高齢者の中毒事故が増えていますが、もしも中毒事故を発見したらどのように対処したら良いのでしょうか?いざというときに慌ててしまわないよう、知識を持っておくと安心です。ここでは、中毒事故の対処法・予防方法を解説します。誤飲の予防については「高齢者と暮らすご家族へ~身の回りに潜む「中毒事故」の危険~」で解説していますので、あわせてご覧ください。
有害物質を誤飲誤食!まずは原因物質の確認を
何を飲んだのか、何を吸ったのか、原因物質を確認することが大切です。医療機関を受診する際にとても重要な情報となります。
家族が中毒事故の場面を見ていなかった場合、高齢者のそばに置いてあった空き瓶や包装など、またにおいや液体の様子(色や泡立ちなど)から原因物質を推測することも求められます。残っている量から飲んだ量を予測することも重要です。受診の際には誤飲した物質の残り、薬剤なら説明書・添付文書・入っていた箱などを持参すると役立ちます。
毒性が強い物質
応急手当をしたうえで、医療機関での受診・治療が必要です。
- 園芸用殺虫剤
- 除草剤
- 漂白剤
- トイレ用洗剤
- 殺鼠剤
- ベンジン
- シンナー
- ガソリン
- 灯油
- 染毛剤
- マニュキア除光液
- パーマ液(第2剤)
- 防虫剤(しょうのう、ナフタリン)
- ボタン電池
- タバコ など
弱いけれど毒性がある物質
毒性はあるもののそこまで強くない物質です。少量であれば中毒になりませんが、摂取した量が多かったり何らかの症状が出たりした場合には医療機関への受診が必要となります。
- 防虫剤(パラクロルベンゼン)
- 中性洗剤
- インク
- ベビーパウダー
- 乾燥剤(塩化カルシウム、生石灰) など
毒性がない物質
毒性のない物質であれば、水を飲ませて様子をみましょう。ただし、固形物の場合などは窒息事故に注意してください。万が一、異変があればすぐに医療機関を受診しましょう。
- せっけん
- マッチ
- クレヨン
- 絵具
- 口紅
- クリーム
- 蚊取り線香
- 蚊取りマット
- 体温計の水銀
- 乾燥剤(シリカゲル) など
家庭で行うべき応急処置は?
意識がない、けいれんを起こしているなどのケースでは、ただちに救急車を呼びましょう。意識があり、脈拍や呼吸に問題がなさそうであれば、中毒事故の種類によって下記のような応急手当てを行います。
誤飲誤食した場合
誤飲・誤食した物質によっては吐き出させることで吐物が気管に入ってしまったり、症状が悪化するものもあり、家庭では吐き出させないことが良いでしょう。慌てすに、口の中に残っているものがあれば取り除き、口をすすいでうがいをするか、濡れたガーゼでふきとります。
また、誤飲・誤食した物質によって、応急処置の際に注意を要する場合があります。以下、吐き出させてはいけない物質、牛乳または水を飲ませた方がよい物質、水や牛乳を飲ませてはいけない物質に分けて解説します。
吐き出させてはいけない物質
吐き出させることで、かえって危険な状態になる可能性が高いものです。
- 石油製品
…吐物が気管に入ると肺炎を起こすため危険です。主に、灯油、マニキュア、除光液、液体の殺虫剤などがあります。 - 酸性またはアルカリ性製品
…食道から胃にかけての損傷がよりひどくなるおそれがあります。漂白剤、トイレ用洗浄剤、換気扇用洗浄剤などです。 - 防虫剤のしょうのう(樟脳、クスノキからとれる結晶)、ナメクジ駆除剤
…けいれんを起こす可能性があります。
牛乳または水を飲ませた方がよい物質
刺激性がある物質、炎症をおこす危険性がある物質では牛乳または水を飲ませます。そうすることで誤飲したものを薄め、粘膜への刺激を和らげることが期待できます。飲ませる量は、多すぎると吐いてしまうため無理なく飲める量(多くても小児で120mL、成人で240mLをこえないように)が良いとされています。
- 酸性またはアルカリ性製品(漂白剤、トイレ用洗浄剤、換気扇用洗浄剤など)
- 界面活性剤を含んでいる製品(洗濯用洗剤、台所用洗剤、シャンプー、石けんなど)
- 石灰乾燥剤、除湿剤
水や牛乳を飲ませてはいけない物質
飲ませることで症状を悪化させてしまう物質もあり、その場合は何も飲ませないようにします。
- 石油製品
…吐いてしまうと吐物が気管に入り、肺炎を起こす危険があります。また、牛乳に含まれる脂肪に溶けて、体内に吸収されやすくなってしまいます。灯油、マニキュア、除光液、液体の殺虫剤などがあります。 - たばこ、たばこの吸い殻
…たばこ葉からニコチンが水分に溶け出し、体内に吸収されやすくなります。 - 防虫剤
…牛乳に含まれる脂肪に溶けて、体内に吸収されやすくなります。パラジクロルベンゼン、ナフタリン、しょうのうなどがあります。
2.吸いこんだ場合
閉めきった場所にいる場合には、野外に出るか室内でも窓をあけ、きれいな空気の場所に移動するようにします。
3.眼に入った場合
眼をこすらないように注意して、すぐに流水で10分以上洗います。眼を洗うことが難しい場合や、コンタクトレンズが外れない場合は無理をせず、すぐに受診するようにしましょう。
4.皮膚についた場合
すぐに大量の流水で洗い流します。物質が衣服に付着した場合はすみやかに脱ぎ、汚染範囲を広げないように注意します。
中毒に対する治療法

治療は、体内の毒物を尿として排出または不活性化(毒性をなくすこと)させることが重要です。ここでは中毒に対する治療法を紹介いたします。なお、患者の病状によって、心臓や血圧、呼吸を安定させるための治療、けいれんや嘔吐をおさえる治療などが必要になるケースもあります。
1.強制利尿
中毒物質の排泄をうながすため、尿量を増加させる治療法です。急性中毒の標準的な治療法の一つとして広く実施されています。膀胱にカテーテルを入れ、1時間あたりの尿量が250~500mlになるよう点滴で水分を血管内に入れ、利尿薬投与を行います。
2.活性炭投与
活性炭投与は消化管のなかにある中毒物質を活性炭に吸着させ、中毒物質が血液中に吸収されるのをふせぐ治療法です。通常は口から活性炭を投与します。全ての中毒物質が活性炭に吸着して不活化するわけではなく、アルコール、鉄、家庭用の化学物質の多くには無効です。活性炭投与の際には下剤も一緒に用います。そうすることで、中毒物質と結合した活性炭を短時間で体外に排出することができます。
3.胃洗浄
胃洗浄は、胃のなかに残る中毒物質を回収する治療法です。口または鼻から入れたチューブを通じて水を注入し、胃の中を洗浄します。この治療法は中毒物質を飲んでから時間が経過してしまうと無効で、1時間以内に実施することが望ましいといわれています。吐物が気管に入るなど、重大な合併症をおこす可能性があるため、活性炭に吸着されない毒物の場合などに限って行われます。
4.血液浄化療法
上記の治療法を行っても症状が悪化する場合や、肝不全・腎不全などをきたしている場合では、中毒物質を除去するため血液浄化を行います。血液浄化法には、血液透析、血液吸着、持続的血液ろか透析、血しょう交換などの方法があり、中毒物質の分子量などに合わせて適した治療法が選択されます。
高齢者の中毒事故を予防するにはどうすれば良い?
高齢者の中毒事故の特徴として、身近にある家庭用品やいつも服用している薬によるものが多く、家庭のなかで「もしかしたら間違えて口にしてしまうかも…」という問題点を家族で共有できると、対策も立てやすいものです。ここでは予防法の一例をご紹介いたします。
1.勘違いによる事故を防ぐ
- 食品、薬は分けて、決まった場所に保管する
- 入れ歯洗浄剤とトローチなど、取り違えやすいものは一緒に置かない
- 高齢者のまわりに食品と間違えそうな化学製品を置かない
2.移しかえによる事故を防ぐ
- 食品以外の物を食品容器に移しかえない
- 冷蔵庫に食品以外の物を入れない
- 中身のわからないものは捨てる
3.あやまった用法による事故を防ぐ
- 使う前に必ず製品と表示を確認する
- 字が小さく読みにくい場合は家族と一緒に確認する
4.認知判断力の低下による誤飲誤食を防ぐ
- 1日分の薬ケースなどを利用し、服薬間違いのないようにする
- 認知機能低下で薬の管理が難しいケースでは、家族がその都度包装から取り出して与薬する
- お薬手帳を活用し、重複処方がないかかかりつけ薬局で点検してもらう
- 薬のPTP 包装シートは1錠ずつに切り離さない
まとめ
中毒事故が発生すると慌ててしまいますが、まずは冷静に原因物質の特定や本人の自覚症状を確認することが大切ですね。家庭内で中毒事故の可能性をシミュレーションし、原因の除去をしておくと安心です。