羊水は、赤ちゃんを刺激や圧力から守るだけでなく、赤ちゃんの肺や胃などの消化器をはじめ、全身の臓器の発達と成熟に関わるという重要な役割を担っています。この羊水が通常より多い状態を羊水過多といい、出産においてさまざまなリスクが出てくるため注意が必要です。ここでは、羊水過多症の説明と、原因、妊娠中や出産時のリスクなどについてお話ししたいと思います。

目次

羊水過多症ってなに?

羊水量を直接測ることは困難なので、経腹超音波(お腹からのエコー)で計測した推定量になります。エコーの所見でいうと、最大羊水深度(MVP)が8cm以上、羊水インデックス(AFI)が24cm以上の状態をいいます。羊水過多で、さらに自覚症状、他覚症状が出たものを羊水過多症と呼びます。

自覚症状として、軽症の場合はお腹の張り(腹部緊満感)、重症となると呼吸困難、起坐呼吸(体を起こしていないと呼吸がしづらい状態)、切迫流(早)産などがあります。

羊水過多の原因

羊水過多は、約20%に胎児の先天性奇形がみられ、60%が原因不明とされています(「病気が見える」より)。現在わかっている羊水過多の主な原因として下記の状態が挙げられます。

母体側の原因として妊娠糖尿病(GDM)・糖尿病合併妊娠が知られております。また、赤ちゃん側の原因として無脳症、水頭症、二分脊椎などの神経管閉鎖不全症または食道閉鎖症、十二指腸・小腸上部閉鎖症、横隔膜ヘルニアなどの消化器異常などがあります。

赤ちゃんはお腹の中で、羊水を飲み込んで尿として排出するため、妊娠中期以降は、羊水の成分のほとんどが赤ちゃんの尿(胎児尿)になります。上記のようなさまざま原因によって、胎児尿が多く産生されたり、赤ちゃんが羊水を飲み込めなくなったり、消化管を通過できなくなったりすることで、羊水は増え続け、羊水過多症へと進行します。これらの原因の中で、十二指腸閉鎖症ではダウン症候群を合併することが多いといわれています。

妊娠中のリスクと治療

羊水量が過度に増えすぎることによって、子宮収縮が頻繁になり切迫流(早)産になったり、腹部緊満感、呼吸困難、悪心・嘔吐など母体への負担が増していきます。これらの症状に対しては安静と子宮収縮抑制剤の投与が開始され、重症の場合は羊水除去(お母さんのお腹から子宮内の羊水腔に穿刺針を刺して羊水を吸い取る治療法)によって子宮内の減圧が行われます。

また、羊水過多と判定された場合、赤ちゃんになんらかの先天異常を伴うことがあるため、その原因を検索し、先天異常が診断された場合には、分娩方法を赤ちゃんに負担が少ないものにしたり、出生後の治療方針を相談したりなどして、赤ちゃんにとってよりよい治療が受けられるように準備をしていきます。

出産時のリスクと治療

コップの水-写真

羊水過多によって出産時にもさまざまなリスクがあります。

1.前期破水

陣痛が来る前に破水することを前期破水と言いますが、羊水過多の場合、赤ちゃんを包む膜も引き伸ばされ、菲薄化した状態になっているため、前期破水のリスクが高い状態になります。前期破水後、赤ちゃんのいる子宮内にばい菌が入りやすい環境となるため、長時間破水した状態のままにしておくことは非常に危険です。赤ちゃんの状態が悪くなれば帝王切開になる可能性もあります。

2.臍帯脱出

羊水過多では、通常より赤ちゃんが浮かぶスペースが広くなるため、赤ちゃんが頭を下に向けている通常の姿勢(頭位)ではなく、骨盤位(逆子)や横位などの胎位・胎勢異常がみられる場合があります。この場合、破水時に臍帯が赤ちゃんより先に出てしまう臍帯脱出の危険性が高く、赤ちゃんへの酸素などの供給が途絶え、非常に危険な状態となるため、緊急帝王切開の必要があります

3.微弱陣痛、遷延分娩

子宮の筋肉が伸びきった状態が続くため、有効な陣痛が来ないまま微弱陣痛が続き、出産が長引く危険があります。遷延分娩は、分娩開始(陣痛の間隔が10分以内になった時点をいいます)後、初産婦の場合は30時間、経産婦の場合は15時間を経過しても出産に至らない状態をいいます。分娩時間が長時間になり赤ちゃんの状態が良くないと判断された場合は帝王切開になる場合もあります。

まとめ

羊水過多症は、原因不明な場合が半数以上を占めますが、赤ちゃんになんらかの先天異常を伴う場合もあり、妊娠・出産の経過においても様々なリスクが予想されるため、非常に不安なことが多いかと思います。事前にどんなリスクがあるのかを知っていることは、不安も招きますが、そのリスクに対して準備ができるということでもあります

羊水過多の場合、早産のリスクもあるため、NICUのある大きな病院での管理になり、通常の妊婦健診よりも詳しい検査を行って赤ちゃんの状態を詳しく診ていくことになります。出産後すぐに赤ちゃんの治療ができる体制が整っていることは、お母さんにとっても赤ちゃんにとっても重要なことです