日本国民の2割がアトピー性皮膚炎、食物アレルギー、気管支喘息などのアレルギー性疾患を持ち通院しています。このうちアトピー性皮膚炎は小児期でも患者数は増加傾向です。現在、ステロイド外用薬は最も有効な外用薬であり、正しい知識と外用方法を行うことが重要です。さらに、スキンケア(保湿)・悪化因子の予防も重要です。

治療のゴールは、外用薬を使わずにスキンケアのみでかゆみのない日常生活を送ることです。

目次

ライフスタイルの変化とアトピー性皮膚炎

20世紀の後半から、諸外国においてアトピー性皮膚炎の患者数は増加しており、英国ではこどものアトピー性皮膚炎の有病率は約30%というデータがあります。日本においても、また新興国においてもアトピー性皮膚炎の患者数は増加傾向であります。

その要因の一つとして、肉類や油の消費の増加という食生活の変化が考えられております。その他の原因としては、汚れ・汗、ストレス、ダニ・ホコリ、この他にも「夜型」生活へのシフト(自律神経の変調)など、現代での生活スタイルの変化も考えられております。

アトピー性皮膚炎の皮膚~普通の皮膚との違い~

頬杖をつく女性-写真

人の皮膚は、熱や痛みを感じる知覚、発汗などの体温調節機能のほか、さまざまな刺激・細菌などが入らない「バリア機能」があります。皮膚の最も外側にある「角層」が、このバリア機能の役になります。

アトピー性皮膚炎の患者の皮膚は、このバリア機能が低下しており、外側からは、細菌・ダニなどの刺激が入りやすく、皮膚の奥にも炎症を起こします。また、バリア機能の低下が、かゆみをより感じやすくさせます。「かゆさ」のため、さらに皮膚をかいて、バリア機能がより悪化するという悪循環になっているのです。

アトピー性皮膚炎の治療~3つの柱~

アトピー性皮膚炎の治療と聞くと、多くの方は「ステロイド外用薬=薬物治療」と頭の中に浮かぶと思います。この薬物療法(外用)は治療において大きな柱となりますが、その他にも「スキンケア」「悪化因子への対策」が重要です。この3つの柱にバランスよく取り組んでいきましょう。ゴールとしては、保湿剤のみの使用で、皮膚の湿疹やかゆさのない日常生活を送ることです。その他、スキンケア、悪化因子への対策も重要であります。

薬物療法~臨時の防波堤としての役割~

アトピー性皮膚炎の治療のうち「薬物療法」は重要な要素であります。適切な外用薬の強さや塗る量・方法をしっかり理解して実践する日々の習慣が、治療継続の上では必要です。

アトピー性皮膚炎の方の皮膚は、前述のバリア機能という「堤防」が決壊した状態とであり、外用薬はこの堤防を立て直すという「臨時的な対応」と考えてください。

その際に、一般的には皆さまがよくご存じのステロイドの外用薬、2歳以上であれば免疫抑制剤であるタクロリムス軟膏が使用されます。

ステロイド外用薬はその効きの強さで5つのランク(が強く・Ⅱ・Ⅲ・Ⅳ・Ⅴの順に弱くなる)に分けられています。症状の出ている皮膚の部分、症状の強さ(皮膚の状態)、年齢により、外用薬の使い分けを行います。例えば子どもの場合、同じ湿疹に対しても、顔にはⅣ群、体・手足にはⅢ群から始めます。その理由としては外用薬の吸収率の違いが挙げられます。顔と比べるとお腹や背中では顔の10分の1、手足は40~50分の1くらいの吸収率です。

外用薬を塗る量の調節も重要です。「1FTU(ワン・フィンガー・チップ・ユニット)」が目安です。成人の人差し指から第1関節まで軟膏・クリーム剤を載せた量を、大人の手のひら2枚分の面積に塗ってください。

1FTU-ワン・フィンガー・チップ・ユニット-図解

外用の間隔は、初期は1日2回程度ですが、症状が安定してきたら、1日1回、2日に1回などに減らし、次第に保湿剤に移行していくことがポイントです。この方法を「間欠塗布」といいます。皮膚がきれいになっても、皮膚の下にはまだ炎症がありますので、ステロイドの外用の方法は医師の指示に従ってください。

スキンケアのABC

スキンケア-写真

アトピー性皮膚炎では、薬物療法と同様に、適切なスキンケアが治療や症状増悪の予防には重要であります。前述のように、水分保持能の低下を防ぐこと、かゆくなりやすい・細菌の感染がしやすい状況を予防することが目的です。

皮膚の清潔を保つために…

  1. 汗や汚れにはシャワーを使用してください。
  2. タオルなどで強くこすらないでください。
  3. かゆみを生じるので40度以下の温度を推奨します。
  4. 入浴で刺激となる沐浴剤、入浴剤を避けてください。

 

肌の適切な洗い方

石鹸は泡立ててホイップクリーム状になるまで泡をたて、素手で洗ってください。目の周り、わきの下、耳の後ろ、足の裏は忘れがちです。

また、入浴後は、軟らかいバスタオルで水滴を押さえるように(こすらない)水分を拭き取ってください。

その他に気を付けることとして以下のようなものがあります。

  1. 室内を清潔にし、湿度を保ってください。
  2. 新しい肌着は使用前に水洗いしてください。
  3. 洗剤は界面活性剤の含有量の少ないものを使用してください。
  4. 爪を短く切り、かかないようにしてください。

悪化因子への対策

薬物療法、スキンケアと並んで重要であり、生活の環境や習慣を整えて腸内の細菌バランスを整えることが重要です。前述したように、生活が文明化することにより食生活も欧米化しました。カロリー摂取量の増加、肉・油・砂糖摂取の増加により腸内に「悪玉菌」が増加したことが、アトピー性皮膚炎の患者増加に関与していると示唆されております。和食中心の食生活で腸内細菌のバランスを取ることも重要です。

また、布団・ソファー・カーペットで増加するカビ・ダニ・動物の毛などの刺激を避けるため、こまめな洗濯・掃除も重要です。

近年では、多くの人が夜型の生活にシフトしております。そのため、睡眠不足により自律神経がアンバランスになり、自然治癒力も低下しております。

ステロイドは睡眠時間の後半から朝にかけて体内に分泌されます。また、成長ホルモンもこの時間に分泌されています。これらのホルモンには傷ついた皮膚を修復する作用もあります。そのため、「早寝早起き」の昔ながらの習慣を行うことも、治療の一環として重要であります。

まとめ

アトピー性皮膚炎は、近年は増加傾向であります。ステロイドの外用による薬物治療のみではなく、適切なスキンケアと生活習慣と環境の見直しも重要です。最終的には、外用薬を使用しなくても、保湿剤外用のみでかゆみがない日常生活を送ることが可能であります。