小児の鶏卵アレルギーは、乳幼児の食物アレルギーの中で最も多い原因であります。その半数にはアトピー性皮膚炎を合併しますが、その半数が適切なスキンケアと除去解除(加熱卵を1個食べても症状が出ず、その食べ物を食事から取り除く必要がないという状態に持っていくこと)により改善する可能性が高いです。ここでは、必要最小限のアレルゲンの除去と適切な除去解除の方法に関して紹介します。
編集部より
アレルギーの症状は個人差が大きいため、自己判断は危険です。
本記事は医学的見地にもとづいて執筆していますが、実際のお子さんの症状に関しては必ずかかりつけ医に相談するようにしてください。
食物アレルギーとは
食物アレルギーは「食物によって引き起こされる生体に不利益な症状」であります。
食物アレルギーを診断する上では、多くの医療機関がその原因食物の血液検査であるIgE(アレルギー項目の検査)を行っています。しかし、食物アレルギーはこの定義の通りにアレルゲン摂取後に症状が初めて現れて診断することが重要であり、この血液検査によるIgEの検査結果だけの診断は適切ではありません。
食物アレルギーにおける鶏卵アレルギーの割合
5歳以下では、食物アレルギーの原因食物が鶏卵である割合は最も多いです。0歳では、原因食物は鶏卵(62%)、牛乳(20%)、小麦(7%)であります。この3大原因食物の割合は0歳では89%、1歳では68%、2歳では50%と減少しております。また、鶏卵のみでは0歳では62%、1歳では45%、2~3歳では30%、4~6歳では23%と減少傾向にあります。これは、鶏卵アレルギーに関しては専門医のもとで、アトピー性皮膚炎・適切な経口摂取管理を適切に行えば、食べてもアレルギー症状を発症しない状態である「耐性獲得」が可能であることを示唆しています。
食物アレルギーとアトピー性皮膚炎の関連
食物アレルギーとアトピー性皮膚炎は別の疾患と考えられています。乳幼児では両方を発症している人が多いです。0歳児ではアトピー性皮膚炎と食物アレルギーを合併している割合は約50%でありますが、3歳になるとアトピー性皮膚炎と食物アレルギーを合併する割合は減少して、小学校入学時には数%程度になります。
以前では、原因となりうる「卵・牛乳・小麦・大豆はすべて除去」という厳密な指導が行われておりました。近年では、湿疹や乾燥によってバリア機能が低下したアトピー性皮膚炎の皮膚から、食物のアレルゲンが皮膚を通し感作(アレルゲンが体内に入ってきた時に身体がそれを記憶し、次に体内へ侵入してきた時に攻撃できるよう準備しておく働き)が成立して、食物アレルギーを発症すると考えられております。また、スキンケアを新生児期から丁寧に継続した症例では、乳幼児期に約30%程度で食物アレルギー発症が減少した報告があります。このため、食物アレルギーを予防するためには適切なスキンケアによる皮膚症状のコントロールが重要とされています。皮膚症状が改善されても食物によるアレルギーの症状が改善しなければ、初めて食物アレルギーを疑います。
鶏卵アレルギーの原因タンパク質
卵アレルギーの症状を引き起こすたんぱく質として、オボアルブミン・オボムコイドなどがあります。前者は加熱によりアレルゲン活性(アレルギーを起こす)は低下しますが、後者のオボムコイドは加熱・消化酵素の影響を受けにくいです。
ごく少量で反応する場合を除けば、卵黄にはアレルゲン活性はなく安全に摂取できると考えられています。その一方、卵白には卵アレルギーの主要なアレルゲンとなるオボアルブミン、オボムコイドなどが含まれています。特にオボムコイドはアレルギー活性が高いため、加熱してもその性質が変わりません。
この、オボアルブミン・オボムコイドのIgE抗体は血液検査で測定可能です。血液検査ではそのレベルを0~6で判断します。抗体値が高いほど、レベルは高くなります(最高でレベル6です)。
実際に加熱卵を摂取させた場合、オボムコイドに対するIgE抗体がクラス4以上の患者の95%が反応を示しましたが、クラス1以下の患者では卵白のIgE抗体の陽性・陰性に関わらず95%が陰性を示したと報告されております。つまり卵白にアレルギーを持つ人でも、オボムコイドに対してのIgE抗体が陰性(=アレルギーを持っていない)であれば、加熱加工した卵製品(ゆでたまご・卵焼き)を摂取できる可能性が高いと考えられ、除去解除計画の目安となります。
鶏卵(卵白)の含まれる量と除去解除
食物アレルギーにおいては原因食物であっても「食べられる範囲」まで摂取を行う必要最低限の除去指導が重要です。鶏卵(卵白)の摂取量の目安を記載します。
卵白2g以下
- 卵ボーロ:1袋につき卵白0.4~0.5g
卵白2g相当
- クッキー1枚、ビスケット1枚
- 練り物(かまぼこ2-3切れ、ちくわ1本)
- ハム1枚、ウインナー1本
卵白5g相当:全卵8分の1
- ウズラ卵1個
- コロッケ1個
- 中華めん1玉
- から揚げ3個
卵白10g相当:全卵4分の1
- とんかつ1枚
- ホットケーキ1枚
- ドーナッツ1個
- ハンバーグ1個
卵白20g相当:全卵2分の1
- カステラ1切れ
- バウムクーヘン1/2個
- ショートケーキ1カット
卵白40g相当:全卵1個
- 加熱料理:卵焼き、オムレツ、目玉焼き
- 低加熱料理:茶わん蒸し、プリン、マヨネーズ
鶏卵を除去している場合には、タンパク質を補うために、鶏肉のささみ・白身魚・豆腐・シラスなどの代替をおすすめします。
あくまでも1例ですが、安全に摂取できる卵白相当量を担当医師と相談して決定します。まずは離乳食などに卵ボーロを数個溶かします。卵ボーロの増量を経てクッキー・ビスケットの摂取を試みます。次に練り物、中華めん・ハンバーグのつなぎ、ケーキ類を経てから加熱料理、最後に低加熱料理へ進む方法が一つの目安です。例えば、ドーナッツ1個食べてもアレルギー症状がなければ、10グラム相当は問題ないと考えられます。
この増量は研究段階ですが、1~2週間程度で10~20%程度が目安であり、長期的計画のもと行います(あくまで目安とされています)。体調不良時には摂取は行わず、原因食物摂取により発疹などの症状が出現したら1~2日あけて再開するのが目安です。症状が強く出た場合には、あらかじめ処方された抗アレルギー薬を内服させて、担当医師に相談することをおすすめします。
治療のゴールは、卵1つを摂取しても症状が発現せず、除去不要となることです。
卵の場合には除去は3~6か月程度です。除去指導をしてそのまま1~2年除去を継続するようなことは、現在では通常行いません。
鶏卵アレルギーに関連する知識
- 卵殻カルシウムという紛らわしい食品成分があります。これはラムネなどに記載がありますが、鶏卵(卵白)とは関係なく摂取は可能です。
- 授乳中では、母の卵摂取の制限は原則ありません(生卵は避けてください)。予防接種(インフルエンザ・MRワクチン)は原則として接種可能です。
国産のワクチンに含まれている卵白タンパク質は、卵ボーロ1個以下の量であります。
まとめ
食物アレルギーは、皮膚のバリアが低下したアトピー性皮膚炎との関連が示唆され、スキンケアが重要です。鶏卵アレルギーの原因タンパク質の一つにオボムコイドがあり、その抗体価により加熱製品摂取の目安がある程度判断できます。
また、鶏卵アレルギーは必要最低限の除去から始めること、専門医師の管理のもとに摂取量を適切に増やすことにより、鶏卵1個(40g相当)を摂取可能な状態(耐性獲得)が期待されます。