高齢化が進む社会の中で、認知症は非常に関心の高い病気です。認知症はもはや誰もが知っている病気ですが、認知症にはいくつかの種類があるのをご存知でしょうか?種類によっては一般的な認知症の症状とは異なって見え、認知症と気づかれていないケースも少なくありません。

認知症には主に4つのタイプがありますが、今回の記事では認知症のひとつであるレビー小体型認知症について、病気の症状、原因、治療やケアについて詳しく解説します。

目次

レビー小体型認知症とは

ドパミンの分子モデル-写真

アルツハイマー型認知症に次いで、2番目に多い認知症

レビー小体型認知症(DLB:dementia with Lewy bodies)とは、脳の神経細胞の中にレビー小体と呼ばれる異常なたんぱく質の塊が生じ、これによって徐々に脳の神経細胞が壊されることによって起こる認知症です。おもに75歳以上の高齢者に発症し、認知症の中ではアルツハイマー型認知症に次いで2番目に多い認知症です。

レビー小体型認知症(DLB)で見られやすい特徴的な5つの症状

レビー小体型認知症では他の認知症と同様に、認知機能障害として記憶障害が見られますが、初期には目立たないこともあります。また、見当識障害(時間や場所などが分からない)、認知機能障害(計算できない、物事を計画的に実行できないなど)、抑うつ症状など気分障害が見られることもあります。ここではレビー小体型認知症でみられやすい特徴的な症状を見ていきましょう。

幻視

認知機能障害には失語、失行、失認、遂行機能障害など色々ありますが、その中でもレビー小体型認知症では視覚をつかさどる後頭葉の機能が低下するため、視覚的な認知機能低下を初期から認めやすいことが特徴的です。比較的初期の段階から実際にはいない人などが見える幻視という症状があり、人や小動物、虫がいると訴えることが多く、その訴えはかなり具体的です。特に暗がりで見えやすいという特徴があります。

認知機能の変動

レビー小体型認知症では注意や覚醒レベルの変動が大きく見られることがあります。その変動は一日の内での時間単位や日数単位で見られる人もいれば長い人では週単位・月単位で見られる方もいて、はっきりしているときとそうでないときを繰り返しながら病気は進行していきます。

パーキンソン症状

手足が震える、小刻みに歩く、動作が鈍くなるなどのパーキンソン症状がみられることがあります。また顔の表情も乏しくなり、感情が読み取りにくくなります。こうした症状からパーキンソン病と間違えられることもあります。
パーキンソン病もレビー小体が原因で起こる病気ですが、パーキンソン病ではレビー小体が主に脳幹に現れるのに対し、レビー小体型認知症ではレビー小体が主に大脳皮質に現れることによって症状が起こります。いずれも、レビー小体により脳幹の神経細胞が障害され、ドパミンという神経伝達物質が減ると、脳からの運動指令がうまく伝達されず、体の動きが不自由になります。

レビー小体型認知症では、進行に伴いパーキンソン病と同じくらい体が不自由になる人もいますが、パーキンソン症状があまり起こらない人もいます。

薬剤過敏性

薬に対する過敏性、特に抗精神病薬に対する過敏性が見られる場合があります。BPSD(認知症の周辺症状)が強くて、症状を抑えるために抗精神病薬を使うことがありますが、ごく少量でも鎮静がかかり過ぎてしまい、体が硬くなって動かしづらくなったり全く動けなくなってしまったりします。また、抗精神病薬だけでなく、例えば市販の風邪薬などでも極端に眠くなったり、ふらつきが強くなったりするので注意が必要です。

睡眠時の異常行動(レム睡眠行動障害)

レム睡眠行動障害といって、睡眠中に大声や奇声をあげたり、暴れたりする異常行動がみられる症状があります。このレム睡眠行動障害が、レビー小体型認知症に特徴的な症状の一つであります。

その他

血圧や体温、内臓の働きを調整する自律神経がうまく働かず、不調をきたすことがあります。立ちくらみ、便秘、異常な発汗・寝汗、頻尿、だるさなどがあり、めまいを起こして倒れたり、気を失う危険もあります。

注意すべき変化について

家族や周囲の人はこんな変化に注意

実際にはいない人や虫が見えたり、睡眠中の異常行動など「おかしいな」と気づきやすい症状もある一方で、元気がない、ときどきボーっとしている、歩くときにつまずくようになった、といった症状は高齢者にありがちなことと思い、見過ごしてしまうことも少なくありません。しかしこのような小さな変化は、レビー小体型認知症によるものかもしれないため注意が必要です。

レビー小体型認知症かな?と思ったら

レビー小体型認知症の診断は、ほかの認知症やうつ病、パーキンソン病などとの鑑別が必要です。ご家族や身近な人に上記のような変化が見られる場合は、まずは認知症の専門医、または神経内科医へ相談してみましょう。

専門医を探す場合には、下記専門医一覧が参考になります。

また、全国には専門医や相談員がいる認知症疾患医療センターがあり、こうした相談への対応を行っています。

レビー小体型認知症の治療とケア

明るい部屋-写真

レビー小体型認知症の治療薬

レビー小体型認知症を根治する薬はなく、症状の進行を抑える治療薬として、アルツハイマー型認知症の治療薬(ドネペジル 製品名:アリセプト)が有効として使用認可されています。このほか、パーキンソン症状を抑えるための抗パーキンソン薬や、うつ症状に対して抗うつ薬を使用する場合があります。レビー小体型認知症は薬に敏感で、その種類によって症状が悪化すること(ボーっとした症状が強くなる、パーキンソン症状が強くなるなど)があるため、症状を見ながら慎重に投与されます。

レビー小体認知症の方への関わりで気をつけることは?

幻視や誤認を否定しない

幻視は、本人にとっては見えているため、「いないよ、そうじゃないよ」と否定しないようにしましょう。否定されるとかえって症状を悪化させることがあります。「虫がいる」という場合は、追い払う仕草をしたり、自宅にいるのに「帰ります」という場合は、「今日はみんなでここに泊まりましょう」と答えるなど、本人の思いに合わせて対応し、本人が安心できるようにしましょう。

幻視を起こしにくい環境の工夫

いないはずの人や虫などが見える幻視は、夜や暗がりで起こりやすいため、部屋を明るくすることが必要です。インテリアや壁紙の模様を小動物や虫と見間違うこと(錯視)もあるため、こうした環境にも配慮が必要です。

転倒に注意

パーキンソン症状によって歩行が小刻みとなることから、つまずいたり、転びやすくなったりしています。また、立ち上がった際にふらつきや、めまいを起こして倒れてしまうことがあります。立ち上がりや階段の上り下りでは手すりを使えるようにし、つまずいたり滑りやすい履物(サンダル、スリッパ、靴下)の使用は避け、足元に物を置かないなどの環境整備が必要です。

行動を急かさず、ゆっくりと対応する

パーキンソン症状による歩行の不安定さや、時間や日によって行動のムラがあります。急がせたり、無理に動かそうとすると転倒の危険があるだけでなく、緊張が強くなり上手く動けなくなります。ゆっくりと本人のペースに合わせて対応するよう心がましょう。

食べ物のムセ、誤嚥に注意

症状が進行すると嚥下機能が衰え、唾液や食べ物がむせたり、誤嚥(気管に入ってしまうこと)することがあり、誤嚥性肺炎を起こしてしまうことがあります。食事にトロミをつけたり、細かく刻むなど、むせにくい食事を工夫しましょう。(誤嚥を予防する食事内容や食事環境について、詳しくはこちらの記事「肺炎の原因にもなる誤嚥!その原因と予防法について」をご参照ください。)

まとめ

レビー小体型認知症は、幻視やパーキンソン症状があらわれる認知症で、比較的高齢者に起こりやすい認知症です。アルツハイマー型認知症の治療薬の一部が有効として使用されていますが、治療薬はあくまでも症状の進行を抑えるもので、障害された身体や認知機能に応じて対応やケアが必要となります。ご家族や周囲の人に思い当たる症状がある場合は、早めに専門機関に相談してみましょう。