を囲んでいます。通常、赤ちゃんの頭蓋骨は脳に合わせて徐々に発達し、大きくなっていきます。しかし、何らかの要因でこの縫合が早いうちにくっついたり、きちんとくっつかなかったりすることがあります。また、頭蓋骨そのものが通常よりも小さい場合もあります。これらの場合は脳が発育しても頭蓋が大きくならないため、脳や神経の発達に障害が起こり、視力や聴力に問題が発生することもあるのです。

ブラジル保健省は、妊娠中のジカ熱感染と胎児の小頭症に関連がみられるとの見解を示しています。ジカ熱と小頭症との関連についての調査は現在も進められており、アメリカ疾病予防管理センター(CDC)は、詳細な調査結果が出るまでは妊婦の方の流行国地域への渡航を控えるようにと警告を出しています。

※小頭症には「オートファジー」が関係している

2016年にノーベル生理学・医学賞を受賞した「オートファジー」が、ジカ熱による小頭症の発症に関係していることが、最近の研究で明らかになっています。

オートファジー(自食作用)とは、細胞が生命を維持して健康状態を保つために、不要なタンパク質を分解・再利用する働きのことです。例えばアルツハイマー病は、アミロイドβという異常なタンパク質が細胞内にたまることが引き金となって起こります。オートファジーは、このような病気を起こさないようにしていると考えられているのです。

最新の研究では、ジカ熱による小頭症にしたマウスの神経細胞に、オートファジーに関わる遺伝子の異常がみられることが分かりました。今後の研究が進むのではないかと期待されています。

現段階で日本人が気をつけるべきことは?

ブラジル

日本国内で感染することはあるの?

ウイルスを媒介するヤブカ属のヒトスジシマカは、日本のほとんどの地域でもみられます。ですから、流行地で発症した日本人帰国者あるいは外国人旅行者が国内で蚊に刺され、同じ蚊がたまたま他の人を刺した場合、ジカ熱に感染する可能性はあります。ですがその可能性はかなり低いですし、その蚊が冬を越えて生息することもできませんので、日本国内での感染はあまり心配しなくてよいでしょう。

海外流行時に注意!虫除けの3つのポイント

  • 長袖のシャツや長ズボンを直用し、できるだけ皮膚の露出を少なくする
  • できるだけ、網戸がしっかり取り付けられているか、エアコンが備わっているか、蚊をしっかりと駆除しているホテルに滞在する
  • 屋外に出たり、網戸が取り付けられていない建物にいたりする時は、皮膚の露出部にディート(DEET)などの有効成分が含まれている虫除け剤を2~3時間置きにつける

虫除け剤を使用する際は、添付文書に書かれた使用法を必ず守るようにしてください。また、日焼け止めと併用する場合、日焼け止めを先に塗ってから虫除け剤を使用します。お子さんへの虫除け剤の使用については小児科医とよく相談し、使用できない場合はベビーカーにぴったり合うサイズの蚊帳を取り付けると良いでしょう。

すべての蚊がジカウイルスを保有しているわけではないので、もし蚊に刺されたとしても神経質になりすぎる必要はありません。ですが、できるだけ蚊にさされないように対策を取ってください。また、妊娠の可能性がある方はできるだけ、流行地域への渡航は避けてください。やむを得ず渡航する場合、主治医と相談したうえで、厳密な防蚊対策を取ってくださいね。

性的接触による感染はどう防ぐ?

性的接触による感染についてはさらなる証拠が必要とされますが、現時点での予防策として、ジカ熱に感染したおそれがある人の精液には触れないということが挙げられます。他の性感染症の予防にもつながりますので、性的交渉の際にはコンドームを使用してください。

もしも心配な症状が出たら…

海外にいる間に発熱などの症状が出たら、できるだけ早く現地の医療機関を受診してください。また、帰国の際に心配な症状がみられたら、検疫所の担当者に相談するようにしましょう。症状がなかなか改善しない場合、近くの医療機関を受診するようにしてください。

いずれにせよ、相談・受診の際には、渡航先・渡航期間・渡航先での活動などについて詳しく伝えてくださいね。

さいごに

日本でも、空港の検疫所で症状を訴える人がいないかなど、厚生労働省による水際対策の強化が進められているジカ熱。今のところ、日本で生活している限りはそれほど心配する必要はありませんが、中南米やアジア太平洋地域などの流行地域に渡航する方は、蚊に刺されないよう十分に注意してください。特に、妊娠中の方は厳密な防蚊対策を行うようにしましょう。