若くても認知症を発症することがあることをご存知でしょうか?映画やドラマで見たことがある、という方もいるかもしれませんね。高齢者のケースと比べ、仕事や家庭で重要な役割を担っている年代であり、認知症発症によって役割の継続が難しくなるケースもあります。ここでは若年性認知症について、症状や原因、診断方法など解説しています。

目次

若年性認知症とは

認知症、その症状とは

認知症は、慢性あるいは進行性の脳疾患によって生じ、記憶、思考、見当識、理解、計算、学習、言語、判断などに障害をきたす疾患です。

認知症の症状は認知症の原因疾患や脳のどのあたりの神経細胞が障害されているかによっても違いが出てきます。症状のうち、記憶障害や周りの状況が理解できなくなる見当識障害など、脳の障害に基づく症状を「中核症状」といいます。

一方、認知症発症によって不安、戸惑い、焦り、怒り、興奮などをきたしやすくなり、被害妄想などが生じるケースもあります。このような心理的な反応として出現する異常行動や精神症状を「周辺症状」といいます。

「若年性」認知症、高齢の場合との違い

認知症というと高齢者に特有と思いがちですが、若くても発症する場合があります。64歳以下での認知症は若年性認知症と呼ばれます。高齢者の認知症も若年の認知症も病気としては同じで、医学的には大きな違いはありません。

にもかかわらず高齢者の認知症と区別して「若年性認知症」と呼ぶのは、この世代が仕事や家庭で大きな役割を担っており、認知症の発症によって本人や家族のみならず、社会的にも影響が大きく、多くのサポートを要するためです。

若年性認知症は、物忘れが目立ち仕事や生活に支障をきたすようになっても、年齢的にまさか認知症とは思わず、病院への受診が遅れてしまうケースが多くあります。また、病院で診察を受けても、年齢的にうつ病更年期障害が疑われ、診断までに時間がかかってしまうこともあります。「若年性」特有の問題については、後述でも詳しく紹介しています。

若年性認知症の原因となる疾患とは?

若年性認知症の原因となる疾患には下記のようなものがあります。どの認知症かによって、症状も大きく異なります。

アルツハイマー型認知症

アルツハイマー型認知症は、脳の神経細胞が徐々に減り、萎縮することによって起きる認知症です。初期には記憶障害が見られ、進行すると場所や時間、人物などの認識ができなくなり(見当識障害)、日常生活が困難になります。初期には身体症状がないため、家族や周囲は気づきにくく、診断が遅れてしまうケースもあります。

脳血管性認知症

脳梗塞脳出血などが原因となって周囲の神経細胞が障害されて起きる認知症です。若年性認知症ではこの脳血管性認知症が最も多く40%を占めます(若年性認知症コールセンターより)。記憶力、集中力の低下をきたしますが、脳のどの部位に障害が起きたかによって症状が異なります。また、人格はしっかり保たれ、相手の話は理解できることも特徴です。

レビー小体型認知症

脳の中に「レビー小体」というものができることによって発症します。レビー小体型認知症では、初期は物忘れや判断力の低下認知機能障害はあまり出現しません。代わりに幻視パーキンソン症状(手足や筋肉のこわばり・動きのにぶさ・小刻み歩行・無表情)、睡眠時の異常行動(睡眠時に大声をあげる・手足を激しく動かす・急に起きあがる)といった特徴的な症状をきたします。また、頭がはっきりしているときとそうではないときがあり、日によって、時間によって症状が変化します。

前頭側頭型認知症(ピック病)

脳の前方にある前頭葉や側頭葉が縮むことにより起こり、初老期に発症するケースが多い認知症です。記憶力は保たれますが、身なりや周囲への関心が乏しくなり、人格・行動が変わっていきます。

同じものばかり食べる、など同じことを繰り返し行う常同行動がみられることが特徴です。また、言葉の意味が理解できない、物の名前が出てこない、文字の読み違い、意味もなく同じ内容の言葉をくりかえす、口数が乏しくなる、といった失語症状をきたす場合もあります。なかには、不潔な行為を平気でする、不法投棄をする、といった反社会的な行為を行うケースもあります。

アルコール性認知症

長期にわたるアルコ-ル依存による脳の萎縮慢性的なビタミンB群の不足低栄養などが複合して起こります。症状は物忘れなどの記憶障害、見当識障害などですが、意欲が低下するケース、行動に抑制が効かなくなり問題行動も引き起こすケースもあります。

「若年性」に特有の問題とは

高齢者の認知症と若年性認知症は同じ病気ですが、若年性認知症特有の問題があります。若年性認知症の特性は下記のようなことが挙げられます。

  • 若年性認知症の平均の発症年齢は51と若い(若年性認知症コールセンターより)
  • 高齢者の認知症では女性に多いが、若年性認知症は男性に多い
  • 今までと違う変化に気づいても、年齢的に認知症とは思わず受診が遅れる
  • なかなか受診に踏み切れない、もしくは本人に病気の自覚が無く、受診を拒否するケースも多い
  • うつ病や更年期障害などとの区別が難しく、高齢者の認知症よりもより高度な診断技術が必要となる
  • 休職や退職を余儀なくされるケースがあり、経済的な問題が発生しやすい
  • 介護を要した場合、主な介護者が配偶者となる場合が多い
  • 親の介護と重なり、重複介護となることがある
  • 子供の養育・教育・結婚など家庭内での課題が多い
  • 認知症を発症しても、体力がありボランティアなどの活動が可能である

若年性認知症の進行はおさえられる?治療法について

認知症の診断は、記憶障害や見当識障害、書字、計算能力などの知的機能を測る知能テストと脳の画像診断を組み合わせて行います。脳の画像診断にはCTMRIを併用することでこまかな脳梗塞や脳萎縮を検出できます。

認知症を根本的に治す治療法はありませんが、下記のような治療が行われます。

薬物療法

アルツハイマー型認知症レビー小体型認知症では、進行を遅らせる治療薬を使用することができます。認知症の周辺症状である興奮、妄想などには少量の向精神薬が有効なことがあります。

リハビリテーション

残っている機能を維持しながら、日常生活に支障となっている症状を軽減することを目的にリハビリテーションが行われます。高齢者を対象としたリハビリテーションとは異なり、スポーツや絵画、社会活動、就労支援など、ニーズに沿ったプログラムが効果的です。

もしかしたら若年性認知症?どこに相談すれば良い?

ひらめき

若年性認知症の疑いがある場合、受診はどの科にすれば良いのでしょうか?また、まずは相談したい、という場合の窓口はどこなのでしょうか?

本人、家族だけで悩まず、専門医や相談窓口を活用して、早期に支援を得ましょう。

専門医への受診

神経内科、精神科、心療内科、脳神経外科を受診します。「もの忘れ外来」「認知症外来」を開設している医療機関もあります。専門医への受診を本人が拒否するケースやいきなり専門医を受診するのは不安、という場合は、まずはかかりつけ医に相談してみるのも良いでしょう。

相談窓口

お住まいの地域でどこに受診してよいかわからない場合や、若年性認知症への対応について相談したい、という場合は下記が相談窓口となっています。地域包括支援センターでは介護に関する相談も可能です。

  • お住まいの市町村の保健福祉担当部局、精神保健福祉センター、地域包括支援センター
  • お住まいの地域の保健所
  • お住まいの地域の認知症疾患医療センター
  • 若年性認知症コールセンター

まとめ

若年性認知症では、社会生活や日常生活に支障をきたすため苦悩も大きく、家族や医療者の支援が不可欠です。最近物忘れが多くなってきた、何をしようとしていたのかわからなくなる、など若年性認知症を疑った場合は、まずは相談窓口に連絡してみると良いですね。