子供がノロウイルス・ロタウイルスなど冬季に流行する感冒性胃腸炎にかかってしまい、嘔吐・下痢が頻繁に起こると、脱水症状が心配ですよね。時に、命にもかかわることもあります。ここでは、本年冬に公開される『小児急性胃腸炎診療ガイドライン2016』に基づき、水分・電解質を速やかに補う経口補水療法や食事摂取に関してみていきます。

目次

小児急性胃腸炎診療ガイドラインと経口補水液

これまで、日本では小児の急性胃腸炎の診療に関連するガイドラインは存在していませんでした。冬季に流行するウイルス性胃腸炎の症状である嘔吐・下痢が進行した場合、脱水症状を予防する治療・生活指導には様々なものがあります。実際、嘔吐が続く小児に対しては「水分を取らせてはいけない」という流れがあります。

近年では、水分・電解質を速やかに補う経口補水療法(ORT :oral rehydration therapy)の概念が提起され、薬局や医療機関においても、OS-1(液)が販売・流通されています。しかし、その適切な使用法に関しての指導は行われていませんでした。また、胃腸炎症状後(回復期)にはリンゴジュースを希釈した果汁のジュース・糖分が含まれている甘いお茶・コーヒーミルクなどが有用であるという慣習もみられました。しかし、医学的にみるとこれはあまり適切ではありません。

こうした状況から、日本小児救急医学会は『小児急性胃腸炎診療ガイドライン2016』を公開し、脱水予防のための早期の経口補水療法に関しての概念を導入しました。また、胃腸炎症状後の食事摂取に関しても言及していています。

経口補水液の特徴と種類

経口補水液は、ナトリウムなどの電解質・糖分などで構成されており、280mOsm/L未満と体液よりも浸透圧が低い(濃度が低い)です。このため少量でもよく体内に吸収され、しっかりと水分・電解質の補充ができます。

欧米のガイドラインでは、尿量が少ない、顔色が悪い、四肢冷たいなどの中等度の脱水に対して経口補水液の導入が標準治療として行われています。その理由としては、中等症の急性胃腸炎での脱水症に対して、経口補水液の対応と点滴による輸液の対応とで合併症の発症には明らかな差はみられなかったからです。

以下に国内で販売されている代表的な経口補水液とその成分を記載します。このように、塩分(ナトリウム)が35 mEq/L以上含まれています。

経口補水液の特徴と種類-図解

経口補水液導入の理由と、その投与方法

ボトルを持つ赤ちゃん-写真
諸外国のガイドラインで推奨されている経口補水液では、電解質・特にナトリウムの補充が重要です。その理由としては、水分の摂取のみであると水中毒(低ナトリウム血症)がみられ全身状態が悪化する可能性があるからです。

経口補水液ではナトリウム濃度としては40mEq/L以上のものと塩分が多く含まれているものがおすすめです。スポーツドリンクなどの清涼飲料水はこのミネラル(ナトリウム)の含量はすくなく甘みが強いために経口補水療法に用いられる飲料としては適切ではないと考えられています。

 

実際のあげ方ですが、嘔吐の勢いが多少あっても、少量ずつ投与することが推奨されます。具体的には、ペットボトルのキャップ1杯、ティースプーン(小さじ)1杯で5mL=1回分の分量を5分おきに投与します。嘔吐が落ち着いて飲めるようになったら、投与間隔を短くして、倍量(10mL→20mL)などと増量をしていきます。

経口補水液は塩分(ミネラル)が濃く糖分が低いため、味がおいしくなく抵抗するお子さんがいます。この場合には、経口補水液を凍らせてシャーベットにする、電子レンジなどで常温に温めるなどの工夫がよいかと思われます。投与するときには、むせこみ(誤嚥)を防ぐため、上体は30~45度上げてみると良いでしょう。

これらの経口補水液(ゼリーを含む)は薬局や医療機関内の自動販売機で取り扱いをしていますので、いざというときのために準備することをおすすめします。

経口補水液を飲まない場合(回復期の食事)

上記の方法においても経口補水液が飲めない場合には、明らかな脱水徴候がない場合には、野菜のスープ・味噌汁・塩分を含んだ重湯やお粥の少量摂取が推奨されます。症状が改善傾向である食事でも同様です。ここでのポイントも、やはり塩分(ナトリウム)の補充が重要です。

これまでの日本ではおかゆに梅干しや塩昆布を入れる、沖縄では黒砂糖に塩を入れるなどの食事を昔からしておりましたが、これらも経口補水液における治療のポイントの的を射た、昔ながらの食事方法であると考えられます。

避けるべき飲料

ガイドラインでは、炭酸飲料・市販の果汁ジュース・糖分が入っているお茶類・コーヒー成分は控えることを推奨しております。

市販の果汁ジュースや糖分が入っているお茶類では浸透圧が高いため、下痢が悪化する恐れがあります。また、コーヒー類などのカフェインは嘔吐を誘発します。

まとめ

小児急性胃腸炎診療ガイドライン2016の公開により、経口補水液は、水分や電解質を速やかに補充し脱水の治療・予防には有用であることが示唆されました。そのポイントは、

  1. 経口補水療法は、胃腸炎症状発症直後でも保護者が自宅で早期に導入しやすいケアであること
  2. ナトリウム(塩分)の補給が治療に重要視されたこと

の2点です。