前置胎盤は、確定診断されれば100%帝王切開分娩になる胎盤の位置異常です。
胎盤が赤ちゃんの出口(内子宮口)を塞ぐ形で子宮の壁に付着している状態なので、もし経腟分娩すれば子宮口が開くに従って胎盤が剥がれて大量出血を起こすことになるため、帝王切開術が必須となります。

ここでは前置胎盤の原因や症状、お母さんと赤ちゃんへの影響などについてお話ししたいと思います。

目次

前置胎盤ってなに?

胎盤が正常より頸部に近い位置で子宮壁に付着し、赤ちゃんの出口(内子宮口)にかかっていたり覆っていたりする状態をいいます。全分娩の0.3~0.5%に発生すると言われていますが、近年の帝王切開率上昇や高年齢出産によって増加傾向にあります。

前置胎盤のうち5~10%では、胎盤と子宮が癒着して胎盤がはがれない前置癒着胎盤となる可能性もあり、より危険度の高い状態になります。前置胎盤の再発率は4~8%となっており、次回以降の妊娠時に癒着胎盤となる確率も高くなります(「メディックメディア「病気が見える」より)。

前置胎盤の分類

前置胎盤は以下の3つに分類されます。経腟超音波検査を用いて診断されます。

全前置胎盤(ぜんぜんちたいばん)

胎盤が内子宮口を完全に覆っている状態です。

部分前置胎盤(ぶぶんぜんちたいばん)

胎盤が内子宮口の一部を覆っている状態です。

辺縁前置胎盤(へんえんぜんちたいばん)

胎盤下縁が内子宮口縁に達している状態です

妊娠初期から中期なら内子宮口から遠ざかる可能性も

妊娠初期から中期にかけては、子宮下部が伸展することによって胎盤が内子宮口から遠ざかり、一見上へ移動したように見えることがあります
そのため、妊娠初期~中期に上記の分類に当てはまったとしても、「前置胎盤疑い」として経過を観察していくことになります。

前置胎盤の確定診断は妊娠24週以降が望ましいとされ、妊娠31週までに行われます。

前置胎盤になるリスクが高い人とは?

前置胎盤-写真

前置胎盤の発症メカニズムの詳細はまだ不明ですが、下記の状態に該当する方は、前置胎盤になる危険性が高いとされています。

  • 経産婦(多産婦)
  • 帝王切開分娩をしたことがある
  • 子宮内容除去術(人工妊娠中絶や流産手術)を受けたことがある
  • 高年齢妊娠
  • 多胎(双子や三つ子以上の妊娠)
  • 喫煙妊婦
  • 子宮筋腫手術(子宮筋腫核出術)を受けたことがある

特に帝王切開術を受けたことのある方が前置胎盤になった場合、癒着胎盤になる確率が高くなるため、輸血や子宮摘出のリスクが高くなります。

症状はある?

前置胎盤は一般的には無症状です。
ただし、腹痛を伴わない突然の性器出血(警告出血)や大量性器出血があった場合はすぐに受診が必要となり、その後は入院になることがあります。警告出血は少量で一旦は安静により止まることがほとんどですが、次第に出血量が増えていきます。

出血の原因は、子宮収縮の増加、子宮下部の伸展、子宮口の開大によって、胎盤やその周囲の血管が切れるためです。妊娠末期には出産に向けて子宮収縮の頻度が増し、子宮口も少しずつ開いてくるため、出血量が多くなります。出血のコントロールが難しい場合には、妊娠週数が浅くても帝王切開分娩を行うことになります

どんな影響があるの?

お母さんや赤ちゃんへの影響としては下記のようなことが挙げられます。
もちろんこれらは、すべての人に必ずあてはまるわけではありません

出血

出血することにより貧血になります。 また、恐怖感や心配が募るため、精神的負担が大きいかもしれません。さらに、出血を繰り返す場合にはベッド上安静などの制限が加わるため、ストレスが溜まりやすくなります。

大量出血となった場合には、母子の生命が危うくなる合併症を起こすこともあるため注意が必要です。

早産のリスク

前置胎盤の平均分娩週数は34~35週との報告が多く、前置胎盤でない場合と比べて早産となる確率が高くなります(産婦人科診療ガイドラインより)。
出血がコントロールできない場合は、妊娠週数が浅くても帝王切開分娩となる場合があり、赤ちゃんが未熟な状態で出生となることがあります。早産児は様々な合併症を起こす可能性が高く、入院が通常よりも長くなります。

子宮摘出のリスク

前置胎盤の3.5%の例に子宮摘出が必要だったという報告があります(産婦人科診療ガイドラインより)。
出血のコントロールができない場合や、癒着胎盤を合併していた場合などには、大量出血を止める最終手段として子宮摘出が行われることがあります。

まとめ

前置胎盤は、初期~中期に疑いがあっても、妊娠経過と共に子宮の変化により内子宮口から遠ざかることが多くあるため、悲観せずに経過を見守りましょう。

前置胎盤と確定診断を受けた場合は安静を心がけ、出血やお腹の張りなどの症状に注意しましょう。
帝王切開分娩は不安に感じるかもしれませんが、一人では抱え込まずに出産施設のスタッフに相談することが大切です。