高次脳機能障害は、病気やケガによる意識障害から目覚めたあと、脳の働きのうち「認知機能」に障害があらわれる病気です。記憶や言語などに様々な症状がみられ、そこに合わせたリハビリテーション治療によって回復をめざします。原因となった脳の損傷から年数が経過すると、治療の効果に限りがあるといわれています。そのため、早い時期からの適切な治療と対応が望まれます。

なお、高次脳機能障害の症状などについては、「性格まで変わる!?高次脳機能障害の原因と5つの症状」の記事をご覧ください。

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相談するなら、専門の窓口を活用する

脳の損傷から回復して、日常生活に戻ったときに「どうもおかしい」「以前と違う」など記憶、注意力、感情のコントロールなどに関して本人や家族が「何かおかしい」と感じたら、高次脳機能障害かもしれません。早めに専門医に相談しましょう。

診断には、MRIやCTなどの脳画像によって脳損傷があることを確認し、様々な認知機能の障害が、脳損傷で説明がつくかどうかを確認する必要があります。脳損傷による後遺症に詳しい脳神経外科、神経内科、精神神経科、リハビリテーション科などの専門医に診てもらうことが大切です。

また、各都道府県に設置されている専門の相談窓口を活用し、検査・診断・治療について詳しく話を聞くのがよいでしょう。2016年4月1日現在、国立障害者リハビリテーションセンターの高次脳機能障害情報・支援センターによって、全国47都道府県に「高次脳機能障害の相談窓口」が設置されています。地域の窓口を探して相談しましょう。

症状に応じたリハビリテーション治療

高次脳機能障害の治療は、症状に応じた医学的リハビリテーションを行います。記憶力・集中力・判断力などの認知機能や対人関係を回復するためには作業療法や言語聴覚療法、心理療法による「認知リハビリテーション」や「ソーシャルスキルトレーニング」、日常生活動作や交通機関の利用などに関係する障害には「生活訓練」、就労に関するカウンセリングや訓練・支援には「職業的リハビリテーション」が推奨されます。

プログラムの中から、できるだけ本人の興味や関心に合うようなものを選び、難易度を調整しながら、次のような方法を段階的に進めます。

  • 1回30分以上の有酸素運動
  • ストレッチ
  • 音読
  • 反復訓練
  • パズル
  • まちがい探し
  • 更衣、家事、物の組み立て
  • スケジュール確認訓練
  • メモ帳など外的補助手段の活用
  • PCを用いたワーキングメモリのトレーニング

ある報告によれば、リハビリテーションを続けることで、約74%の人が6ヶ月後に症状が改善し、1年後には約98%の人に効果があらわれたと報告されています(高次脳機能障害情報・支援センターより)。

「心と身体の変化を意識すること」からはじめる

ガッツポーズの医師-写真
高次脳機能障害の人の日常生活は、本人も周囲からも歯がゆく感じることでしょう。そのため本人は、焦り・いらつき・落ち込むなどのストレスを抱え込むことがあります。

思うようにできない、ミスをするなどが重なると、周囲から注意されることも多くなり、その結果、何もしないといった消極的な生活をしがちです。また、感情をコントロールできないときが増えるでしょう。そのようなときこそ、専門家の知恵を借りましょう。

高次脳機能障害は、自分で自分のことを障害と認識するのが難しくなる障害であり、脳損傷を受けたことによる心と身体の変化を、いかに本人が気付き、理解できるかどうかが改善の鍵を握っています。しかし、障害を認識していない人に向かって障害を無理に認識させるようなアプローチは、かえって本人の障害認識を妨げます。家族だけではなく、専門家のサポートを上手に借りながら、患者さん自身が自ら障害に気づくような環境づくりが重要です。

また、自宅でのリハビリテーションとして、明確な日課を準備し、生活のリズムを作ることが回復につながります。家族や周囲の接し方として、次のポイントが参考になるでしょう。

  • 指示は1つ1つ、なるべく7秒以内のキーワードで伝える
  • 1つ終わったら次へ、1度に複数の作業を行わせない
  • なるべく予定の変更をしない
  • 否定的な言葉は避ける
  • 1日のスケジュールを分かりやすく提示する
  • 具体的で分かりやすい「短期目標」を設定する
  • スケジュールに見通しを持たせ、行動しやすくする
  • 道具や方法などは、症状に合った手段を活用する
  • 物の置き場所や片付け場所は、必ず決めておく
  • 興奮していたら、座ってゆっくり深呼吸

高次脳機能障害の社会的支援

2001年、厚生労働省が「高次脳機能障害支援モデル事業」を実施したことで、高次脳機能障害は社会に認知されるようになっています。現在、次の福祉制度が利用できる可能性があります。

  • 精神障害者保健福祉手帳
  • 身体障害者手帳(身体障害や言語障害がある場合)
  • 療育手帳(18歳未満で発症した知的障害が対象)
  • 障害福祉サービス
  • 自立支援医療
  • 障害年金

症状などによって、税金・公共料金などの控除や減免、公営住宅入居の優遇などが受けられます。サービスの対象や内容は自治体によって違うようです。地元市区町村の福祉担当窓口に問い合わせると明らかになります。

まとめ

高次脳機能障害は、以前と人が変わってしまったように見えるほど、本人に強いショックを与える病気です。家族も接し方に苦悩することでしょう。2001年から厚生労働省は、高次脳機能障害の支援体制を整備しました。都道府県や区市町村の相談窓口、リハビリテーションの施設、福祉支援制度などが新しく開設されたり、改善されたりしています。今後、超高齢化社会に向かい、社会全体で支える環境づくりが、さらに求められます。