PE(Premature ejaculation)は日本語で早漏症のことで、射精までにかかる時間が短いことを指します。
前回の記事「医師が解説!早漏症(PE)はどのような症状があると診断されるの?」でPEの診断基準について説明したので、ここで細かいことは説明しません。

ポイントとしては射精までにかかる時間が短いことが原因で悩んだり、パートナーとの関係がうまくいかなかったりするケースは基本的には何らかの治療を考えた方がいいということです。

今回はPEの治療法について説明しようと思います。

目次

PEの治療法にはどんなものがある?

PEの治療法は保存的治療内科的治療、そして外科的治療の3種類に分けられます。
ではそれぞれについて説明していきましょう。

保存的治療

保存的というと意味がよく分かりませんが、要するに薬や手術などの医療行為をしない治療法のことです。

具体的には以下のような治療法です。

心理療法

カウンセリングなどでPEによる精神的苦痛を軽減させることは重要です。薬を使った治療に比べると時間とコストがかかり効果も薄いのであまり重視されていませんが、あらゆる治療に組み合わせられるという意味でPE治療の大黒柱と言っていいかもしれません。

特に客観的にはそれほど症状が重いわけではないのに本人が過剰に気にしているような主観的なPEには有効です。
また、PEを発症させた明らかな心的トラウマがあるような場合も極めて有効です。

行動療法

以下のような行動をとることでPEが改善するという考え方があります。

(1)性行為の前のマスターベーション

性行為前にマスターベーションをすることはPEの症状を改善させるという話は広く信じられています。しかしながら実際にはデータがあまりないため有効性については不明です。

(2)ストップスタート法

性行為中にあえて行為を中断することで興奮を鎮めてから再開するストップ・スタート法も聞いたことがあるかもしれません。

(3)スクイーズ法

これは性行為中で射精に至りそうになったら亀頭を強く握ることでPEを改善させるというものです。

(4)複数のコンドーム

同時に複数枚のコンドームを使用することで感度を低下させてPEを改善させるという方法です。

(1)~(4)の方法は単独でというよりは服薬などの方法と併用することでPEを改善させる可能性があると考えられていますが、データは少ないので今後のデータ蓄積が待たれます。

内科的治療

薬-写真

薬による治療としては内服薬と塗り薬があります。

内服薬

(1)抗うつ薬

うつ病の治療に使う抗うつ薬には射精に関わる交感神経(緊張するときに働く神経)の過剰な興奮を抑えることでPEを改善する効果があります。

三環系抗うつ薬とSSRIという種類の薬にはPE改善作用があることが知られています。

しかし、三環系抗うつ薬は吐き気、口の渇き、顔面紅潮、EDなどの副作用が強く出るため使いにくいです。

SSRIはセロトニン再取り込み阻害薬といわれ、セロトニンという神経伝達物質の量を増やす薬です。

PEはセロトニン不足により交感神経が強く働くことで起きていることも多いためセロトニンを増やすことで症状が改善するわけです。

またSSRIは三環系抗うつ薬と比べると副作用が少ないという特徴があるためPEの治療に使用しやすい薬です。

SSRIにはパロキセチン、フルオキセチン、セルトラリンなどがありますが、射精までにかかる時間をフルオキセチンとセルトラリンは約5倍、パロキセチンに至っては約10倍に延長する効果があると言われています。

高い効果が期待できるSSRIですが弱点もあります。実は飲み始めてから効果が出るまでに5時間はかかることと、半減期が長いため体からなかなか抜けないという点です。

そして性行為の前だけに飲むいわゆる頓服という飲み方では有効率も非常に低いということも使い勝手を悪くしています。

ある程度の有効率を求めるためには毎日内服を続けていく必要があります。副作用が少な目とはいえ不定期に行う性行為のためだけに抗うつ薬を毎日飲み続けるというのはあまりお勧めできません。

ただし、毎日のように性行為をするという方にとっては使い勝手がいいのかもしれません。

また、SSRIには不眠、不安、性欲減退、EDに加えて射精障害の副作用がでることも知られています。

(2)ダポキセチン

ダポキセチンは薬の系統としては短時間作用型SSRIになりますが、PE治療薬として多くの国で認可を受けているものです。
残念ながら日本では認可されていないため、使用する場合は海外から輸入する必要があります。

ダポキセチンが抗うつ薬としてのSSRIと何が違うかといいますと、非常に効き目が早く性行為の前の内服だけでPE改善効果が得られるという点です。
有効率は約70%で毎日飲む必要はありません。
具体的には性行為の1時間前にダポキセチンを飲むと、有効であった場合には射精までにかかる時間を3倍程度延長することができます。

副作用は吐き気、下痢、頭痛などがありますがあまり強いものは出ないことが多いです。
そしてバイアグラなどのED治療薬との併用も可能なのでEDの症状も同時に持っている人にすると使いやい薬と言えます。
現時点では有効率、効果、使用しやすさを考えるとダポキセチンはベストな選択肢と言えるでしょう。

(3)ED治療薬

バイアグラなどのED治療薬を使用するとEDが改善するだけでなくPEも改善することがあります。
EDがあると3割くらいの人にはPEの症状も出てきます。
これは勃起を維持するために過剰な刺激を与え、その結果として早く射精に至るためと考えられています。
このようなケースではEDを改善すれば結果としてPEも改善するわけです。
しかし、EDが原因ではないPEの場合はED治療薬単独ではあまり効果を期待できないようです。

(4)トラマドール

トラマドールはオピオイド系の鎮痛剤です。分かりやすく言うと医療用麻薬のようなものです。
がんの痛みを取ったり、慢性的な疼痛を抑えたりするために使われることが普通です。

しかし、トラマドールにもPE改善効果があることがしられています。
有効だった場合には射精までにかかる時間を4~7倍程度延長させることができるようです。
日本でも処方は可能なのですが麻薬に準じた扱いの薬であるため依存性などの問題もありPE治療で処方されることはまずないでしょう。

塗り薬

リドカインプリロカインなどの局所麻酔薬を含んだクリームなどを使用することでPEが改善することが報告されています。
要するに亀頭部分に歯科治療などで使用するような局所麻酔薬を塗ることで感覚を低下させることでPEを治療するということです。
性行為の20~30分前に使用すれば射精までにかかる時間を4~6倍延長できます。

問題点としては自分のペニスが無感覚になるためPEは改善しても性行為の質が低下するということです。また、コンドームを使用しないとパートナーの性器にも麻酔がかかり感覚がなくなってしまうことです。

内服薬との併用も可能なので、より強力にPE治療を行いたいときには非常に役立つ薬と言えます。
日本ではエムラクリームという名前で販売されていますが、PE治療は適応症ではありません。適応外処方という形で処方は可能ですが、取り扱い医療機関は限られます。

外科的治療

手術用具-写真

PE治療には基本的に外科的治療は推奨されていません。なぜなら医学論文などで明確な根拠として有効性を示せていないためです。

いくつかの外科的治療を紹介しますがお勧めはしません。

(1)包茎手術

いろいろなクリニックで包茎手術をすればPEが改善するようなことを宣伝していますが医学的根拠がありませんし推奨されていません

高額かつ体に負担がかかるうえ効果が期待できないというのであれば基本的には選択肢には入らないでしょう。

しかし、PEと関係なく包茎にコンプレックスを持っていて治したいという場合には病院を選んで治療を受けるのは構わないと思います。

(2)ヒアルロン酸、ボトックス

包茎手術以外にもヒアルロン酸を亀頭に注入したりボトックスを注入したりする方法も報告としてあります。

有効だという報告もあるようですが、まだ検討が必要な実験的治療の要素が大きいため現状では積極的におこなうものではないと思います

(3)鍼(はり)治療

鍼治療が有効だったという報告もあるようですがこれもまたデータの蓄積がないため本当に効果があるのかは不明です。

まとめ

PE治療にはカウンセリングなどの保存的治療、薬による内科的治療が推奨されます。包茎手術などの外科的治療は医学的根拠が不足しているため推奨されません
実際はカウンセリングなどを基本に薬による治療を行っていくのが現状ではベストな選択肢と言えます。

しかし、日本ではPEを適応症とする薬は認可されていないため輸入薬品や適応外処方などが必要になります。
このような医薬品の取り扱いやPEに関する知識が豊富な医療機関はとても少ないのも問題です。
PEはED(勃起不全)同様に男性にとってストレスになりやすく人間関係にも強く影響する病気であるため、もっとPEに対する理解を医療従事者自体が深めていく必要があるでしょう。

また、PE治療薬が日本でも認可されれば(残念ながらそのような話はありませんが…)治療を受けられる環境も良くなると思います。
いずれにしろ、数は限られますがPE治療を受けられる医療機関はありますので、悩んでいたらまずは相談してみると良いでしょう