食物アレルギーの原因や症状は多彩です。乳幼児期では鶏卵・小麦・牛乳が主な原因とされていますが、その約半数はアトピー性皮膚炎を伴った形で発症しています。ここでは、乳幼児期の食物アレルギーではスキンケアをはじめとしたアトピー性皮膚炎の治療を適切に行うこと、また少量ずつの加工品の摂取などの管理で症状が軽快する可能性があることを紹介します。

目次

食物アレルギーの定義と分類

 食物アレルギーのメカニズム-図解

食物アレルギーは、原因や発症のメカニズム・症状は多彩です。以前では原因となる食物を食べることによる症状と定義されていました。しかし、2010年にアメリカで発表された概念では、食物の生体への経路は限定しないと変更されました。つまり、食物が皮膚を通して体内に取り込まれて症状が起きることも、その概念に含まれます。

また、日本では「茶のしずく」の石鹸により、皮膚からの小麦の抗原が侵入して成人女性に小麦アレルギーが発症した報告が多数ありました。このことから、2012年のガイドラインでは「食物によって引き起こされる生体に不利益な反応」と、食物アレルギーの定義が変更されました。

食物により引き起こされる人体に不利益な症状は、毒性の物質により「全ての人」に起こる現象と、「特定の人」に起こる現象に大別されます。後者の「特定の人」に起こるものには、アレルギーのほかに食物に含まれる物質そのものによる作用(たとえば青魚に含まれるヒスタミンによる蕁麻疹)、乳糖を体質的に分解できずに下痢が続く乳糖不耐症などなども含まれます(これらは食物アレルギーの分類とは異なります)。

食物アレルギーの発症は、感作の成立と症状の発症から成り立ちます。感作とは、食物に含まれる抗原が、体内に侵入して敏感に反応しやすい状態となることです。この状態で原因の食物を摂取した場合には、後述の皮膚や呼吸状態の悪化などのアレルギー症状が発症します。

食物アレルギーとアトピー性皮膚炎の関連

食物アレルギーとアトピー性皮膚炎は別の病気でありますが、乳幼児では合併することが多いです。割合でいうと、食物アレルギーを有する0歳児ではその50%程度がアトピー性皮膚炎を合併しております。1990年代には、アトピー性皮膚炎の患者を診療すると一律にその原因となりうる「卵、牛乳、小麦、大豆はすべて除去してください」と指導した医療機関がありましたが、現在ではむしろ少量ずつ摂取し増量をしながら、アトピー性皮膚炎の治療を並行して行います。

湿疹や乾燥によってバリア機能が低下したアトピー性皮膚炎の湿疹の皮膚から、皮膚を通し感作が成立して食物アレルギーを発症する、という考えが近年では提唱されております。

バリア機能が低下した皮膚では、通常では通り抜けることのない大きな物質も通り抜けてしまうため、アレルギーを発症しやすい傾向があります。最近では、スキンケアを新生児期から丁寧に継続した症例では、乳幼児期の食物アレルギー発症が約30%程度減少したとの報告があります。食物アレルギーを予防するためには、炎症の治療や保湿などのスキンケアを継続して、皮膚のバリア機能を改善させることが重要であります。

食物アレルギーの症状~2つのピーク~

スプーンで食事をする赤ちゃん-写真
食物アレルギーの症状には、食物摂取後に2時間以内(多くは15分以内)に症状が発現する「即時型」と、症状発現に2時間以上かかる「非即時型」に分けられます。即時型はアナフィラキシーに代表される下記の全身症状がみられます。

皮膚症状

最も頻度が高い症状であり、かゆみを伴う、「みみずばれ」のような発疹がみられます。じんましん様の発疹となります。

消化器症状

原因食物摂取後に、数分から2時間以内悪心、嘔吐、腹痛、水様性下痢を起こします。乳児ではこれを繰り返し、慢性的な下痢で体重増加不良となる場合もあります。

呼吸症状

鼻づまり、くしゃみから始まります。進行すると、が止まらない、声がかれる、喘鳴など呼吸困難を引き起こし生命にかかわることがあり、緊急性が高い状態です。

眼症状

目のかゆみ、結膜充血、涙が止まらないなど、アレルギー性結膜炎と同じ症状が2時間以内に起こります。

呼吸症状が進行すると、意識消失・不整脈などから重症化して死亡するケースもあります。呼吸困難の症状である咳が止まらない、声がかれる、喘鳴、意識低下、顔色不良があれば、速やかに救急車を呼んで治療を受けてください。

一方、非即時型では皮膚症状がほとんどであります。食物摂取後2時間を経過して発症するために覆面型アレルギーとしての症状を起こします。毎日摂取する食事により、割と細かい発疹が出現するケースがこれにあたります。この場合には原因食物を明確にすることは難しく、持続的かつ反復性であることが特徴です。

食物アレルギーの原因となる食物

0歳から3歳までの原因食物における割合は、鶏卵(60%)、牛乳(20%)、小麦(7%であり3大原因食物とされております。これら3つの食物アレルギーの全体に占める割合は、0歳では89%、1歳では68%、2歳では50%と減少しております。これは、専門医のもとで、アトピー性皮膚炎・経口摂取を適切に行えば、食べてもアレルギー症状を発症しない「耐性」を獲得することが可能であることが示唆されております。近年では、3歳以下ではイクラによるアナフィラキシーが増加しており、生ものを乳児早期から与える現代の風潮も反映していると考えられます

一方で、年長児では甲殻類(えび、かに)、果物、そばの発症が多くなっております。

食物除去の考え方

食物除去は、現在では食物アレルギー症状誘発の原因となる食物抗原を含む食品の除去です。またその除去は必要最低限にして、症状を起こさずに「食べること」が目的であります。食物アレルギーを引き起こす食物の問診は重要であり、必要に応じて原因食物と発症を起こしうる量を確認するために、食物負荷試験(除去していた食物を食べて、症状を観察する試験)を行う場合もあります。

次第に軽快が予測される鶏卵・牛乳・小麦では、前述のアナフィラキシー症状(即時型反応)を起こさない範囲で、ごく少量から食べさせる方法もあります。その例として、鶏卵では、離乳食に1日1回からたまごボーロ1粒を混ぜて、1週間ごとに増量していく方法などがあります。この方法は、研究段階でありますが専門医師の管理のもと、長期的に行われます。症状が軽快して除去不要となることが治療のゴールです。

まとめ

食物アレルギーは経口摂取のみならず、皮膚のバリアが低下するアトピー性皮膚炎により皮膚から感作が成立して発症する可能性も示唆されています。食物アレルギーによる明らかな症状を認めた場合、まずは半数にアトピー性皮膚炎の合併があるのでその治療を行います。乳幼児の鶏卵・牛乳・小麦の三大原因食物である場合には、適切な管理のもと少量ずつ摂取することにより、アレルギー症状が軽快する可能性があります。