記憶する、思考する、学習する、判断する、感情をコントロールするといった脳による働きを高次脳機能といいます。高次脳機能障害は、脳が損傷したことで記憶障害・注意障害・失語などの症状があらわれる病気です。自宅の近所で道に迷う、スケジュールや人の名前が覚えられないなど日常生活や社会生活に支障をきたします。発症以前とは性格がガラリと変わることがあるようで、家族や友人は戸惑います。

目次

思考・理解・計算・言語などに起こる障害

高次脳機能障害は、脳の損傷による意識障害から目覚めた人が、無事日常生活に戻ったときに、外見上は回復したように思えても、脳の機能のうち、記憶・思考・理解・計算・言語・判断・情緒などの「認知機能」に障害があらわれる状態です。

見た感じは普通ですが、会話が上手くできない、新しいことが覚えられない、怒りっぽい、集中できない、約束が守れないなどの症状があらわれ、社会生活にも支障をきたします。

本人が症状に気づかないこともあり、周囲から「人が変わった」「乱暴になった」「怠け者になった」など理解されにくい障害といわれています。症状や程度が実に多様であるのも特徴です。

障害を持つ人の数は全国に約50万人いると推計されます(高次脳機能障害情報・支援センターより)。一方で厚生労働省が2001年度から5年間取り組んだモデル事業によると、障害者手帳を所持する人は約50%にとどまっていました(高次脳機能障害・支援センターより)。

原因として、MRIやCTなどの画像診断を行っても発症の事実を見つけられない人が一部いること、また自分が障害を持っていると認識できないために取得しないことなどが挙げられます。

ほとんどが、脳卒中と脳外傷による後遺症

発症の原因は、病気やケガによる「脳の損傷の後遺症と考えられています。

2008年に実施された東京都による調査では、高次脳機能障害者は男性が女性よりも多く、年代別では60歳以上の者が67.2%となりました。

発症の原因は脳血管障害が81.6%、脳外傷が10.0%で、30歳以上は脳血管障害の割合が脳外傷より高くなっていました。60歳以上では脳血管障害者の割合はより高く、89.9%を占めていました。

障害の内容では、行動と感情の障害(意欲の障害、抑うつ状態、不安、興奮状態など)44.5%、記憶障害42.5%、注意障害40.5%、失語症40.4%が多いという結果になりました(本段落のデータは全て東京都福祉保健局より)。

この他、脳腫瘍てんかんなどから発症することもあります。

脳卒中や交通事故など後天的(生まれつきではなく、あとから身に起こったこと)な脳の損傷のあとに、認知機能の様々な障害が起こったとき、厚生労働省は「高次脳機能障害」と定義しています。脳血管障害による後遺症は中高年に多く、頭部外傷による後遺症は若年層に多いとされています。

高次脳機能障害の症状

障害名 具体的な症状
記憶障害 新しいことが覚えられない
注意障害 気が散りやすい、集中できない
遂行機能障害 手際よく作業ができない
行動と感情の障害 怒りやすい、幼稚、引きこもり、意欲がわかない
失語症 言葉が話せない、理解できない
失認症 見えているのに認識できない
失行症 一連の動作の手順がわからない
地誌的障害 よく知ってる場所でも道に迷う、いる場所がわからない
半側空間無視 片側の空間を認識できない
半側身体失認 麻痺側を認識できない

東京都福祉保健局を元にいしゃまち編集部が作成)

脳損傷の部位によって症状がちがう

高次脳機能障害では、障害が起きた部位によって症状が分かれます。これは、場所により脳が司る機能が異なっているためです。

<高次脳機能障害の症状と脳損傷の部位との関係>

高次脳機能障害-図解

はしもとクリニック経堂より提供)

特徴的な5つの障害

高次脳機能障害の症状は多岐にわたるものの、大きく次の5つに分類されます。

記憶障害

日付が分からない、物の置き場所を忘れる、新しい情報が覚えられない、自分のしたことを忘れるなどの症状が見られます。そのため、同じ質問をくり返すことがあります。

注意障害

注意力や集中力が極端に低下します。ぼんやりしてミスばかりする、2つのことを同時にしようとすると混乱する、周囲が気になってすぐに気が散る、一方で周囲のことに気づかないなどが起こりやすくなります。

遂行機能障害

論理的に考える、計画を立てる、問題を解決するなどができない障害です。思いつくままに物事を進める、段取りを無視して気ままに作業する、失敗が次に活かせないなどの症状がみられます。

社会的行動障害

状況に合わせて、行動や感情をコントロールできない状態です。怒りっぽい、無制限に食べる、お金を沢山使う、子供っぽい態度をとる、すぐ人に頼る、人間関係が作れないなどの症状がみられます。

病識の欠如

自分が障害を持っていることをうまく認識できない状態です。障害を否定するふるまいや発言をします。一方で障害が軽度の場合、むしろ訴えが多いこともあります。

まとめ

高次脳機能障害は、病気や事故による脳の損傷から、日常生活や社会生活に必要なことの多くを忘れてしまったり、覚えられなかったり、あるいは対応できなかったりする障害です。一見すると、病気や事故前と変わらないように見えますが、認知機能の一部が損なわれ、まるで別人かと思えるほど、性格まで変わってしまうこともあります。