物忘れをする、夜に興奮状態になる、昼夜逆転する、ぼんやりとする、言っていることのつじつまが合わない…といった症状がみられる「せん妄」という病気。認知症に似ている症状ですが、実は全く異なる病気です。
若い人にも見られますが高齢者の方に発症しやすく、何らかの疾患や薬の服用、入院生活による生活リズムの変化などがきっかけとなります。高齢の入院患者さんでは10%以上にみられるといわれています(MSDマニュアルより)。
この記事では、せん妄の症状、予防、治療について解説しています。
まずはチェック!せん妄では何が起こる?
せん妄は、入院中の方、特に高齢者によくみられる病気です。以下に、せん妄の主な症状を簡単に示します。
- 辻褄の合わないことを話す
- 怒りっぽくなる
- 場所や家族のことが分からない
- 変なものが見えると訴える
- 意識がぼんやりしたり、夜に眠れなかったりする
- なんとなく様子がおかしい
意識障害のない認知症とは異なり、意識障害を基盤とする病態です。しかしもともと認知症を患っている・疑いがある患者さんの場合、こうした症状がせん妄によるものなのか認知症によるものなのか、見極めが難しいとされています。そこで、普段の様子をよく知る家族などからの情報が診断に有益です。
認知症との違いや詳しい症状については、「せん妄は認知症とは限らない…その原因と症状とは?」を参考にしてください。
せん妄は、アルツハイマー型認知症などの神経変性疾患による症状と異なり、適切な対応をとることで回復・改善が期待できます。しかし、その判断を誤ると回復も遅れてしまいます。
日頃患者さんの様子をよく知っている家族や身近な人がせん妄を理解し、環境の変化からくるストレスなどをできる限り取り除くといった対策をとることが重要となります。
身近な人ができるせん妄の予防法とは?

それでは、せん妄の予防について家族や身近な人ができることを見ていきましょう。
1.今後起こることを教える
せん妄を起こす恐れのある患者さんにとって、予想しないことが起こることは避けたいものです。入院中であれば、今後のスケジュールを丁寧に説明することが大切です。
2.感覚を遮らない
目や耳など、感覚を遮られてうまく情報が入ってこないことは大きなストレスとなる場合があります。普段、補聴器やメガネを使っている患者さんの場合は、それらを身につけてあげることが必要です。
また、睡眠・覚醒リズムが乱れて昼夜逆転になると夜間にせん妄がおこりやすくなります。昼間はカーテンを開けるなどして部屋を明るくして患者さんにできるだけ起きていてもらうようにする工夫が大切です。患者さんの好きな音楽やテレビ番組を流すのも効果的です。
そのようなものが無い場合は、家族やペットの写真などを飾る、というのも1つの手です。ここでお勧めなのは、使い慣れたカレンダーを置くことです。今日が何月何日なのかを知ることは、患者さんの大きな安心に繋がるからです。
3.できる限り現状を把握させる
無理強いは禁物ですが、患者さんが置かれている状況を丁寧に伝え、少しでも患者さんの現状の把握・理解に繫げることも大切です。時間や場所、今後の治療などについて家族や身近な人だからこそできる伝え方を考えてみましょう。
もし、せん妄になっても…解決のヒント
脳の変化によって病気となる認知症などとは違って、せん妄は症状が出る前の状態に戻ることができるのが特徴です(医学的には「可逆性」と呼ばれます)。ですので、もし身近な人がせん妄の状態となっても、慌てずに適切な対応を行うことが大切です。
家族がそばにいると、患者さんのせん妄の症状が良くなることは、医師や看護師ならよく経験することです。ポイントは、以下の2つです。
肯定的に接する
錯覚や幻覚に同調する必要はありませんが、無理に訂正する必要もありません。
医師との協力が不可欠
せん妄の治療では、医師の判断によって薬が用いられます。医師とよくコミュニケーションをとってせん妄を和らげるためには、家族の理解が必要です。
まとめ
せん妄状態は、いわば患者さんのストレスの産物といえます。病気や入院などの普段とは違う状況がきっかけとなって現れますので、身近な人や家族の協力が必要となってきます。いざというときはあわてずに、親身になって対応していきたいものです。