脳血管疾患(脳梗塞・脳出血など)で倒れた場合、後遺症として麻痺が残り寝たきり状態となる、杖や車いすなしでは生活できなくなる、といったイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか。
しかしこれらの状態は運動障害によるものであって、実際は脳がダメージを受けた場所によって様々な障害が後遺症として現れます。
脳の役割は?
脳は生命や身体機能の中枢機関であるとされており、神経細胞や神経線維などで成り立っています。
脳は部位によって、呼吸・循環・体温調節、記憶、言語、体性感覚、視覚、聴覚、運動、嚥下(飲み込み)といった役割分担がされており、日常生活をスムーズに送るために様々な働きをしています。
人間にとって生きていくうえで重要な部分である脳の血管が詰まったり出血したりすると、脳細胞へ栄養は行き届かなくなり結果的にダメージを受けた脳のその場所は機能しなくなります。これが、脳血管疾患による後遺症を起こします。
脳血管疾患って?
脳血管疾患として有名なのが、脳梗塞(脳の血管が詰まる)・脳出血(脳の血管が破れて出血する)・クモ膜下出血(クモ膜下腔に存在する脳表面の血管が破れて出血する)です。
厚生労働省によると、脳血管疾患の平成26年時点国内総患者数は117万人(厚生労働省|平成26年(2014)患者調査の概況より)、平成28年の死因別死亡数では第4位、年間10.9万人が亡くなっていると報告されています(厚生労働省|平成28年(2016)人口動態統計(確定数)の概況より)。
これらの脳血管疾患を発症すると、ダメージを受けた脳の部位や出血量などの状態に応じて様々な障害が現れ、後遺症として障害が残る場合があるとされています。
後遺症の種類は?
前述した通り、脳がダメージを受けた部位によって障害は異なり、さらには程度も人によって様々です。
脳血管疾患における主な後遺症は以下になります。
- 意識障害;意識がない状態から、日時や場所などがはっきりと分からないといったような、何かがおかしい状態などの様々な障害があります
- 記憶障害;新しいことが覚えられない、過去のことが思い出せないなどの障害があります
- 運動障害;手足の一部や全身など、身体のどこかに麻痺などがあり、うまく動かすことができないなどの障害があります
- 視覚障害;視野の半分や1/4が見えない、一部が見えないなどの障害があります
- 感覚障害;体の一部がしびれる、熱いものや冷たいものの感覚が分かりにくいなどの障害があります
- 嚥下障害;食べ物や飲み物がうまく飲み込めない、飲み込みにくくむせやすいなどの障害があります
- 言語障害;声が出しにくい、ろれつがうまく回らない、他人の言葉がうまく理解できない、思っていることをうまく言葉にできないなどの障害があります
- 排尿障害;尿意が分からない、失禁してしまう、自力で排尿することができないなどの障害があります
もちろんこのほかにも精神症状、顔面や眼球運動の障害なども挙げられ、症状や程度は様々になります。
以上のように様々な後遺症がありますが、コミュニケーションをとるうえで重要でもある「言葉を理解する・話す」ことなどが障害されてしまう「言語障害」について更に詳しく述べていきたいと思います。
言語障害が起こるメカニズム

言語障害は大きく分けると失語症と構音障害に分類されます。
失語症
脳には言語中枢と呼ばれる部位があり、さらに運動性言語中枢と感覚性言語中枢に分けられます。この言語中枢は、9割以上の人で左大脳(脳の大半を占める大脳のうち、左側の大脳)の一部に存在しています。
言語中枢とそれに関連した部位が損傷されると、以下の種類の失語症を生じます。
1.運動性失語
運動性言語中枢とそれに関連した部位がダメージを受けると、他人の言葉は理解できても自分自身の言葉はうまく話せない、言葉がスムーズに出てこないなどといった運動性失語と呼ばれる症状が現れます。
2.感覚性失語
感覚性言語中枢とそれに関連した部位がダメージを受けると、他人の言葉や書かれている文字がうまく理解できない、自分自身で言葉をうまく話せてもその言葉が間違っていたり、意味不明・支離滅裂な内容であることが多いなどといった感覚性失語と呼ばれる症状が現れます。
3.伝導性失語
感覚性言語中枢と運動性言語中枢との連絡がダメージを受けると、言葉の理解や発語に大きな問題はないが、復唱ができない症状が現れます。
4.全失語
上記の両方の中枢を含めた部位がダメージを受けると全失語と呼ばれる、言葉の理解や発語などすべての言語機能に障害が現れます。
5.健忘性失語
言葉の理解や発語に大きな問題はないが、名詞や名称がうまく出てこないといった症状が現れます。
構音障害
発声・発語に関わる口や頬などの筋肉やそれを支配する脳神経がダメージを受けることによって、はっきりとした言葉が出づらくなる、ろれつがうまく回らないなどといった症状が現れます。
まとめ
このように、言語中枢や言語にかかわる神経系が脳血管疾患などにより損傷を受けると、言語障害が症状として顕著に現れ、コミュニケーションに大きな支障を与えます。
そのため、後遺症として言語障害が残ってしまった場合、本人は精神的な苦痛やもどかしさを感じることも少なくないでしょう。
また、見た目は普通の人と変わらなくても言語だけが障害されている場合、初対面の人からは不思議がられたり偏見も受けやすいでしょう。
脳血管疾患には様々な後遺症が残ること、また人とコミュニケーションをとるうえで重要な、会話がうまくできなくなる「言語障害」について、知識として備えておくことも重要ではないでしょうか。