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便潜血が一度でも陽性だったら大腸がん早期発見の為に精密検査を受けましょう。

大腸がんはがんの死亡原因部位のうち、男性で3位、女性では1位です(厚生労働省「人口動態統計年報 死亡第8表」)。

医師の検診を受けてほしい理由。健診やがん検診を受けようか迷っている方へ」の寄稿後、大変ありがたいことに多くのご意見を頂きました。その中に
「検診の重要性は分かった。でも検査は辛いから嫌だ。特に大腸の検査は痛いと聞いた」
というご意見がありました。

大腸内視鏡検査は確かに楽ではありません。しかし、「痛くない」検査を受けることは可能です。「痛くない」検査は「安全で見逃しが少ない」検査につながります。

どうすればよいか。答えはただ一つ
「良い医師を選ぶ」
これに尽きます。大真面目な話で、大腸内視鏡は医師の技術差が非常に大きく影響します。

こんな調査があります。
「医療機関を受診する際に重視することは?」

その一位は
「アクセスの良さ」(自宅や職場に近いこと)
です(平成23年 受療行動調査概況 厚生労働省)。

大変重要ではありますが、医師の仲間内では
「優れた医師に診てもらうこと」
を重視します。

緊急は別として、多少遠方でも優れた医師に診てもらう。治療内容や経過が大きく変わる可能性がある為です。

大腸内視鏡検査の技術には大きく二つあります。

  1. 挿入技術
  2. 診断技術(能力)

大腸内視鏡はまず空気を少し入れながら肛門から盲腸まで挿入し、引き抜きながら観察します。この挿入の際に痛みが生じる可能性があります。挿入が痛くなくスムーズで早い程、観察に長い時間をかけられるため、診断精度は向上します。

十分な観察を行うことでポリープの発見率が向上することを示した論文も報告されています。ポリープやがんなどの発見率は、引き抜きながらの観察を6分以上かけて行った内視鏡医の方が高いことが示されました(Barclar RLら New England Journal of Medicine 2006)。

上手な大腸内視鏡検査を受けてほしい人

名医
  • 女性
  • 便秘がちな方
  • 開腹出術歴のある方(帝王切開や婦人科系手術も含みます)
  • 過去に大腸内視鏡検査で辛い思いをされた方

上記の方は経験から、大腸内視鏡検査の挿入が難しいイメージがあります。一方、

  • 若年男性

は挿入が簡単な方が多い印象があります。

まことしやかに内視鏡医の間で言われていることには、

  • 日本人女性は体格の割に腸が長く、固定されていないため挿入が難しい。
  • 肉食の多い欧米人と比較するとS状結腸が長いために挿入が困難なことが多い。
  • 開腹手術をされた方は腸が癒着していることがあり、腸に無理な力がかかり痛みが出やすい。

腸の内側自体は痛みを感じません。痛みを感じるのは腸が引き伸ばされるときです。大腸は薄く、強い力がかかると破れてしまい、手術となることもあります。痛みを感じたらすぐに伝えてください。「痛くない」ということはそれだけ「安全」ということです。

内視鏡を行う立場からすると患者さんが「痛くない」場合には、挿入に多少時間がかかっていても落ち着いて検査を行えます。

挿入が簡単と思われる方は、「アクセスの良さ」をもとに受診されてもよいと思います。一方で難しいと思われる方、不安を抱えている方には最初は是非とも「上手な医師」に行ってもらいたいと思っています。検査が辛いといくら早期発見と言われても繰り返し検査を受けたくなくなるのは当然です。

上手な医師の探し方

上手な医師の探し方

では大腸内視鏡検査の「良い医師」はどこにいるのか。
私は大学病院、地域中核病院、クリニックと勤務する中、「達人」と呼ばれる先生方の手技を見学・研修させて頂き挿入技術向上を目指してきました。

「よい医師」は大病院にいるとは限りません。大病院には初めて内視鏡を握る医師もいます。口コミは重要で、評判の良い先生を探すのは一つの方法です。

ここでは、私の知る中で最も良いと思っている先生とその手技をご紹介します。

その大腸内視鏡の挿入法は
「無痛」の「無送気軸保持挿入法」です。

これは消化器内視鏡医には全国的に有名な「東葛辻仲病院」が推進している手法です。
特徴は「無痛」そして「無送気」です。

大腸内視鏡検査の苦痛の主な原因は大腸を引き伸ばしてしまうことです。別の要因に「挿入時に送りこんだ空気」によって腸がパンパンに膨らんでしまうことも挙げられます。空気を入れないと腸がつぶれたままで先が見えにくいのですが、その状態で挿入する方法が「無送気軸保持挿入法」です。

当時私は既に消化器内視鏡専門医でした。この方法を知り「行列のできる患者にやさしい“無痛”大腸内視鏡挿入法」を購入して実践しましたがなかなか上手くいきません。そこで東葛辻仲病院に連絡し松尾恵五院長先生の手技を見学させていただきました。見学に伺った日、和歌山県の患者さんからの予約が入っていました。

患者さんは声を挙げる事もなく、痛みをこらえている様子もありません。松尾先生は理論を解説しながら、時には実際に内視鏡を私に持たせながらでも痛がらせることなく理論通りに検査を進めていきます。

これまでに見学させていただいた中には、理論通りにいかないと「この患者さんは例外だな」とむしろ例外な患者さんの方が多いのではという先生もいました。内視鏡を他人に持たせると余計な力がかかるので、教えてもらうというのは上手な先生の手技を見させていただくか、自分自身の手技を見てもらいながら指示してもらうことを指します。実際の感覚を知ることができ、大変勉強になりました。

患者さんの足がほんの少し動いた時、松尾先生は「今、患者さんの足動いちゃったよねえ。痛がらせたなあ。患者さんは少しの痛みはこらえている事が多い。痛いと言うのはよっぽどの時だよ」とおっしゃいました。

常に向上心を持たれており、内視鏡が上手な先生がいると聞けばいまだに見学に行かれるそうです。「若い医師もどんどんうまくなってるね。でも俺ももっとうまくなってるよ」と話されたのも印象的でした。見学だけの予定でしたが頼みこみまして研修を受けさせて頂きました。

東葛辻仲病院には関連の病院も多く、また、そこで研修された先生方もたくさんいらっしゃいます。またこの挿入方法は全国に行っている先生がいます。近くに評判のいい先生がいるかわからない方は是非一度関連の先生や無送気軸保持挿入法で検索してみてください。

日本は皆保険であり、どこの施設で受けても同じ検査は同じ料金です。それは初めて大腸内視鏡を握る医師が行う検査も、「無痛」の検査を行える医師の検査も同じ料金であることを意味しています。

その良し悪しは別の議論が必要ですが、今の日本では選ぶことができます。今ある環境の中でできるだけよい検査を受けてほしいと思います。検査を恐れるあまり疾患が手遅れとなるのはあまりに悲しいと思うのです。

「辛い」ことがあってもその先により良くなるのであれば耐える必要もあるでしょう。手術などはそれに当たります。ですが、検査はその前段階です。少しでも辛くない方法で受けてほしい。それが、早期発見と健康維持につながると信じています。