認知症がどんな病気かご存知ですか?物忘れがひどくなったり、「徘徊」などの行動の症状が出たりするというイメージを持っている方が多いかもしれません。「性格が変わってしまうらしい」という情報や、最近では「治る認知症」などがメディアで取り上げられることもあります。

実は、認知症にはいくつかのタイプがあり、それぞれ原因や症状が異なります。そこでこの記事では、「アルツハイマー型認知症」とよばれる認知症のメカニズムや症状について解説します。

目次

認知症ってどんな病気?

どんな病気?

「認知症」は病名ではなく、「一度正常に達した認知機能が後天的な脳の障害によって持続性に低下し日常生活や社会生活に支障を来すようになった状態」と定義されます。簡単にすると、

  • 単なる老化ではない脳の障害であること
  • 記憶や思考、判断、言葉などの脳が司る機能に障害がでること

という2つの特徴があることが分かります。

どんな症状がでる?

認知症の症状は大きく分けると中核症状と行動・心理症状の2つに分けることができます。

中核症状

中核症状とは、病変により脳の細胞が壊れ、壊れた細胞が担っていた機能が失われることで発生する症状です。最近のことが思い出せないといった記憶障害、時間や場所などが分からなくなる見当識障害、ものごとの段取りを組んで進めることができなくなる遂行機能障害などがあります。

行動心理症状

一方、行動・心理症状とは、中核症状による障害に加えて、本人の性格や周囲の環境などの要因が加わることで起こる症状です。中核症状により脳の機能が失われることで苛立ちや不安を感じ、今まで穏やかだった方も心が不安定になることで周囲に怒りをぶつけてしまうなど行動に影響する場合があります。

アルツハイマー型認知症とは?

上で見てきたような症状をきたす疾患は複数あり、「アルツハイマー型認知症」「アルツハイマー病」は認知症の症状が出る病気のひとつです。

アルツハイマー型認知症では、異常タンパク質が脳の神経細胞に蓄積することで、脳細胞が障害され脳の機能に障害が発生するといわれています。脳の機能の障害による症状(中核症状)としては、初期から記憶障害見当識障害が出現しやすいといわれています。

アルツハイマー型認知症の症状

銀杏の若葉

上で説明した症状は、アルツハイマー型認知症ではどのように現れるのでしょうか。中核症状の中でも初期から見られやすい記憶障害・見当識障害と、行動心理症状について解説します。

記憶障害

比較的最近の事柄を忘れてしまうことが多くなります。一方で昔からの習慣などは忘れにくいです。忘れ方の特徴としては、単に最近あった出来事の内容を忘れてしまうだけでなく、出来事自体を忘れてしまうことが挙げられます。

ちょっとした物忘れから始まり、数分前の出来事が思い出せなくなったり、同じ話を何度も繰り返したりするようになります。さらに進行すると、親しい家族の名前を忘れてしまうなど、重要な記憶にまで影響を及ぼします。記憶を呼び起こすのに時間がかかり、言葉が出づらいために「あれ」「これ」といった指示語が増えることもあります。

見当識障害

病気の初期から見られることが多いです。最初は時間の感覚が障害され、次いで場所の感覚が障害されることが多いです。時間の感覚が障害されると約束を守れなかったりすることにつながりますし、場所が分からないと自分がどこにいるのか分からないので迷子になったり徘徊につながったりします。

行動心理症状

行動・心理症状については、初期から中期にかけて問題になることが多いです。怒りっぽくなったり、抑制が外れてしまったりすることもあれば、妄想や幻覚を訴えることもあります。また、うつや不安を訴える一方で、逆に多幸的(気分が高揚し幸せな気分)な気持ちになったりするなど気分の変動が見られる人もいれば、意欲の低下などが見られる人もいます。

行動・心理症状は認知症の中核症状の進行に加えて、性格や周囲の環境などによって症状が変動するため、基本的には周囲の人の対応を工夫することで症状の緩和を試みますが、必要な場合には薬物療法を行ったりもします。

アルツハイマー型認知症の原因

詳しいメカニズムは分かっていませんが、アミロイドβタウといった異常なたんぱく質が脳に蓄積することで、脳の神経細胞がダメージを受けて、脳が萎縮していくことが原因という考え方が有力です。

こうした異常タンパク質は、細胞が老廃物を処理する仕組みがうまく働かなくなることで、古くなったタンパク質が蓄積・凝集されることで発生します。これに対しては、現在は有効な治療法がなく、アルツハイマー型認知症は進行性の病気です。しかし近年は、症状の進行を遅らせるための薬の開発が進んでおり、早めに発見して症状の進行を遅らせることが治療の中心となっています。

まとめ

現時点では完治する治療法はなく、進行性のものであることも事実です。病気が発見された場合には、今後症状がどのように進むのか患者さんとご家族がしっかりと理解し、必要な準備を整えることが求められます。

一方で、治療の研究・開発もさかんに行われています。「軽度認知障害(MCI)」と呼ばれる認知症の前駆症状の存在が注目され、より早期の治療が啓発されています。基礎医学の研究なども、新薬開発に期待が持たれます。