頭を抱える女性

精神科医が教える「妄想」の種類と対処法:”感情への共感”が対応の鍵

今回のテーマは妄想です。妄想は精神科診療でよくお目にかかる症状で、次に記すような状態の患者さんの診察を行うことがあります。症例は特定されないよう若干改変しています。

警察官から「保護をしたのだが、急に妄想を言い出して、意味不明なことを言い落ち着かなくなった」とのことで診察の依頼があり、30代女性が精神科救急外来に受診となった。救急隊や警察官などたくさんの人に囲まれて診察室に入る。派手なドレスを身に着け、濃いめの化粧をしていたのだろうが、強く取り乱したからか、衣服は至る所が破けていて、化粧も激しく乱れている。椅子に座るよう促すが、診察室の入り口でじっと立ち止まり、意味不明な言葉をぶつぶつとつぶやく。怯えたように1点を見つめていたかと思うと、急に大声で「ダメ、わたし、コロされる」「ウワーッ」と絶叫し、頭を抱えてうずくまり、その頭を壁に叩きつける。やっと椅子に座っても、肩で息をするほど呼吸は荒く、全く落ち着きをみせない。

言動が妄想に支配されてしまうと、上記のような状態になることもあり、日常生活に綻びが生じてきます。

今回は妄想にはどのようなものがあるか、またもし身近な人が妄想を訴えてきた場合どのように接したらいいかを考えていきましょう。

妄想とは

妄想とは、

  • 事実でない内容を
  • 事実であると強く考え、
  • 周囲がどんなに違うと言っても聞く耳を持たない

このような誤った確信のことを言います。

日常会話でも「妄想」という単語を使うことがあるかもしれません。健常と病的の境目はどこでしょうか。「白馬に乗った王子様が私を迎えに来る」という願望を具体例として考えてみましょう。

 

「もし、白馬に乗った王子様が私を迎えに来てくれたらいいなぁ」と「もし○○ならいいなぁ」だったら空想で良いと思います。小さい女の子がこのようなことを言っていたら「かわいいねぇ」でおしまいでしょう。

しかし「白馬に乗った王子様が絶対に私を迎えに来てくれるの」と断言するようでは空想という言葉では収まらないかもしれません。十分な年齢を重ねた女性がこのように言い、男性からの交際申し込みを烈火のごとく断り続けていたとしたら、それは妄想と言ってもいいかもしれません。

病的な妄想かどうかは、強く確信してしまい日常生活に支障をきたしているかどうか、が一つの目安でしょう。

妄想の原因となる病気

統合失調症や躁うつ病、妄想性障害、認知症、せん妄といった精神疾患でよくみられる症状ではあります。しかし妄想が出たから即ち精神疾患というわけではなく、脳炎や脳腫瘍といった脳の病気や、甲状腺などの内分泌疾患、膠原病などの身体疾患でも妄想がみられることがあります。また、アルコールや、覚せい剤など違法薬物を使用することでも妄想が起こります。その他にも内服薬の副作用が原因であったり、妄想を訴える人の影響を受け、妄想を共有するようになってしまう感応精神病という病気であったりと原因は様々です。

妄想の種類

妄想の内容について具体例を交えつつ大まかに分類して説明していきます。

被害妄想

「部屋の外から誰かが見てるんだ(注察妄想)。だからカーテンは必ず閉めないといけない。毒を入れられている(被毒妄想)。だから食事には手を付けられない。私が今こうしているのも電波であやつられるんだ(物理的被害妄想)。」

といったように誰かに危害を加えられるのではないかといった妄想です。

冒頭の女性の症例のように「殺される」というのは被害妄想でよく見られます。

統合失調症の症状としてこのような妄想を訴えられる方が多いです。

その他の被害妄想として、アルコール依存では、「自分のパートナーが浮気をしている(嫉妬妄想)」と訴える方が多く、認知症では「財布、印鑑、保険証が盗まれる(盗られ妄想)」といった訴えがよくみられます。

微小妄想

「自分は大きな病気にかかってしまった。現代の医学では見つけることもできないような病気だ(心気妄想)。でも治療は出来ない。もう1銭も財産はないのだから(貧困妄想)。今社会が不景気なのはすべて私の責任だ(罪業妄想)。自分は永遠に苦しまなければいけず、死ぬことすらできない(不死妄想)」

などと訴える方がいます。

自分を過剰に小さく評価してしまう妄想で、微小妄想は重度のうつ病でみられることが多いです。

誇大妄想

「私は皇族の人間だ(血統妄想)、私はあの有名人から愛されているのだ(恋愛妄想)、私は選ばれた人間なのだ(宗教妄想)」

など訴えます。

自己を過大に評価してしまう妄想で、躁状態や統合失調症でみられます。

妄想を訴える人への対応方法

女性をなだめる男性

再び冒頭の症例で考えてみましょう。「殺される」と言って落ち着かない人に対して「私があなたを殺すわけないでしょう」と説明しても受け入れてはくれません。逆に「あなたも私を殺すやつらの一味か」と強い疑念を抱き、一切の関りを拒否してしまうようになってしまうかもしれません。

相手の妄想を否定する前に、まずは相手の気持ちを考えてみます。誰かに殺される、という状況になったとき、自分だったらどうなるでしょうか。おそらく「怖い」という感情に支配されるのではないでしょうか。そこで相手が感じているであろう「怖い」という感情に対して共感をするのがよいでしょう。

「怖い思いをされているのですね。大変お辛いのではないでしょうか」といったような声掛けをすることで感情に寄り添う姿勢を見せることができれば、相手との信頼関係が築きやすくなります。信頼できる人がそばにいると安心できますし、「怖い」という思いも和らげられることができます。

共感するうえで注意する点としては、妄想の内容には共感しないということです。妄想の内容に共感してしまうと、妄想がより現実味を増すようになり、妄想の内容がより強固となってしまいます。内容に共感するのではなく、妄想によって生じた感情に共感するのです。

 

冒頭の症例ですが、相手の「怖い」という感情に共感を示すことで時間はかかりましたが、徐々に落ち着きがみられ、ゆっくりと話が出来るようになりました。話を進めていくうちにわかったことですが、この女性は某国出身でホステスとして非常に評判が良かったそうです。しかし不法就労とのことで保護され、出身国に送還の手続きが取られることになったところで突然あのような錯乱状態になったそうです。より深く話を聞いていくと、どうやら母国で家族に多額の借金があり、人身売買のような形で日本に来たとのことでした。「借金を返しきれないようでは家族もろとも命はないと思え」と強く脅されていたのです。

であれば、「殺される」と言い落ち着かなくなるのも自然なことでしょう。

それが真実なのですから。

嘘のような事実もありますし、現実だと思っていることが妄想だということもあります。どんな内容でも、決めつけないで相手の話を聞かないといけないのかもしれません。