失語症になると円滑なコミュニケーションが障害されます。言葉がうまく使えない・話が理解できないなどの症状により、日常から社会生活に至るまで大きな影響を受けます。この記事では、もしかして身近にいるかもしれない「失語症」の方を理解するために、その原因と症状について解説します。

目次

失語症ってどんな病気?

2014年の厚生労働省「失語症の人の生活のしづらさに関する調査」によると、失語症の発症年齢が一番高い年代は50代で全体の約4割を占めます。また20~50代の働き盛りの時期に失語症を発症する方は6割以上に上るとも報告されています。

失語症は、脳の損傷により起こる高次脳機能障害の一種で、言語や言語理解に関する機能に問題が生じます。失語症の原因となる疾患は、脳卒中、一部の腫瘍、頭部の外傷、脳の感染症などで、脳の言語機能を担う領域が圧迫されたり損傷が起きたりすることにより発症します。

失語症は言語リハビリによって治療が可能ですが、年齢や言語障害の程度により、回復のスピードやレベルに差があります。

※脳血管障害で合併する構音障害(発音がうまくできない)は発症のメカニズムが異なるため失語症とは区別されますが、両者は合併するケースも多くあります。

失語症の主な2つのタイプ

失語症には大きく分けて、ウェルニッケ失語ブローカ失語2つのタイプがあります。これらの違いは、脳の左側後方に位置し言語を理解する働きを持つウェルニッケ野と、脳の前頭葉に位置し言語を発する働きのあるブローカ野のどちらに失語の原因となる障害があるかによります。

ウェルニッケ失語は、流暢型失語とも呼ばれ、発話は流暢でも人の話が理解できない・本を読めない(失読症)などの症状がみられます。話された言葉、書かれた言葉のどちらも理解しづらい状況です。ウェルニッケ失語の方は、リズムとしては淀みなくスムーズに話しますが、その言葉自体は支離滅裂な言葉になっています。しかし、本人は意味不明な言葉を話してしまっていることに気づいていないことがあります。

ブローカ失語は、非流暢型失語とも呼ばれ、文章や人の話を理解することはできますが、複雑な文章を組み立てることができず、思っていることをうまく話せない・書けない(失書症)・読めない(音読障害などの症状が現れます。ブローカ失語の方は、自分に言語障害があるという自覚があり、非常に苦労しながら、ゆっくりと話してくれます。

失語症の検査と診断

医師との対話-写真
通常、医師の診察によって診断が可能です。脳の特定の機能を判定するように作成された質問などを踏まえ、ほかの疾患との鑑別をしながら脳神経外科や脳神経内科の専門医による症状の分析が診断の鍵となります。

失語症の症状を細かく分析する上で役立つのが、認知機能テストです。これらのテストは、神経心理学者や言語療法士によって実施されます。

例えば日本高次脳機能障害学会では、失語症の重症度やタイプを鑑別するための標準失語症検査SLTAを紹介しています。

このほか話す流暢さを6つの角度から分析するボストン失語症診断検査や言語機能を総合的に判定するWAB失語症検査などさまざまな角度から失語症の症状を検査する方法があります。

失語症の原因の診断には、CT・MRIなどの脳画像診断が使用されます。脳の画像分析で脳の病変のある部分を特定することは、症状の裏付けをするのにも役立ちます。

失語症のさまざまな症状

失語症では、言語に関わるさまざまな症状が現れます。これらの症状を正確に鑑別し、それに応じたリハビリやサポートを行うことが大切です。下記は、失語症でよく見られる症状をまとめたものです。

  • 正しい発音ができない。例)りんご→り…んごっ(アナルトリー
  • 耳で聞いた言葉を理解することが難しい。(聴覚理解の低下
  • 頭で考えていること、言いたいことが言えない。ふさわしい単語が思いつかない(喚語困難
  • 相手の質問や状況・場面が変わっても同じ言葉を繰り返してしまう(保続
  • 単語の発音を言い間違える。例)つくえ→くくえ、むぎ→ぬぎ(音韻性錯誤
  • 意味の違う単語に言い間違える。例)みかん→りんご(意味性錯誤
  • 実際には存在しない単語を話す。例)みかんを食べる→あたらを食べる(新造語
  • 意味不明の単語・文章を話す(ジャルゴン

まとめ

失語症に苦しむ方は大勢います。失語症は脳の損傷が原因で、様々なタイプと症状があります。もしも失語症の方が身近におられる場合には、相手が脳の病気であることを念頭において対応することが大切です。この記事の情報がお役に立てば幸いです。コミュニケーションの取り方に関しては「失語症の方とコミュニケーションを取る時のポイント6つ!」をご覧ください。