強皮症という病気は人間の外側の皮膚だけでなく、内臓の組織まで症状がおよぶ病気です。解明されていないことも多く、難病に指定されています(病気については「皮膚や内臓が硬くなる:強皮症ってどんな病気?」をご覧ください。)症状も外側から内側まで、非常にさまざまです。何を基準として診断されているのか、どういった治療がされているのかを説明していきます。

目次

診断基準は皮膚が硬くなることだけ?

診断基準、というものがあります。これはあくまでも典型的なものを見つけ出すために使われるもので、全ての患者さんに当てはまるものではありません。とはいえ90%以上にあてはまるもの(全身性強皮症診療ガイドライン(PDF))とされています。

基準は皮膚の硬化だけに限りません。診断基準を応用することで、完全に当てはまらない人に対しての診断、治療にも繫げていきます。現在は厚労省研究班が2003年に改訂した基準や、米国リウマチ学会の分類基準が使われています。

診断基準その1:厚労省研究班の診断基準(2003)

大基準(これを満たすと、すぐに診断)

手の指もしくは足の指を越える皮膚硬化がある。

小基準(aと、b~dのひとつ以上が当てはまると診断)

a:手の指もしくは足の指だけの皮膚硬化がある。

b:手指尖端の陥凹性瘢痕、あるいは指腹の萎縮がある。

c:両側性肺基底部の線維症がある。

d:抗トポイソメラーゼI(Scl-70)抗体または抗セントロメア抗体が陽性である。

診断基準その2:米国リウマチ学会の基準(2013)

次の項目の合計9点以上を全身性強皮症と診断します。

■両手の指のMCP関節(手のひらと指の付け根の関節)を超えて皮膚の硬化がある(9点)

■手指の皮膚硬化:次のうち、高得点の方のみをカウントする。

  1. 腫れれぼったい指(2点)
  2. 第一関節から付け根の関節までの皮膚硬化(4点)

■指先の病変:次のうち、高得点の方のみをカウントする。

  1. 指先に潰瘍がある(2点)
  2. 指先に陥凹した瘢痕がある(3点)

■毛細血管の拡張がある(2点)

■爪の周りの皮膚に毛細血管異常がある(2点)

■肺動脈性肺高血圧症や間質性肺疾患がある(2点)

■レイノー現象がある(3点)

■以下の抗核抗体検査が陽性になる(3点)

(抗セントロメア抗体、抗トポイソメラーゼI(Scl70)抗体、抗RNAポリメラーゼIII抗体)

 

どちらの基準でも、手の指・足の指以外の部位(より心臓に近い部位)の皮膚が硬くなってしまっている場合、すぐに強皮症であると診断されます。皮膚が硬くなっている箇所が手の指・足の指に限られている場合、その他の症状と併せて総合的に判断します。

治療は症状に応じて選びます

薬-写真

症状が様々、ということは治療も様々、ということです。残念ながら、現在では強皮症の進行を止めたり、完治させる治療はありません。ただ、必ずしも進行しないこと、自然に良くなることもあるということが分かってきました。治療は症状に応じて、薬物治療が主となります。ガイドラインには、軽症で治療必要としない場合から、治療をする場合はどの状態で何を選択するかまで、とても細かいフローチャートがあります。

血管拡張剤

レイノー現象の防止や、手足の先(末梢)の循環を良くするために使います。

副腎皮質ホルモン

ステロイドのことです。ほかの膠原病と同様、強皮症でも使われることがあります。炎症の強い症状が出ている場合や、比較的早期の皮膚硬化に対する治療に有効とされています。

シクロホスファミド

免疫抑制剤のひとつです。肺繊維症皮膚硬化に有効であることが分かっています。

エンドセリン受容体拮抗剤、ホスホジエステラーゼ5阻害薬

血管拡張作用のある薬ですが、特に肺の血管に対しての効果が強く、肺高血圧症の治療として使われます。

ACE(アンジオテンシン変換酵素)阻害剤

腎クリーゼによる高血圧の治療に使います。アンジオテンシン2という物質が増えると血圧があがります。この薬はアンジオテンシン2を作る酵素の働きを防止する作用があります。腎クリーゼに対しては特効薬ともいえる働きをします。

プロトンポンプ阻害剤

逆流性食道炎の治療に使用します。胃酸の分泌を抑える薬です。

その他の薬剤

関節痛には痛み止め、皮膚の潰瘍で感染があれば抗生物質、などが使われます。

こんなことに気を付けて!日常生活の注意点

ほとんどの患者さんでは日常生活を送ることに問題はありません。しかし、強皮症と上手にお付き合いし病気を悪化させないために、必要な注意点がいくつかあります。

血流を悪くさせない

手足の保温、エアコンなどによる急激な温度変化に気を付けます。喫煙習慣のある人は、頑張って禁煙する必要があります。血流が悪くなると、傷が治りにくくなったり、潰瘍ができやすくなるのです。

無理な運動は避ける

免疫が関連する病気なので、疲れすぎたり、負担が大きすぎる運動は、身体によくないことがあります。激しい運動をするときは主治医に相談する必要があります

症状に応じて身体の負担を減らす

肺の症状がある人は、エレベーターやエスカレーターを使用したり、長時間の歩行を避けるなど、肺に負担かからないようにします。消化器の症状がある人は、一度に沢山食べたり、早食いをしないようにしましょう。関節の動きが悪くなっている人は、無理のない範囲で毎日少しずつ動かすリハビリをします。どのような症状があっても、「自分に優しく」することが大切です。

まとめ

「一問一答」ではないですが、患者さんひとりひとりの症状それぞれに対して、ひとつひとつ治療を考えていくというのが、難病ではよくある治療です。強皮症も例外ではありません。小さな変化が大きな症状につながることもあるので、何か気になることがあれば、どんに小さなことでも主治医に相談しましょう。