HELLP症候群(へるぷしょうこうぐん)という病名をご存じでしょうか?妊娠高血圧症候群に合併して起こることの多い病気で、お母さん・赤ちゃんの両方に命の危険を伴います。特徴的な症状もないまま、静かに進行し、突然重篤な状態に陥る怖い病気です。
ここでは、HELLP症候群の症状や治療法などについてお話ししたいと思います。

目次

HELLP症候群とは?

溶血(Hemolysis)、肝酵素上昇(Elevated Liver enzyme)、血小板減少(Low Platelet)という3徴を呈する症候群で、頭文字を取ってHELLP症候群と呼ばれています。
妊娠中期~産褥期(産後6~8週間)に発症し、特に27週以降に発症することが多いです。

また、約80%に妊娠高血圧症候群の合併が認められ(産婦人科ガイドラインより)、経産婦さんや多胎妊娠(双子や三つ子以上の妊娠)に多いとされているため、該当する方は医師の指示に従い、定期的に健診を受けることが重要になります。

HELLP症候群の症状

HELLP症候群の症状は以下のようになります。

  • 食欲不振
  • 吐き気・嘔吐
  • 胃や上腹部(みぞおちあたり)の痛み、違和感
  • 倦怠感

以上のように、HELLP症候群の症状は妊娠中に起こりやすい症状や、風邪の症状に似ているため、見過ごされやすく、気づかないまま病状が悪化し、重篤な合併症が起こることによって命を落とすケースもあります。

HELLP症候群の合併症

HELLP症候群の合併症は、致死率の高いものが多く、産後に後遺症が残る場合もあります。

子癇発作(しかんほっさ)

子癇発作は、突然けいれんを起こし、意識を失います。急激に起こった高血圧によって脳の中の血液が増え、脳の中にむくみが起きて、けいれんを起こすと考えられています。
意識が戻る場合と、そのまま発作を繰り返し脳ヘルニアや脳出血などにより昏睡状態に陥る場合があり、赤ちゃんだけでなくお母さんの命も危なくなります。
妊娠中、分娩中、分娩後も起こる可能性があり、妊娠中・分娩中では胎児への酸素供給が減少するため、胎児が亡くなる可能性もあります。

子癇発作が起こる前兆として、高血圧と、目の前に星が飛ぶようなチカチカしたものが見えるという症状があります。前兆が見られた場合、室内を暗くして光や音などの刺激が少ない環境にする必要があります。少しの刺激が引き金となり、子癇発作へと繋がってしまいます。

常位胎盤早期剥離

胎盤は通常、赤ちゃんが産まれた後に子宮内から剥がれて出てきますが、常位胎盤早期剥離は、子宮の正常な位置に付いている胎盤が、赤ちゃんが生まれる前にはがれてしまう病気です。
胎盤が剥がれることにより、そこから出血を起こし、赤ちゃんへの酸素の供給が低下します。

お母さんは出血性ショック、DIC(血管内で血液がどんどん固まっていき内臓が機能しなくなる致死的な病気です)を併発する場合もあり、母子共に非常に危険です。即、帝王切開にて赤ちゃんを取り出す必要があります。常位胎盤早期剥離は症状として下腹部痛、不正出血、胎動の消失があります

DIC(播種性血管内凝固症候群)

体内の多くの細い血管内で血液が凝固し始め、脳や肺・腎臓などの機能が障害されるだけでなく、血液を固める物質が大量に消費され出血が止まらなくなる状態です。多臓器不全を起こし、出血多量で命を失うケースもあります。

以上のほか、脳内出血、急性腎不全や肺水腫、肝出血など、様々な臓器がダメージを受ける場合があり、HELLP症候群を発症した155例中2.6%の母体死亡が報告されています(日産婦誌62巻9号より)。
また、発見が遅れた場合、赤ちゃんへの影響も大きく、胎児の発育不全や状態によっては子宮内胎児死亡・新生児死亡に繋がるケースもあります。

HELLP症候群の治療法

HELLP症候群の女性-写真

HELLP症候群と診断された場合は、妊娠週数や母体・赤ちゃんの状態によっては経腟分娩できる場合もありますが、多くは帝王切開となる場合が多いです
急速に状態が悪化していく場合が多いため、帝王切開によって赤ちゃんを取り出し、速やかにお母さんの治療を行う必要があります。

まとめ

HELLP症候群は、早期の発見と治療が非常に重要な病気です。
特徴的な症状が乏しい病気ですが、特に妊娠高血圧症候群と診断された方は経過観察をしっかり行い、体調により一層気を配りましょう。

定期的な健診を受けることはもちろん、非常に稀な病気ですが、気になる症状が出た場合にはかかりつけの産婦人科を受診するようにすることが大切です。