失語症は、本人だけでなく支える家族にも多くのストレスがかかります。言葉の伝達がうまくいかないため相手の思いをうまく汲み取ることに苦労するほか、コミュニケーションがうまく取れないために失語症の方から怒られるケースも存在します。失語症の方が身近にいる場合、相手をうまく尊重し、円滑にコミュニケーションをとっていくために周囲の人はどういった対応をすればいいのでしょうか。

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失語症は感情的・現実的なサポートが必要

2014年に厚生労働省が行ったアンケート調査によると、失語症を患う方のうち、「時々言葉に詰まる/ある程度話すことができる」人が約68%、「全く(ほとんど)話すことができない」人が25%でした(残り7%は無回答)。また、人の話を聞いて「ほとんど問題なく理解できる」のは29%に過ぎず6%は全く(ほとんど)理解できないという結果になりました。

円滑なコミュニケーションには、言語そのものだけでなく感情的な面も大きく関係します。失語症を患う方は、自分の思っていることが相手に伝わらないストレスを抱え、感情が不安定になってしまうことがあります。

怒ったり、ときには暴力を振るったりしてしまうだけでなく、人と話すことを恥ずかしく感じたり恐れを抱いたりして積極性を失ってしまうこともあります。

また、失語症になり仕事の機会を失ってしまった方が大勢います。60 歳未満の就労年齢にある人の中で、仕事について いたのは 22%に過ぎなかったという報告もあります(厚生労働省より)。

ですから、失語症の方には日常的・社会的な援助が不可欠です。家族や身近な人は失語症を患う方それぞれの状況を理解し、個々の感情や必要に配慮した現実的なサポートをすることが大切です。

失語症の方とのコミュニケーションをとるときのポイント6つ

失語症を患う方との円滑なコミュニケーションのポイントを6つご紹介しましょう。

  1. 「分かりやすい言葉」を心掛ける。ゆっくり・はっきりと相手が聞き取りやすいように話しかける。難しい言い回しではなく、分かりやすい言葉を選ぶ。
  2. 言葉が出ない場合は「急かさず助け舟を出す」。また言葉を使わないコミュニケーション(身振り、手振り)を多用すると、理解しやすくなることがあります。
  3. 「緊張させない」よう注意する。リラックスした環境作りを構築していきましょう。
  4. 「答えやすい」質問をする。相手が「はい」や「いいえ」または「頷く」だけで答えられるような言い回しで質問する。
  5. 「タッチケア」などで安心感を与える。背中や手足をゆっくり丁寧に触っていくことで信頼関係を築いたり落ち着かせたりしましょう。
  6. 「怒らない・とがめない・馬鹿にしない」よう注意する。失語症の方は、様々なフラストレーションを抱えていることがあります。相手の言い間違いやうまく話せないことを咎めたり、子供扱いしたりするようなことはやめましょう。

そのほか、「50音表」や「大声で話しかける」ことは効果がありません。実際は50音表から1文字だけ選び出すことが困難な場合がありますし、失語症自体は聴覚の問題ではないからです。

失語症の方が困難を感じる場面

グループ-写真

失語症の方は、日常のコミュニケーションに加え、普段の社会生活の細かな部分にもたくさん困難を感じています。

  • 日常の挨拶(おはよう・ただいま・いただきますなど)が適切にできない。
  • 公共の表示(信号・トイレ・受付・地下鉄・バス・タクシーなど)を認識し間違えることがある。
  • 時計を見て時間を管理すること(時間通りに行動)を難しく感じる方もいる。
  • 外出するときは、失語症の方への対応に慣れた家族の付き添いがないと不安に感じる(公共機関や病院受診なども含む)。
  • 市役所や銀行などでの手続きは一人でできない方が多い。特にATMなどの機械操作を難しく感じる方が多い。
  • 買い物に一人で行くのに不安を感じる。お釣りの計算が難しい
  • 飲食店で注文する際にも困難を感じる。しかしメニューやメモなどの助けがあると便利
  • 電話対応がうまくできないために、1人で家にいることに不安を感じる。
  • 身体障害者手帳の発行や介護サービスの申請に関して、利用できるサービスがあることを知らない

もし、言葉が出なかったり理解ができなかったりして困っている方を見かけたら、思いやりのある態度で接することが大切です。

リハビリは早期に開始するほうが効果的

失語症のリハビリの目的は、言語機能を完全に元の状態に戻すことではなく、可能な限りの言語障害の改善と、残存する言語機能を生かす方法を学ぶことです。そして、リハビリによって、失語症の方が元の生活レベルに近づき、積極的に生活を送れるようにすることが目標です。

日本脳卒中学会のガイドラインによると、失語症の回復に言語聴覚療法が有効であり、早期に集中的に行うほど効果的が高いことが指摘されています。言語聴覚療法は言語機能や聴覚に障害のある人へのリハビリを行う資格を持つ言語聴覚士(ST)により行われます。

言語聴覚療法には、個人訓練のほかに、自由なコミュニケーションと社会参加の機会ともなるグループ治療やコンピューター機器を用いた会話プログラムなどがあります。こうした療法により、失語症の方の意欲を高めたり、刺激したりして会話を促します。

まとめ

失語症の方は、言語そのもののリハビリだけでなく周囲の人からの思いやりのある感情的・現実的なサポートを必要としています。失語症の方が意欲的にリハビリに取り組み、喜びのある生活を送るうえで、身近な人の適切な対応はとても重要です。さらに、もし街で失語症の方が困っているのを見かけることがあるなら、誰もが優しく援助の手を差し伸べたいものです。